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光夜叉  作者: ソラネ
第四章
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消えて会わず

今月、三回目の更新です。


「ここは繋がりやすいから利用したんだって」


 杏寿がいる方に向き直した。


「君が……これを?」

「ううん。お祖父様よ。お力があればできる……私はムリだったけどね」


 本家には意図的に『異界』をつくることができるのか。


「お祖父様は社の中よ」


 神社の裏手にある出入り口から社内へと足を踏み入れた。


「そこから入って奥で待っているわ」


 ギシリと軋む廊下を一、二歩進んだところで杏寿は立ち止まって言った。


どうやら、その先は一人で行ってこいとのことらしい。


廊下から一番手前の障子の前に立つと深呼吸してから部屋の中に入った。


(この人が……)


 そこは客間だった。客間の和室に見た目だけでもかなりご高齢の男がいた。


綺麗に剃り上げた頭には髪の毛一本もなく、無地の紺色を着物を着た細身の老人…お祖父様は一見して僧や坊主を彷彿させた。


(穏やかそうだけど……どこか威圧感がある)


「何、ぼんやりしておる。こっちにきて座れ」


 ぼう、と突っ立っていた僕は促されるままに座った。


しばらく僕をじっと見つめたお祖父様は「似とるな」と言葉を漏らした。


「アカリと、よう似とる」


 母の名前だ。俯いていた顔を上げた僕に。


「ワシのことをどこまで聞いとる」

「父からは『お祖父様』とだけ」

「そうか」

「あの、僕はあなたの名前さえ……何も知らないんです」


 本家…土門と両親の関係も僕が呼ばれた理由も何も分からない。

僕は蚊帳の外なんだろう。知らぬうちに勝手に進められている。


「どうして、僕と会いたかったんですか?」


 知らないなら聞くしかないのだ。

遠慮してたら何も分からない。真意を探らなければ道は見えないのだから。


「あえてワシの名前は明かさないでおく。それは関係のないことだ。

お主を呼んだ理由は……そうじゃな、同情じゃな。神代は『鬼』を封じるためとはいえ、制限させておるからな。直接伝えようと思ったのだ」


 僕に言い聞かせるような、前置きをしてお祖父様は告げる。


「お主には織部 杏寿と婚姻してもらう」


 衝撃が大きすぎて呆然となった。


今、婚姻……杏寿と結婚しろって言ったのか?


「婚姻って……どういうことですか?」

「『鬼』を封印継続を維持する為。

奴の力を弱らせるには、子に『鬼』を宿してゆく必要がある。最初に神代となった女が自らかけた術は、そういうものだった」


 今、自分が死ねば『鬼』が解放される。

そうなれば世に解き放たれた『鬼』は暴れ、災厄を招くのだとお祖父様は語った。


「お主にもその筋の家の者から伴侶を選ばせてもろうた」

「織部 杏寿さんは、それを知っていて了承してるのですか?」

「家同士で決めたことだ。彼女も理解しているだろう。お主にも理解してもらいたい」


 織部、久瀬、神代は元は同じ土門家の人だった。

現在、別の姓となり分家として本家である土門家を支えている。


なお、神代家は鬼憑きだ。

特殊な事情から本家、分家の中から歳の近い者を選び、婚姻を結ぶのだという――。

 

「でも、結婚は……考えられません」


 母も僕と同じように本家によって伴侶を決められた。

そして、僕が生まれた。

滅多に家に帰ってこない父。ずっと僕と母は二人っきりで過ごし、結局母もいなくなった。

一人っきりの家庭。結婚というものは僕にとっては酷く冷たいというイメージしかなかった。


「お主は何も知らない娘に『鬼』を宿せと願えるのか?」


 結婚は嫌だと断る僕にお祖父様は訊いてきた。


何も知らない人に犠牲になれ、と云えるのか。

それとも、云わないまま『鬼』を宿らせるのか。


そういう問いだった。


「事情を理解している者と結ばれた方が苦労は少ない」


 子供の癇癪を宥めるようにお祖父様は言った。


何も言葉が出てこないまま……こうして、僕とお祖父様の対話が終わった。



 社を出てすぐ壁に背中を預け、遠くを見ている杏寿と会った。

どうやら、ずっと外で待っていたらしい。


「あら、終わった?」

「うん」

「お祖父様、怖かったでしょ」

「そうだね」


 僕は緊張していた。

勝手に決められたとはいえ、杏寿とは将来結婚するよう告げられたのだから。


「私達に自由がない意味が分かったでしょ」

「うん。嫌だよね。僕は結婚する気はないよ」

「ムダよ。私達の意思なんて関係ない。みんな怖がりで臆病者ばかり……都合の良いところしか見てないのよ」

「そうかもしれないね」

「ごめんね。神代くんにいっても仕方ないのね」


 「私、お祖父様と話があるから」と杏寿は社の中へと入っていった。


神社を出てから僕は、どこかに寄り道する気もシン兄ちゃんの家にも行く気にもなれず、自分の家に帰っていた。


こっそりと自宅の玄関を開けると父の靴はなかった。


逃げたと思った。



ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。


書きなぐりで、稚拙で、どうしようない作品だと思いますが、最後まで書きたかったお話です。

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