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光夜叉  作者: ソラネ
第一章
3/128

黒い脚


あー、またか。


教室の入り口前で立ち止まり、ため息をついた。


「でさー、アイツそんとき、すげぇマヌケな顔で……」


掃除当番から教室へ戻ってくれば、室内では僕の話題で盛り上がっているようだ。

僕に掃除当番を押し付けたクラスメイトを中心に数人の下品な笑いが廊下まで響いている。


開けようとしま教室のドアから手を離す。


「いつもなに考えてんのか分かんないヤツでもあんな顔するとか…ウケた、ウケた」


途切れそうもない会話に苛立つ。

さっさと教室から自分の鞄を持ってこの場から離れたかった。


いっそのこと教室のドアを開けて鞄を取りに行こうか……。


「アイツの家さ、イッカリサン?してて父親、全く帰ってこないらしいぜ」


それに、とクラスメイトは続ける。


「子供の頃、母親に捨てられてるんだよ、捨てられっ子」


教室の前から一歩、二歩と後退りをすると鞄を持たず、その場から離れた。

アイツらの声が聞こえない所まで。


走って人目のつかない場所で立ち止まる。


何故、あそこまで言われなきゃならないのか?

自分は何をしたっていうのだろうか?


汚れた爪先を見つめ、ぎゅっと下唇を噛む。

惨めで悔しくて、こんな思いをするならいっそのこと僕なんて――。



背後から物音がし、思考を遮られた。

反射的に振り返り、廊下の先に視線を向ける。


何、あれ……。


曲がり角に何かいる。

黒い。

黒い何かが物陰からはみ出ていた。


棒のような…でも、天井の方にいくと支えるように屈折していた。

曲がった先は死角となっているため、全体は見えない。


あれが何であろうと近寄る気にならないよ。


一歩、二歩とその場から離れようと後退る。

それに感付いたのか、黒い何かも僅かに反応を示す。


う、うごいて…!


ぞわぞわ…と粟立つ。


初めは気のせいだと思えるくらいの僅かな動きだった。

細かく短い毛がその動きに合わせて揺れたのを見てこの棒のようなものが黒い脚にしか見えなくなってしまった。


何の脚かなんてそんなの……。


黒い脚が大きく振り上げ、死角に潜んでいたモノが姿を現そうとした時――。


とん、と背中にぶつかる感触にひぃ、と小さく声を上げる。


「ヒカル……」

「先輩……」


後ろの方に顔を向ければ、東條先輩は心配そうに僕を見つめ、立っていた。


「ごめん」


僕は慌てて体制を直しつつ、さっと曲がり角へ視線を戻した。


あ……いない。


振り返り見た視線を再び曲がり角の方へ向ければ、そこにはもう何もいなかった。


「どうかしたか?」

「いえ、何でもないですよ」


東條先輩の問いに首を横に振り、否定した。


「ところで先輩はどうしてここに?」と僕から質問を返す。

「職員室に寄っていた」


係りの仕事でクラス分の数学ノートを職員室に運んできた帰りらしい。


「そうなんですか。あ、僕は掃除当番で、その今から教室に戻ろうかなって」


本当は教室からここまできたのだが、正直にいったところで何になるのだろうか。

先輩は優しいから聞いてくれるかもしれないが心配をさせ……ううん、口に出せば惨めな思いをしたくないんだ。


変なところでプライドが高いなぁ、あはは……。


「じゃあ、今から帰りなんだ」


一緒に帰ろう、と俯きかけた僕の頭をポンポンと撫でながら先輩は言った。





いったい、アレはなんだっただろうか。


教室に戻った僕は誰もいないことを確認し、鞄に教科書やノートを詰め込んでいた。


見間違いだったのかな?

あんなおっきいのいたら、騒ぎになっているだろうし。


先輩とあの曲がり角を通って教室まで戻ってきたけど、黒い脚の持ち主どころか誰も居らず、ただ上に続く階段があるだけだった。


僕にしかみえない『何か』だった……?


「きっと気のせい」


分からないものを考えても仕方ないと自分に言い聞かせた。

止まっていた手を動かし、さっさと残りの荷物を詰めると誰もいない教室を後にする。


急に誰もいない空間が怖くなったというわけではない。


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