恨まないでね
――そこを右に曲がって。
声に従って屋敷内を慎重に進む。
なるべく、足音を立てないように。
けれど、ギシリ…ギシリ…と歩くたびに床が軋む。
『ボクのお願いをきいてくれる?』と聞いてきた声の願いは、この屋敷内にあるモノを見つけてほしいというものだった。
それがどこにあるのか、ある程度の位置なら分かると声は言った。
何故、分かるのかと聞けば。
――まだ繋がっているから。
そう応えると付け加えるようにまた君にも視えるようになるよ、と。
見付けられれば、ここから出ることができるかもしれないと声に対して勝手に淡い期待が高まる。
――待って。
襖にかけようとした手を止める。
――ここから先は、君にとって辛いかもしれない。それでも、いい?
何がいいのだろう?
良いも悪いも感じたって結局は何も変わらない。変えようがないのだ。
深く考えず、襖を開けた。
中に入る。他の部屋より装飾が華やかだ。
部屋の奥には天蓋付きの寝台があり、そこに誰かが眠っているのが見えた。
――そこに行って。
そこって……。
示された場所を聞き直す前に分かった。
微かだが、自分から溢れた光が寝台の方へと流れていたからだ。
白い足……。
寝台に近付けば、だんだんとどんな人がそこにいるのか見えてくる。
白い着物を着て仰向けに眠っているその人は、着物の隙間から覗く青白い肌が、動かない胸が、生きて……生きてな…………。
「…………お母さん」
「お願い。光…忘れて」
お母さんは僕の目元を手で覆い隠しながら。
「あなたは何もみなかった」
だから、忘れなさいと幼い僕に言った。
お母さんの四肢を絡める『糸』を掴んでいた手を放した。
お母さんの手はとても冷たかった。
あの時、何をみたのだろう?
何を忘れたのだろう?
手が離れた時、僕はお母さんに絡みついていた『糸』も何かもが視えなくなっていた。
視えなくなって思うのは、糸を切っていればお母さんは連れていかれなかったのかもしれない。
だったら、僕のせいだ。僕なら――。
――ヒカル
自分を呼ぶ声に意識が目の前の現実に戻される。
「ねぇ、お母さんだったの?」
――……そうだよ。
「やっぱり、生きていない、だよね」
――…………うん。
聞いてから、馬鹿だと思った。
何年ここにいて、会ってないと思っているんだ。
分かりきっていたことを聞いたって返答は変わらない。
「眠っているみたい」
お母さんの頬に触れた。
ガラスのみたいに固くて冷たい。
人形だ。
――ヒカル……ボクを恨まないでね。
いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。
今回、半端なところですが区切られてもらいました。




