誰がために願いはするが。
――引き受けちゃったんだ。
久瀬と今日あったことを光夜叉に伝えた。
光夜叉は僕の中に居着いているが、僕の身の回りのことをすべて知ってるわけではない。
自分の力を温存するために眠っていることの方が多く、人前に現すのはエネルギーを使うらしかった。
――お人好しだねぇ。頼れて嬉しかったかもしれないけれど、このチカラは不安定であることを自覚してほしいなぁ。
君を守るのはボクの役目だけどあまり過信しないでね、と光夜叉は言った。
「うん。でも、自分自身でも身を守れるようしたいと思っている」
頼ってばかりいるのは嫌だ。
でも、どうすれば頼れずに済むのか分からない。
お人好し…利用されているって暗に言われるが、僕だって誰かを利用しているのだ。
――そっか。
光夜叉は、少し困ったように笑った。
― ― ― ― ― ― ― ―
「ヒカル、いつも何を食べているんだ?」
空っぽの冷蔵庫を見て東條先輩は言いながら、東條先輩の母…おばさんが作ってくれた煮物や肉じゃがを入れていく。
「母さんからこれ渡されたから、ちゃんと食べるんだよ」
「おばさんにいつもありがとうって伝えて」
「直接言った方が喜ばれるぞ。今から家に来るか?」
「今は遠慮しておく」
「今から来ても来なくても伝えておくよ」
心配で仕方ないらしく。
時々、こうしておばさんの手料理や食材を持って東條先輩は僕の家に訪ねてきては冷蔵庫の中を満たしてくれる。
高校生になって数ヶ月も経つのに東條家はみんな揃って心配性だと思う。
もっと自分がしっかりしなきゃ、ダメだなとも思っている。
「そんなに僕って頼りない?」
「いや? どうして、そう思うんだ?」
「いつも面倒見てくれるから」
「ヒカルの兄代わりみたいなものだし、当然かな」
当然なのだろうか?
う~んと首を傾げているとコトリと目の前のテーブルにカップが置かれ、紅茶の香りが鼻腔を擽った。
「家にティーパックってあったっけ?」
「この前、買っておいた」
自分より台所にあるものを把握されているし、何か物が知らない内に増えてるのは気のせいだろうか。
「ところで、最近久瀬と一緒にいるが、仲良くなったのか?」
「仲良くなったというか久瀬のバイトを手伝うことになった」
「そうなのか。ムリに誘われて断れずに手伝ってないか?大丈夫か?」
「まぁ、大丈夫だよ。嫌になったら手伝わないから」
「なら、いいが…」と東條先輩は紅茶をひと口、飲む。
「ヒカルは、目を離すとケガしていることが多いから心配だ。どんなに俺が心配しているのか……分かっているのか?」
人に考えを悟らせない表情でじっと自分を見つめてきた。
僕は彼にかける気休めの言葉が思い付かず、ただ見つめ返すばかりだ。
「あまり不安にさせないでくれ」
フッと残念そうな諦めているような笑みを一瞬だけ見せ、僕の頭を撫でた。
言い繕えなかった自分は、少しぬるくなった紅茶に口を付け、なんとも言えない感情を飲み込んだ。
不安にさせないでくれ、か……。
先日、東條先輩の言葉を思い出しながら、僕は目の前にいる『あちら側』のモノに刃を突き立てた。
「そんなの無理に決まっている」
あやかしを視える目で手に握り締めている刃を見つめて呟いた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
少しずつですが、閲覧してくださっている方が増えていて嬉しく思います。