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光夜叉  作者: ソラネ
第一章
13/128

割れた『器』は音もなく



バリン、そんな割れ方だった。


実際、音は聞こえなかったが触れた箇所からヒビが入り、呆気なく顔半分を失っていた。


――返してもらうよ。


声は言った。


頬に触れていた手首辺りからまとわりつく仄かな光の粒が胸まで上ってきて吸い込まれるように消えていく。


「空っぽ……」


壊れ、穴から覗く真っ黒な闇。

中身はなんてなかった。

ただの陶器の入物で、肌色の破片が辺りに散らばっていた。


中身がないものを『人』と呼べるのだろうか?

これをお母さんだといえるのだろうか?


自分の中に光の粒が眺めながら思った。

光の粒がすべて消えていった後、呆然と眺めていた僕に声は謝ってきた。


――ごめんね。


どうして、謝るの?


――こうするしかできなかったから。

どうしても返してもらう必要があったんだ。


――それに、会わせたかった。

他の『チカラ』で代用していたようだけど………もう身体は限界に達していたはず。

いつ崩れてもおかしくなかった。



――そのせいで、君は狙われたんだけどね。



どういう意味だと聞き返えそうとした途端、僕の身体は浮いていた。


浮いていることを把握する前にその場から強制的に放れさせられた。

壁に左半身を激しく打ちつけ、痛みで頭が真っ白になる。


「ぐ、はッ…!?」


床に蹲っていると女の声が耳に入ってきた。


〈アァ…アァ……ワタシノ、ワタシノ愛オシイ、ヤヤ子二…コンナ傷ヲ………〉


寝台の、お母さんの傍に詰め寄った女は

あわあわと泣き喚いている。


〈サゾ、痛カッタダロウ。コンナ仕打チヲスルナンテ……〉


立ち上がろうとした僕にバッと手を翳した。

長い袖から覗かせた指先から『糸』が伸び、ぐるぐると両腕ごと胴体に巻かれ、身動きができないように拘束される。



〈……許サナイ〉



あれが……『常闇の住人』


宙吊りになりながら、お母さんの傍を離れようとしない女を見下ろす。


紅の布地に黄色の刺繍で彩られた菊の華。

着物は乱れ、腰の辺りから後ろの方へ裾がひろがっていた。


そこから下は、八本の黒い脚が大々的に着物の裾からはみ出てている。

もう人ではなく異形のモノだと語っているようなものだ。


――捕まってしまったね。


危機的な状況であろう関わらず、声は平然としていた。


冷静だね、と言えば声は「そうでもないよ」と応えた。


――いいのかい? あの『蜘蛛』は今、嘆いているけど、いずれは関心をこちらに向けてくるよ。


捕まってしまった今、どうすればいいのか分からない。

解こうと藻掻いても『糸』は固く、しっかりと身体に巻きついているのだ。


もう諦めるしかないかもしれない。


――君は、鈍感だね。

諦めがはやいからかな?


そう思った矢先、声はクスッと笑った。


――何のために『器』から返してもらったか……わかる?



ドッと心臓が押し潰された感覚になる。

『忘れなさい』とお母さんの声が響く。


『忘れなさい』

『忘れなさい』

『忘れなさい』


声が響く度、脳裏にノイズとなって子供の頃の映像が乱れ、消えていく。

フラッシュバックに顔を歪め、困惑する。



――ねぇ、ボクの『チカラ』をかしてあげようか?





<ワタシノモノ。壊シテ、許サナイ>


<愛オシイ、ヤヤ子ヲ……>


許さない、許さない…と女はぶつぶつと呟きながら、ゆらりと頭を僕の方へ向け、かちゃかちゃと針金のような細長い脚を動かし、近寄ってくる。


<ドウシテヤロウカ。オ前ヲ……>


吊るされた僕の前まてくると、項垂れた顔を覗き込まれる。

そこで、初めて女の顔と合せる。

八つの複数の眼が虚ろな自分の姿を捕らえていた。


<同ジヨウニ、オ前ノ顔ヲ壊シテヤロウカ?>


頬の上を長く尖った爪で引いた。

つー、と引かれた線の上から真っ赤な血が滲み出てきて、下へと流れていく。


女は無反応でいる僕を凝視し、はっと息を吸い込んだ。



<オ前…………>




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