プロローグ
「ボクのチカラをカしてあげる」
突如、目の前に現れた少年は汚れることを厭わず、傷付いた頬を両手で包む。
「君は……?」
微笑みだけ返すと目を閉じ、ゆっくりと顔が近付いてきて――。
「な、何を…んっ」
唇が重なる。
ぞわりとした感覚に自分の身体に絡み付く『糸』がなければ、咄嗟に払い避けていた。
「……っ!」
重なった唇から何かが流れ込んでくる。
僕という器の中に何かが流れ込み、混ざり、自分という意識が曖昧になっていく。
半ば強引にを受容した僕達は一つになり、やがて――。
<ヤハリ…………オマエガ、オマエガ……!>
『蜘蛛』が八つの目を一斉に僕の方に向けた。
自分の身体を拘束していた『糸』は金色の光によって解けていた。
僕の全身から淡い光が放たれている。
『蜘蛛』から伸ばされた『糸』を腕で払えば、パラパラと『糸』は綻んだ。
「哀れな蜘蛛よ」
口からついた台詞に見開く。
自分の声なのに、自分ではない。
自分の身体なのに、自分の意思とは関係なく振る舞う。
「主までを狙うとは愚かな」
――怖がらないで。
ボクの云うとおりにすれば、大丈夫だから。
僕ではない意識が語りかけ、優しく包み込んだ。
「覚悟するんだ。蜘蛛」
僕達は『蜘蛛』と対峙した。