表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光夜叉  作者: ソラネ
第二章
22/128

始まりは密かに

第二章の始まりです。


 日が西に傾きかけたある日の午後。


数十年前に廃業となった動物病院の廃墟内に六人の男女がいた。


彼らは肝試しに訪れていた若者たちであり、SNS上で知り合った本名の知らない者同士の集まりであった。



「では、はじめましょうか」


 グループのリーダーである若い男が声をかけると廃墟内にあったガタついた棚の周りに皆が集まった。


腰ほどの高さの棚の上には、一枚とその上に十円玉があるところに四人の男女が輪になり、片手の人差し指を十円玉に置いた。


残りの二人は携帯やビデオカメラを構え、その姿を撮り始める。


 紙には『あいうえお』順に平仮名が書かれ、十円玉が置かれた下には赤い鳥居が描かれている。


「こっくりさん、こっくりさん…お出でください」


 彼らはSNS上に『こっくりさん』の実況動画を投稿しようと考えていた。


「こっくりさん、こっくりさん。

お出でくださいましたら『はい』の方へ」


 成功しようがしなかろうが、彼らはどうでも良かった。


名も顔も知らない人々からたくさんの注目と拡散があれば、ちょっとした有名人気分を味わえられれば。


「こっくりさ……うそ、『はい』に動いた」


 ゆっくりと赤い鳥居の上から左へ十円玉が『はい』と書かれた文字にスライドしていく。


怯えと好奇心、嬉々、驚き……参加者によって反応は様々であったが、誰も危機感を持ち合わせていなかった。



「こっくりさんがお出でになりました。

それでは、質問していきましょうか………」



 まさか、これから動画に収められるのが惨劇であることも知らずに――。




***************



――ここに来たって何もないよ。


 病院からの帰り。

神社に立ち寄った僕に光夜叉は言った。


「そうだね」


 大きいとはいえないが、修繕がいき届いた神社がひっそりと建っているだけで……特に何も変化がなかった。

それにあれほど綺麗に咲き散らしていた桜はなく、時期も疾うに過ぎている。


「…ボクに色々と聞きたくてここに寄ったんでしょ?」


 いつの間に僕の身体から抜け出して隣にすとんと立った光夜叉が見上げていた。


「そういうことになる、かな……」


 実際、色々とありすぎて昨日に起こった出来事について何も呑み込めていなかったりする。


「さぁ、何を教えてほしいの?」


 光夜叉は神社の縁側に座り、僕も座るように促されたため、その隣に座る。


「えっと、じゃあ、君のこと…僕の中にずっといたみたいだけど、何なのか?」


 自分しか見えない幻覚なのか。

それとも無意識に作り上げたもう一人の自分、人格が姿形となって見えるようになったのか。


だとしたら、僕は精神面で余程、破綻しているってことになる。イヤだな、それは……。


「ボクは、君ら一族に仕える式神さ。主の剣となって『常闇の住人』から守るのが使命なのです。

なのに、なのに、あの剣の具現化はなんなんですか!?」

「ご、ごめん……」


 ずい、と僕の方に身体を乗り出して如何にあの張りぼてなクオリティーの剣に対し、光夜叉は不満を漏らしてく。


「ところで『常闇の住人』っていうのは?」

「『常闇の住人』は、一族が付けた名称だよ。一般的にいえば、妖怪やあやかし、お化け…みたいなものだよ。

あ、でも、そこら辺の奴らより厄介な相手から気を付けてね! 君は目をつけられているから」

「どうして、狙われているんだ?」

「うーん。君の…ううん、神代家の血肉や魂を喰らえば、チカラを得られるからね」


 今後も巻き込まれる可能性があると光夜叉は言った。


「……あの『蜘蛛』も『常闇の住人』だったね」


 自分を憎らしく睨んだ八つの目を思い出す。


「ここでお母さんや伊藤たちを拐っていた」

「そうだね。『蜘蛛』は君のお母さんに執着し、身体をなんとしてでも維持させようとした。

ただ、あの子たちはそれに巻き込まれた」

「僕があの時、訴えてなかったらきっと……」


 伊藤たちへ向けて「ごめんなさい」と呟いた。

僕がお母さんが拐われたことを言わなければ、よかったと後悔した。


僕だけがあちら側から抜けられたことに対して、負い目を感じずにはいられない。

結局のところ誰も救われていないのだ。


「仕方ないよ。キッカケがなんであれ、悪いのはあの『蜘蛛』であって君は何も悪くない」


「君たちは巻き込まれただけだ」と沈んだ顔をした僕を宥めてくれた。



(もっと、別の道があったんじゃないのか)


 そう考えてしまう。


世間では行方不明のままで、お母さんたちが死んでしまっていることを誰も知らずに過ごしていく。


ずっと置いてきぼりにされ続けるんだ。


<かわいそうに……>


 お母さんとも『蜘蛛』とも判別のつかない細い声が脳内で響いた気がした。



お話を読んでくれてありがとうございます。

また、ブクマやポイントが増えてて嬉しかったーです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ