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光夜叉  作者: ソラネ
第四章
118/128

君は僕で半分子。

※光夜叉視点です。


――ワタシの共に来い! コウ!


 遠い遠い昔の夢だ。自分にとっては大陽みたいな女性(ヒト)だった。


奪われたから奪い返し、神のもとへ還ろうとした時に彼女……(エンジュ)と出会った。

『鬼』になった自分に居場所をくれた大切な人だ。





「コウ~、畑が終わったら薪を取りに行って~」


 赤子をあやし、兄を追いかけようとする弟や妹を宥め止めながらお母さんは言った。

「わかったぁ」とお母さんに声が届くように返し、再び前を向き山にある畑の方へと歩いた。


 何も知らない人間の子供だった頃の当時では珍しくもない不幸の話。


 はぁ、はぁ、はぁ……。


呼気を荒らげ坂の小路を駆け下る。

全力疾走のし過ぎで肺がキリキリと締め付けられるように痛い。

それでも、急げ急げと家に早く辿り着きため、全力で走った。


山にある畑から村を見下ろした時、村の家々から火の手が上がっていくのが見えた。


賊だ、と思った。

先の戦で職や住む場所を失った兵くずれの者が村を襲っていたのだ。


「…」


 遅かった。


焼かれていた。家族分の人の形をしたモノが燃えていた。

油でも撒いたのだろうか、木造の家はあっという間に火がつく。

火のまわりが速く、まるで大きな焚き火を眺めているようだった。


「あ…あ…あ……」


 風向きで焦げた肉の臭いが鼻をかすめていく。

自分のなかで何かが音を立てて壊れた。

声にならない声を上げながら走り出していた。


めっちゃくちゃに走り、どこをどう走ったかなんて覚えていない。


(アレは、ちがう……ちがう、ちがう、ちがう、ちがう)


 家で見た光景を思い出しては必死に否定する。

家族ではない、家族ではないんだ。違う人だ。見間違えたんだ。

村だって…きっとなんともないんだ。

キツネかケモノに化かされたんだ。

よく聞くじゃないか山は不思議なことが起きるって、神様が住んでるから悪さをしてはいけないって。


走って走って走って……限界がきて。

自分は樹の陰に頭を抱えながらしゃがみ込み、何度も現実を否定した。


荒れた呼吸が落ち着き始めた頃、フラフラと村の近くまで歩いていた。


(アイツらだ)


 村の方からゲラゲラと笑う声が聞こえてきた。

燃え移らなかった物置小屋の陰から声をした方へ覗く。

ひと通り暴れ回ったのだろう。賊は奪った食糧と酒で酒盛りをしていた。


(殺してやる)


 体の奥底から殺意が沸き、そばに転がっていた鍬を手に持つ。

酒盛りをする賊の一人だけでも殺してやろう。道連れにしてやろう。

身を潜めていた物置小屋の陰から飛び出そうとした時、自分の足首を掴まれる。


「ッ……!」


 視線を地面に向ければ、人のような形をしたものが転がっていた。

燃え滾る竈の火の中から這い出てきたのか全身を炭のように焦げた…人だったものが足首をがっしりと掴んでいた。


「…ッ、ァ……ぐ……」


 顔を見上げ、口をパクパクと動かし、言葉にならない声を発していた。

たまらず自分は足首を掴むソレを払い、持っていた鍬を投げ捨てるとその場から逃げ出した。


(何もできないのか! 逃げることしかできないのか!!)


 山の方に逃げ、獣道ですらない場所を走る。

草で足場が見えなかった。自分のことしか考えられず周りが見えていなかった。


踏み込んだ先には想像していた感触がなく……「あ!」と思う頃には体の平衡がとれず傾いた。

一気に地面が視界に迫る。どうすることもできない。勢いよく斜面を転げ落ちていくしかなかった。



 気が付けば夕暮れ。

西日が山の方へと沈みつつあった。


山の斜面から下の川辺の方まで落ち、今まで気を失っていた。

命は助かったものの、あっちこっちに体をぶつけ、擦り切れたせいで痛くて仕方ない。


このまま倒れているわけにはいかない。

夜になれば野犬などの獣が出る。安全な場所に身を潜めなければ襲われてしまう。


痛みを訴える体に鞭を打ってでも移動しなければ、と川沿いをそって歩く。


村や家に戻れない。行く宛てが…………。



「其れがお主の願いか。いいぞ。我の『チカラ』を貸してやる」


 この村は、ある『カミサマ』を信仰していた。


「キジンさま、どうか村を、家族を殺した賊共に復讐できる『チカラ』をください」


 村外れに立てられた社。角の生えた武人の木像が祀る前で膝をつき、家族を失った恨み辛みと共に願った。


その声に応えるようにカミサマは姿を現し、『チカラ』を貸すといった。


「この『チカラ』は貸すだけだ。恨みを晴らした暁には……お主の命と共に『チカラ』も返してもらうぞ」


 カミサマは、自分の『チカラ』の半分を分け与えた。


「思いっきり暴れてこい」


 カミサマの『チカラ』は、人であった身には膨大過ぎた。


我を忘れ、鬼と化し、賊だけではなく、多くの人、動物を襲う化け物になっていた。


そんなボクを抑えたのは、主である(エンジュ)だった。


「ワタシと共に来い!」


 ボクは、彼女の手を取り、カミサマの約束を破ってしまった。



お読みいただき、ありがとうございます!

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