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光夜叉  作者: ソラネ
第二章
32/128

ダメかもしれない


 依頼者の兄が帰った後、僕達はすぐにファミレスを出た。


(どういうことなんだろう?)


 依頼者の兄の話が本当なら、妹は嘘をついており、家族に対しても演技しているということだろうか?

では、どうして、あの動画に怯える演技をし、久瀬に相談したのか。あの動画は……いったい…………。


「もう、ダメかもしれんな」


 陽気さは陰に潜め、難しい顔をして考えていた久瀬はポツリと諦めの言葉を溢した。


「いやいや、悪いことを口にするのは良くないな。まだ調べてないこともあるしな、うん」


 「何がダメなんだ?」と聞けば「気にしないでくれ」と返され、久瀬は携帯を取り出した。

携帯画面に打ち込み始めたのを見て、何かを調べているか、メールでも打っているのだろうと判断した。


「あの妹さんの周りを調べてみようか。特にオフ会に参加した人とはコンタクトを取りたいわ」


 やることは多いわ~、と言いながら携帯画面から顔を上げた。


「…というわけで学校を休んで単独調査する」

「一人で会いにいくのか?」

「ついでにあの心霊スポットに行くつもりや。あと神代、妹さんに一人で会いに行こうとなんてすんなよ?」

「会おうとは思わないよ」

「だろうな。でも、一人の時は気を付けた方がいいぞ。あっ、そうだ。出来るだけ先輩と一緒におるようにした方がええで」


 お前、一人だとなんか危なかったしい。

久瀬はそういってぽんぽんと軽く頭を叩いた。


「誰かといればアイツらも寄ってこーへんからな。じゃあな」






「今日も久瀬は体調不調で休みだ」


 担任教師から久瀬の不在を告げられた生徒はどこかへと散っていく。

僕は知らなかったが、久瀬は学年性別を問わず、占いや人生相談という体でオカルトに関する相談もしていたようで。


「ねぇ、アナタ。スバルくんと最近仲がいいよね? そんなにひどいの?」

「まぁ……そうだね」


 「三日間も休みなんて…心配だねぇ」「お見舞いに行きたい」と言う声を耳にしながら、実はある件で調査しているから学校に来ていないだけです、と心の中で答えておいた。


――ほんと…人気者だねぇ……。


 光夜叉は平然と姿を現すが、誰も視えていないため、お構い無しにプカプカと浮かんで僕に鬱陶しく抱き付いてきた。


――特にあの子はそうだねぇ、久瀬昴の護符で守られているね。

その代わり、君をみつけて近付こうとしていたけど、気付いていた?


 思わず辺りを見回した僕に光夜叉は、クスクスと笑って「大丈夫だよ」って言った。


――こうすれば、大抵のモノは近寄ってこないよ。それに君は一人でいるから寄ってこられたりするんだ。


 誰かと一緒にいればいいよ、なんて簡単に言うが他者との溝を埋めるのはよほどの切っ掛けがないと難しい。

僕にはこの出来てしまった溝の埋め方や飛び越え方を知らない。


このクラスに紛れ込んだ架空の生徒によって齎された不和は、今も続いているのである。

久瀬の介入により、緩和した部分もあるかもしれないが、彼がいなくなることで元の空気に戻ってしまうほどだ。


僕には居場所が………


――ヒカル、ヒカルってば!


 呼びかけられ、ぼんやりしていた意識を現在へと向ければ僕の机の前には人が立っていた。


「神代、これ頼むな」


 田中が前の授業で回収したクラス分のノートを机の上に置いてきた。

数学の授業で回収したノートだ。担当の生徒が職員室に持っていくよう頼まれていたはずだが……。


「なんで自分が……」

「お前、ヒマだろ? 持っていってくれよ。それとも、何かあんのか?」


 やや威圧的な態度で見下ろして、さも自分はお前より偉いといっているようだ。


「別に何もない、けど……」

「だったらいいじゃん。頼んだからな、じゃあな」


――自分の仕事を、ただ押し付けただけじゃん!


光夜叉はキッと田中の背中を睨んだ。

僕はため息を吐いて机の上に散らばったノートを綺麗に整え、腕から溢れないように持ち上げた。


――ノートなんて教卓の上に戻しちゃえばいいよ。仕事を押し付けたアイツが悪いんだ。


 そういうわけにはいかないよ。関係ない人にも迷惑が掛かる。


 僕は廊下に出ようと教室の扉へと向かった。

両手にはクラス分のノートを抱えているため、体を横にして閉まっている扉を左腕…というよりは、肩で開けようとした。


「わっ」


 ちょうどタイミングがよく教室の扉が開いてしまい、体勢を傾けていた僕は扉ではなく別のものに体の側面が当たる感触した。


「ごめんっ」

「おっと、大丈夫か?」


 慌てて体勢を変えようとしたため、よろけたが立て直し、きちんと相手と向き合った。

自分の前に立っていたのは、クラスメイトの加藤だ。

久瀬と仲良いようでよく一緒にいるところを見掛ける。


「だ、大丈夫…そっちは大丈夫?」

「こっちは平気だ。ところでそれはなんだ?」

「それは……職員室に持っていこうと思って」


 田中に押し付けられたとは言えず、そう答えた。

加藤は僕の腕にあるノートをじっと見つめた後、それを取り上げてズカズカと教室の奥を進んでいく。


「これ、お前の担当だろ?」


 呆気にとられている内に田中のところに向かった加藤は、ノートの塊を田中に押し付けた。


「は?」

「ほら、はやく行かないと次の授業、始まるぞ」


 田中も予測していなかったのだろう。

キッと顔を歪め、舌打ちをすると何も言わずに教室を出ていった。急いで職員室に行ったのだろう。


「あ、あの……」と僕は躊躇いがちに声をかけた。

田中の横暴さから助けてくれたことにお礼をいうべきか、どうして、助けてくれたのか、そういうことで加藤に何か意味があるのか……もやもやと思考が僕の頭を占めてきて何を言えばいいか戸惑う。


「前々から見ててアイツらのことはムカついていただけだ。別にお前のためにやってないから、気にしなくていい」


 ぶっきらぼうにそう言って、僕から離れていった。


お礼だけでも先に言っておくべきだったよな……機会を見失ったと思いつつ、声をかける勇気のない僕は席に戻った。


いつも作品を読んでくれてありがとうございます。

私生活が忙しいため、のんびり投稿になるかもしれませんが、がんばって続けていくのでよろしく、お願いします。

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