④帝都ディルドア
ライトは現在、レイロード帝国の帝都ディルドアにいる。
既に勇者達の基礎訓練を騎士団に丸投・・・委託してから三日経っている。
街中の大通り、即ち店が立ち並び、人が溢れる整備された道を通りながら、物思いにふけっている。
(何度見ても、これだけの人がいるのは慣れないですね・・・)
ライトは勇者の修行を師匠であるアリアとリルティアから言い渡されるまで、少々特殊な森林の奥で暮らしていた。多くの人で道が埋まるようなところは見たことがなかったのだ。
常識や礼儀と言ったことは二人の師匠から叩き込まれたが、実際に師匠達以外と話すような機会はなかった。
(それにしても、あれが本当に勇者と呼ばれる存在なんでしょうか・・・まだLv1だというのもありますが、もう少し強いものかと思っていました・・・戦闘経験もなさそうですし、魔王と戦う力をつける前に魔王軍が攻めてくるんじゃないでしょうか・・・まぁ、それは僕の考えることではないですね・・・)
勇者達は、ライトにとって予想以上に弱かった。
確かに基礎値はLv1にしては高いが、基礎値だけで戦いが決まるわけではない。
Lvを上げるにしても、魔王が攻めてくるまでにまともに戦えるほど上げると言うのは、ライトには些か楽観的に思えた。
(まぁ、あの皇帝は人情もあるキレ者のようでしたし・・・結局は情報を知らないと分かりませんね)
ライトは邪魔な思考を消し去り、良い匂いのする店へと歩いて行った。
金属の網で串を刺した肉に味を付けたものを焼いているようで、その匂いはライトの空腹を誘うものだった。
三日経ったとは言え、今までずっと森の中で師匠を暮らしていたのだ。
その光景はライトにとって非常に新鮮なものに思えた。
その店はかなり繁盛しているようで、客の対応をしている娘の奥で男性が肉をひっくり返したり刷毛で何かを肉に塗ったりと、忙しなく働いているのが見えた。
客足も多く、ライトが並ぶときには多くの店が立ち並ぶこの場所でも長く見える列が出来ていた。
しばらくすると、ライトの順番がやってきた。
「二本下さい」
「はいっ!お父さーん!!二本追加ー!」
「あいよー!」
(親子だったんですね・・・なんとも役割分担が上手いというか、利用できるものを最大限利用できているいい店ですね・・・)
そんな風に内心で店を評価する。
娘は茶髪の髪を後頭部で一本にあわせて括っており、その顔は非常に美人だった。
つまり客引きを美人の娘が、実際に料理を作るのは父親が、という役割分担をしており、それがライトにとっては面白く感じたのだ。
ちなみに、ライトの顔は童顔ではあるがかなり整っている。
一般的に見れば美少年に見える。
「銅貨二枚です!!」
「はい、これでいいですか?」
「はい!!また来てくださいね!!」
「また食べたくなったらきます」
銅貨を渡して料理を受け取り、店の前から去った。
その際ライトの返答に店員の娘が苦笑いしていたが。
皇帝に謁見、というか皇城に侵入した日、ライトは金を持っていなかった。
この国には下から順に銅貨、銀貨、金貨、白金貨、皇金貨という貨幣が使われている。
城を出た後、ライトはその足で冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドは雑用から命を賭ける危険な仕事など、様々な仕事を斡旋する組織である。
冒険者にも位があり、それは貨幣と同じく銅級、銀級、金級、白金級、皇金級と分類されている。
銀級で一人前、金級にもなれば一流の冒険者、白金級は人外の領域になる。同じ冒険者からも「化け物」と称されるのが白金級以上の冒険者である。
そしてライトはそこで冒険者として登録し、三日の内に仕事をこなして金を稼いだのだ。
再び人ごみの中を歩く。
ライトの知覚能力は金を掏ろうと手を伸ばしてくる男がいるのを察知した。
(面倒くさいですね・・・)
「ぎゃあああ!!?」
手をつかみ取って少し力を籠めてへし折る。
すぐさま魔法をかけて回復すると、盗人の叫びは人の流れに紛れて消えていった。
しばらく歩いていると人が少なくなり、妙な雰囲気の建物が多くなった。
建物の前には見目麗しい女性達が通りかかる男性に声をかけるのが見えた。
「そこの方、少しだけ私たちの店によっていかない?」
胸元のあいた露出の多い服装の女がライトに声をかける。
(ああ、ここが花街ですか)
「すみません、僕には恋人がいるので」
「――ッ!!」
「あれ?顔色が赤いですが・・・どうしました?」
「なにこの子かわい、いやなんでもないわ」
ライトが照れたようにそう言うと、女は途端に顔を真っ赤にして俯いた。
心配して顔を覗き込むライトに、見惚れて女が呟き、否定を口にする。
女は聞こえないように呟いたつもりだったが、ライトの耳はその言葉を拾っていた。
意味はよく分からなかったが。
その後も見た目のいいライトに声をかけようとする女は多く、律儀にライトが答えるとその手のことに慣れているはずの女達が顔を赤くするということが何度も起こった。