背負わないといけない
「『鬼』もそうだけど織部先生にも気をつけなきゃね」
どこに潜んでいるのか分からない『鬼』よりも学校で出会う確率の織部先生の方が注意する必要が高いかもしれない。
(『そうかもしれない』だけで決め付けはいけないと思うけど)
疑いある者に不用意に近付かない。
アヤカシでなく人間だったら疑って申し訳ないけれど。
「学校ではずっとヒカルのそばにいられないから何かあればすぐ逃げるんだよ。出来れば俺のところへ」
「おい、俺はヒカルと同じクラスなのお忘れですか? センパイ」
「あらあら。シン先輩は一途なんですねぇ」
姫川の冗談とからかいが混じったようなセリフをよそにシン兄ちゃんはスバルに聞く。
「あれから何か掴んだか?」
「いや、特に進展はないよ。ただ隣のクラスに織部の親戚らしい子が転校してきたくらいだ」
「あぁ、一ヶ月前に…だっけ」
「そう。いつの間にか。おかしいくらいあっさりとクラスに馴染んどる」
「へぇ。それは不思議だね」
シン兄ちゃんも転校生について話題が上がらなかったことに不審がった。
「織部 杏寿にも気を付けろよ。アイツが用意した人間の可能性があるんやから」
うん。その子と将来は結婚するようにいわれてるんだよね。
もちろん、僕は結婚する気はない。
どうにかして、断ろうと考えている。
「聞いとるかぁ。ヒカル。お前一番あぶなっかしいやぞ」
ぼんやりと考え事をしていた僕にスバルは再度注意されたのだった。
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「逃げられると思ってるんだ」
諦めた表情を浮かべた杏寿は言った。
放課後、学校内にあるゴミ捨て場へと向かった時に彼女から声をかけられた。
「手伝うよ」と二つ持っていたゴミ袋の片方を取ると僕と一緒にゴミ捨て場まで来ていた。
「この前、結婚する気はないっていってくれたけどさ。周りはそうじゃない。無理矢理にでもさせるつもりだよ」
「でも、勝手に……。誰かに決められて結婚なんてできないよ」
お祖父様と会った後、彼女の様子から結婚は本意ではないと感じた。
だから、説得ができるんじゃないかと。
二人で本家に反対すれば結婚を回避できるんじゃないかと思ったのだが。
「二人で断れば、きっと無くなるよ。そんな話」
「ムリよ」
杏寿は即座に否定した。
「私が断れば誰が代わりになるの?
神代くん、一応知ってるのよ。アナタの中に『何』がいるか………」
「無責任なことを言わないで」と杏寿は言われ、僕は「ごめん」と謝った。
簡単な話ではないのだ。
僕の中にいる『鬼』をどうにかしないと周りが納得しない。
杏寿との結婚を断っても別の人に代わるだけで結婚自体から逃れられないのだろう。
それを知ってるから杏寿は責めるように言うのだ。
「誰かが背負わなきゃいけないよ」
「でも、君でなくても……」
「そういう家だから」
彼女は僕に告げると背中を向け、さっさと校舎内に入っていった。
ご閲覧、ありがとうございます。
お寒いですので、体調にお気をつけいただければと思います。