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光夜叉  作者: ソラネ
第四章
120/128

一度死んだ少年は。

※東條視点です。


 俺は、一度死んだことがある。


小学二年生の時だ。

俺の家族と母の友人の家族とで川辺のキャンプ場へ遊びに行き、『鬼』に殺された。


『鬼』に殺された俺は『龍』の恩恵で生き返り、過去を知った。


あの『鬼』がコウと呼ばれていた過去を。

俺がシンという名前で夢の中にいた記憶を見た。


天には昇らずこの地にとどまった龍は、その後人と交わり、血とチカラを残していった。

結界の『核』として今も常闇の王と眠る彼女のために――。



「お前が繋がっていれば楽だった。すぐに『鍵』が手に入っただろうに」


 ギチギチと灰色のムチが首を絞める。


「っぐ…ぅ……」

「鎖を。お前が繋げたのだろう? 外せ!」


 首を絞めたまま俺の身体を結界の方まで持ち上げ、命令される。

誰が素直に外すか、と織部は睨みつけた。


「う、っ……アッ!!」


 ムチで縛られた手を力一杯に振り上げ、ムチを大剣で引き千切る。


「いつまで寝ているつもりだ! あいつに情けない姿を見せるつもりか」


 結界内で蹲っている光夜叉に向け、叫んだ。

俺の声が届いたのか光夜叉の身体はピクリと動き、顔を上げた。

俺の動作を見、瞬時に近くで倒れているヒカルを庇う。


振り上げた大剣で結界と共に床に記された術式を斬った。

結界には弾かれたが、その勢いで術式にキズをつけた。


ヒカル達を閉じ込めていた結界が壊れた。



「ヒカル…!」


 近付こうとして片足をムチで捕まれ引き摺られ、ヒカル達がいる場所から離れてしまう。


「なぜ、こうも邪魔ばかりされるのか」

「離せ!」

「ただただ私はあの方のもとへ還りたいだけだ」


 斬っても斬ってもムチが絡みついてくる。

俺を近付けさせないようにしているのは明らかだった。


ヒカルの身体を庇う光夜叉の背後に今まで気配を隠していた槐と同じ顔をした杏寿が近寄っていた。


「もう充分でしょ?」

「…………」

「無視しないでよ」


 呼び掛けに光夜叉は応えなかった、が。


「…コウ」

「お前にその名前で呼ばれる筋合いはない」

「やっとこっちを向いてくれたね」

「……ッ。この顔は当てつけか」

「気に入ってほしいからだよ」


 光夜叉は逃げられない。

今、この場を離れたらヒカルが杏寿に奪われてしまうからだ。


杏寿は鎖に手を伸ばす。

光夜叉はその手を振り払おうとするが逆に杏寿は手首を掴んだ。


「借りたものは返さないと……ね?」


 このままではいけない。

光夜叉が喰われる。ヒカルの魂ごと杏寿に取り込まれてしまう。


俺に絡んでいたムチのいくらかが緩み、離れると杏寿の首を絞めていた。

俺はムチが緩んだ隙に振り解き、距離を取った。

はやくヒカルのもとに行きたいのに出来ず、もどかしい。


「何をしようとしている」

「抜け駆けしようとしたの。見られちゃった」

「その『鍵』は私のだと言ったはずだが?」

「だって~、ヒマだったんだもん。

……アハハ、ごめんごめん。からかっただけだから、睨まないで?」


 織部は溜め息を吐く。

杏寿の介入により攻撃の手を緩めていたムチが急に勢いを増し、俺の足首を掴み上げるとヒカル達がいる方へ投げた。


「もうひとりの『鬼』に喰われたくなければ、鎖を解け」


 冷たく静かに織部は言い放った。

俺が鎖を繋いだ当人だと検討は付いてるのだろう。

織部はこっちを向いていた。


「…………なぁ」


 光夜叉は独り言のように話す。


「この下にいるのか」


 嫌な予感がした。


「だったら、連れてってやるよ」


 光夜叉は膝で立つと床に剣を突き立てた。


 ゴゴゴゴ…と地鳴りが響き渡り、立っていられないほどの大きな揺れが俺達を襲った。


「……何をやってる。助けられるわけではないんだぞ」


 揺れ動く地面の中、俺はなんとかヒカルのもとに行き、抱き締めると光夜叉に問い詰めた。


だが、光夜叉が応える間もなく大きな黒い塊が倒れ、脆くなっていた床を破壊した。


この場にいた俺達は大きな塊と共に暗闇の底へ落ちていった。




ここまでご閲覧いただきましてありがとうございます。

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