見るよ
『明日、学校で話を聞く』
久瀬に今日、依頼者の妹に会った時のことを伝えるとそう返事がきた。
翌日の朝、久瀬と教室で会うと有無を言わさず僕を連れ出し、普段誰も来ない教室へと押し込んだ。
「この前、あげたお札を見せてみ」
「それが……」
真新しかったお札がボロボロになっていて小さな紙の破片が鞄の中に散乱していたことを伝えた。
「そうか……うん」
途端に久瀬は眉を寄せ、表情を堅くさせた後、普段の顔を戻しつつ聞いてきた。
「そんで、なぜに依頼者と会ってたん?」
「分からない。学校から帰っていたはずなのに隣の地区にいた。そこに依頼者がいたんだ。道に迷って偶然にも会ってしまったとかしか言えない」
「道に迷って? 何かに化かされたのかね?それにしても、偶然なんかな。ソレは……」
仕組まれたんじゃないか?と久瀬は言う。
「偶然にしては出来すぎとる。あやかしのせいで道に迷わされ、会わされたんじゃないんかと思えてくるわ。
それにお札がダメになるってアレだわ~。アカンやつや」
よく無事だったな、と久瀬は僕を見て言った。
お札がボロボロになるほどの強い穢れで、逃げたのは正解だったと。
それほど、強い相手なのだろう。
だから、光夜叉があんな行動を僕にしてきたのかもしれないが、しばらく彼に訊くのは怖い。
無意識に口元を手の甲で押えていた。
「穢れはあやかしと違って魂に干渉するんや。障れば何をされたのか分からへん」
「でも、自分はまだ無事だが、依頼者の人を置いてきてしまった……彼女は無事ではないかも…………」
「そうなかもな」と言う言葉に依頼者を黒い霧から置いてきてしまったことに嫌悪感が伸し掛かった。
自分、一人だけあの場から逃げ出した。
彼女の背後にいた靄は、僕がいなくなった後、彼女を襲っていただろう。
黒い霧に依頼者が襲われる場面を想像した僕に久瀬は言った。
「依頼者の妹さんだけではない。彼女と肝試しに参加した人逹、全員が無事ではないかもしれん」
久瀬は学校を休んでいる間、肝試しに参加した人達と連絡を取ろうとしたらしいが、ほとんどの者と連絡をとれなかったという。
「SNS上やツテで調べてもらったけど、ダメやったね。
特に主催者はすでに亡くなっていたよ。肝試しにした日の翌日に事故に遭っていた。他も人達も似たようもんやった。行方不明だったり、連絡が取れなかったり……な。
けど、その中で連絡をとれた人もおる。昨日、会いにいったよ」
「どうだった?」
「大した話はできなかったが、これを渡されたよ。当時、カメラをまわしていたみたい」
鞄の中から小型のデジタルカメラを取り出した。所々に傷や凹みがあり、使い古されている。
「どう、見たい?」
「久瀬はもう見たのか?」
「まだ。だが、俺は見ない方がいいと思っている。『呪われる』までは、な」
「え…?」
『呪われる』って言葉を聞き、思わず久瀬を見つめてしまう。
呪われていると口にするわりには普段と変わらない態度であるせいで、イマイチ危機感が薄い。
「俺にも届いた、同じ動画が。がっつり関係者側になってしもうたわぁ」
「大丈夫なのか? それ」
「さぁな。ただの嫌がらせや脅しの可能性があるが、『呪われる』対象になったことは確かかな。だから、なんとかしようと思っとる」
こういったバイトをしていると時々、自分の方にも危害を加えようとするモノが出てくるという。
「上にも報告するから、心配せんでええよ。それより、神代にも累が及ぶかもしれん」
そう言った久瀬は、僕に向かって頭を下げた。
「ごめん! 迷惑をかけるかもしれない」
頭を下げられ、戸惑っている自分に久瀬は続けて言った。
「神代の力があれば…って、どこかで頼っていた。自分の甘さのせいで神代が危険な目に遭わせてしまった。本当にごめん!」
「か、顔をあげて。僕なんかに謝らなくていいよ」
どうすればいいのか分からないから。
それにこの『チカラ』は光夜叉がいなきゃ使えない。
僕自身の『チカラ』ではない。
僕は役に立たないただの人間だ。
「久瀬はそんな僕に頼ろうとしてくれた」
クラスで一人、浮いている僕に声をかけてきた変り者の転校生。
光夜叉がいうように利用されているだけかもしれない。
でも、こんな僕に声をかけてくれた人だから、その分だけでも何か返したい。
「僕も見るよ」
カメラに視線を向けた後、顔を上げた久瀬と目を合わせて言った。




