もうひとりの鬼
※三人称視点です。
(織部先生があやかし……)
人間にしか見えない。
だが、『獣』のように何らかの方法で化けているとしたら? たとえば、人の皮を…………。
嫌な想像を膨らませ、青ざめた僕をシン兄ちゃんは「ヒカル」と優しく呼び、肩に寄せられる。
少しだけ落ち着きが戻り、スバルをあらためて向いた僕を確認したシン兄ちゃんは言う。
「それが理由か」
「ああ、そうや。本家は織部を信用している。アイツからしか本家と連絡ができないのがその証拠や」
本家の中に人間以外の者が混じっている。
本家を信用をなくすには十分だったとスバルは僕たちに話した。
帰り道。シン兄ちゃんと二人で学校から日の暮れた道を歩いていた。
「ヒカル、よかったのか?」
「うん。スバルが悪いというわけではないから」
空き教室で『理由』を打ち明けられた後、再び「俺はお前にひどいことをした。許してほしいとはいえないが謝らせてほしい」と謝られた。
「やっぱり避けられるのは寂しいというか、辛いというか」
スバルに僕は「前みたいに仲良くしてほしい」と言った。
「僕なんかじゃ嫌かもしれないけど友達でいてほしいんだ」
「そうか。ヒカルがそう望むなら……」
シン兄ちゃんはポンポンと僕の頭を撫でた。
僕は嬉しくなってシン兄ちゃんを見上げた。
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午前十二時頃。
小さな公園で東條 慎一郎は、自分を呼び出した人を見つけた。
「あまり自分の力を過信するな」
月の出ない夜ほど闇に足を掬われやすい。
そう知っているからこそ、最初に注意する言葉を東條は吐いてしまう。
「あはは、すみません、センパイ。
……ところでヒカルには何も言っとらんですよね?」
「あぁ、黙って出てきた」
「そうか、よかったわ」と久瀬 昴はフッと表情を緩め、吐息を漏らした。
「で、またヒカルに隠し事をして俺だけを呼んだ理由はなんだ?」
「そのことで相談なんですよ」
「そんな夜中に呼び出してか?」
「ええ、そうです。動揺させたくなかったんで」
久瀬は話す。
姫川はみつかったという話には続きがあると。
「姫川は無事にみつかったよ。肉体の方はね」
「どういう意味だ?」
「中身は別人やった。『姫川 水樹』ではなかったんや。戻ってきたミズキには前世の記憶しかなかった」
その状態でヒカルと会わせていいか、と久瀬は東條に訊いた。それが相談だった。
「俺と…直接会わせてほしい。会えるか?」
「今、病院に入院してるから明日お見舞いに行くか?」
姫川の家族に詳細を話せないということで。
二人で話し合い、いったん記憶喪失という体で姫川は警察に保護され、現在は病院に検査入院している。
身元が判明できてるため、家族にも連絡がいっているらしかった。
「そもそも、なんで前世の記憶しかないのか」
東條の言葉に久瀬は。
「『鬼』と会ったらしい」
姫川から聞いた詳細を思い返しながら言った。
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