みんないなくなった
『人』ではないのか、と言えなかった。
僕の曖昧な問いに対して冷たい目をさせながら、あやしく嗤ったのを見て、やっぱりそうなのかと思った。
彼を『人』ではないと自覚したからだろうか。
それとも、あの同級生たちことを思い出そうとしたからなのか、分からないが。
あの同級生たちは今何をしているだろうかと思考した際、その後において学校で、この町で、彼らの姿を見ていないということに今更ながら疑問に思った。
そして、誰がいなくなったのか考えてやっと思い出す。
伊藤、伊…藤、イトウ………
「イトウ……イトウ、ケイスケ」
不意に口に出ていた言葉を耳にした伊藤は驚いた風に目を見開くと「今更かよ」と呆れたといったように見開いた目を細めて言った。
あぁ、どうして、忘れていたのだろう。
自分でさえ思うよ。
あの日、『化け物』を視たと訴えた人たちの中にいたのだから。
彼…伊藤 圭介は、小学生の時の同級生だった。
『だった』と過去形であるのは、彼らはあの日を境に姿を見なくなり、そのまま僕は小学校を卒業したからだ。
まさか、僕の言葉でみんな……。
「みんないなくなった」
伊藤は言う。
僕の発言がきっかけで彼らはここに来てしまい、帰れなくなってしまった。
自分だけ残され、みんな消えてしまった、と。
「お前があんなことをいわなければ、みんないなくならなかったのに。
なのに、なんでお前はのうのうと生きてるんだよ」
なぁ、と睨む。
目の前にしゃがむと前髪を掴み、強引に顔を上げさせられた。
「奪った分だけ、楽しめたか?」
前髪を引っ張られる痛みで視界が滲む。
憎しみを籠った目にきっと自分のみっともない姿があるのだろう。
彼の憎悪の中に僕がいるのだ。
あぁ、そんなに恨んでいるのなら。
「殺してくれたらよかったのに」
零れでた言葉に掴まれた髪が緩むのを感じた。
自分のせいでこうなったのなら、死んでもしかたないや、と。
そう思い僕は言ったのに、どうして手の力を緩めるのだろうと伊藤を見つめた。
僕はいらない子なんでしょ?
あの黒い蜘蛛に食べられるよりは痛くないかもしれない。
ぎゅっと目を閉じてそんなことを考えていた。
――本当にいいの?
よく考えてみて。
ここに誰がいるのか、を。
忘れられてはいないはずだよ。
君の『お母さん』がどうなったのか、見ていたのだから。
そう心の奥から聞こえてきた声に、僕は戸惑ってしまった。
ブックマークがついた!やったー!
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