表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光夜叉  作者: ソラネ
第四章
111/128

監視

今月4回目の更新です。※三人称視点。


 久瀬は、駆け足でげた箱に向かう。


「織部さん!」


 靴を履き替え今にでも校舎から出ようとしていた織部(オリベ) 杏寿(アンジュ)を見つけ、久瀬は呼びかけた。


「こんにちは。私に何か用? あと杏寿って呼んで」


 急いで自分のもとへ来た久瀬を一瞥し、不思議そうな表情を浮かべている。


「杏寿さん、今帰り?」

「そうね。用事があるから」

「そっか。あのな、織部先生がどこにいるか分からへん? 俺、用があるやけど電話、繋がらなくって」

「九郎と知り合いなの……?」


 杏寿は織部先生の下の名前を呼び捨てにした。


「杏寿さんは織部先生と親戚、でいいのかな? だから、何か知らねーかと思ってさ、聞いてみた」

「そうだけど。あなたは……あぁ~、もしかして、久瀬家の人?」


 久瀬は頷いた。


「へぇ。九郎に何か用事があるの?」

「そうやな。別に杏寿さんでもええんよ、知っとるんやったら……。

今、神代 光がどこにおるん?」


 賭けだった。


織部 九郎と杏寿が協力関係にあり、神代を連れ去ったのなら久瀬の質問をはぐらかすだろう。

また、本当に神代の居場所を知らなかった場合、何の手掛かりを得られず、詰む。


「それを知ってどうするの?」


 杏寿の言葉に神代の居場所を知っているんだなと久瀬は確信する。

聞き返したことにより、杏寿は内容によっては久瀬の問いに答える気でいた。


「俺だって分家のひとりやで。織部先生の手伝いだってしとる。俺にも関わらせてくれてもええと思わん?」


 こてん、と小首を傾げ愛想の良い笑みをつくって久瀬は応えた。

相手を伺うような(てい)で話すが、お前らの企むに一枚噛ませろと詰め寄った台詞であった。


「久瀬家の人だし、君も命令されてるだろうし………うん、いいんじゃないかな。九郎が少し困っても」


 暫しの沈黙があった後、杏寿は納得したかのように自分の思考に肯定した。


「明日のこの時間に『ウラマチ』に来て。神代くんに会いたいと思うなら」

「ウラマチ……」

「そう。そこに神社があるから。入れればきっと会えるよ」

「今日、ヒ……神代と会えないのか?」

「会わせられないと思うわ。たぶん九郎が許さない」

「…神代は大丈夫なんか?」

「今晩はウチで保護するから心配ないよ」


 安心してね、というように久瀬は笑みをみせた。


「なぁ、何をやろうとしてるんや?」


 久瀬の問いに杏寿は微かに唇を歪ませる。


「自分の目で確かめて」


「じゃあ、また明日」と杏寿は校舎から出ていく。

引き止められず見送った後、久瀬は再び東絛に連絡するため携帯を取り出した。



― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―



「明日、儀式に参加すればいいんですね?」


 ソファに座った神代は「先生」と呼び、テーブルを挟んで向かい側に座る織部を見つめた。


「あぁ、そうだ。そうすればあの『鬼』から奪われたモノを返そう」


 織部は頷き、そう続けた。


今、神代は織部が住まう一軒家にいた。


明日、(おこ)われるという儀式に向け、今晩はここで寝泊まりするよう織部の家に連れてこられていた。


神代は頭を触る。頭に巻かれた包帯を撫でながら数時間前の出来事を思い出す。



 学校の階段から突き落とされ、気付いた時は救急車の中で病院に搬送される途中だった。


(あ、落とされたんだ)


 ぼんやりとしつつも階段から突き落とされたことを思い出していた。


(なんで、織部先生が……?)


 仰向けになった担架の上で視線を救急車の天井からズラせば、織部先生が横の座席に座っていた。


救急隊員が横で話しかけれているなか織部に直接問いかける状況ではなく、このまま病院へと搬送された。


神代が織部と会話したのは、怪我の処置が終わった後だった。


「軽いケガで済んで良かったな」

「はい……すみません」


 病院の出入り口近くのロビーにて迷惑をお掛けしました、と謝る神代に織部は無表情で首を振った。


「別にいい。それよりも君のことは私が預かることになった」

「どういうことですか?」

「君の保護者はここに来られないそうだ」

「…なんとく分かります。来ないんだろうなって」

「保護者の代わりとして一応親戚である私が君の面倒をみることになった」

「いや、いいですよ。一人で帰れますし、大丈夫です」


 織部が居なくても大丈夫だと神代は断ろうとするが。


「君のお友達の中学生……大変な目に遭ってるんじゃないのか」


 なんで知っているんだと織部の発した言葉に思わず教師の顔を見た。


「『鬼』が出たんじゃないのか? そして、そのお友達は何か失った」


 姫川を襲った『鬼』から奪われたモノを取り返したいのなら自分と一緒に来るんだ、と何も読みとれない表情で織部は言った。


 そうして、神代は織部の家に招かれ、ここにいる。


「どうして、姫川さんを襲った『鬼』を知ってるんですか?」

「アレは昔……本家の人間が封印した『鬼』だからな。私はここに点在する封印の地を管理を任せられている。

どういった経緯があったか知らないが、君のお友達は『鬼』が封印されてる場所に入ったのだろうな」


 『ウラマチ』には、そういった場所が多々あり、時折、迷い込む人がいるのだと。

『チカラ』がある人なら一目で判ると織部は話した。


「明日の儀式に参加してくれたら、その件については私がなんとかしよう」

「……分かりました」

「疲れただろう。部屋に案内しよう」


 家の奥にある一部屋に案内される。

こじんまりとした広さの客間だった。すでに中央には布団が敷かれている。


「くれぐれもこの敷地から出ないように」


 客間に入った神代の背後で扉が閉まる音がした。

ご閲覧、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ