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アマルコルド -私は忘れない-  作者: 利府 利九
第六章 Until The End Of My Life
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94.弔い


 スケルトンとグールの襲撃を受けた野営地の面々。

 “不死者アンデッドの襲撃があったところでは眠れない”という結論に到った皆は移動の為の準備を行っていた。

 寝床を片付け荷物を纏める輸送隊と護衛者たち。


 そんな中ふとクルスがポーラとフィオレンティーナの方を見やると、骸を一箇所に纏めている。

 死者達を弔う準備をしているのだ。

 やがて二人で祈り始める。


 それを手伝おうとクルスが二人の傍に寄ろうとしたその時、ふいにぼわっとした光が二人の目の前に現れた。

 その光は燃え盛る小さなトカゲの姿へと姿を変えた。

 炎に包まれた小さなトカゲを見た瞬間、プレアデスの民達が色めき立つ。


「せ、精霊さま……なんで…? わたし、略式の《祈祷》しかしてないのに……」


 ポーラが信じられない、といった様子で呟いた。

 そのトカゲは火を司る精霊サラマンダーだった。

 サラマンダーの姿を認めたプレアデスの民達がじっと見つめる中、サラマンダーは輸送隊の一行をゆっくりと見回す。


 そんなサラマンダーに祈祷師ポーラは恐る恐る話しかけた。


≪あ、あの、サラマンダー様。わざわざ直々に、き、来ていただいて、あ、ありがとうございます……≫

[ ん? ああ君が《祈祷》してくれたんだね。そんなに畏まらなくていいよ。今回はちょっと他にも用事があったのさ ]

≪よ、用事、ですか?≫

[ そ。よーじ ]


 少年のようなあどけない声で、サラマンダーは楽しそうに答える。

 そんなサラマンダーにンゴマの族長オサヤニックが問いかける。


≪ふむ、それでは今回は何用であるか? サラマンダー≫

[ ん? あれ、ンゴマの族長じゃん、久しぶり。居たんだ ]

≪ああ、さっきからずっとな≫


 見た目的にはヤニックの方がずっと威厳があるが、ふるくから存在している『精霊』サラマンダーからすれば彼も子供同然のようだ。


[ はは、悪い悪い。気づかなかったよ。今日はちょっと僕もわくわくしててね ]

≪わくわく、だと?≫

[ そ。こんな事は今までの中で初めてなんだよね。ふふふ ]


 そう言って嬉しそうにくるくると宙に回るサラマンダー。

 

 サラマンダーはゆっくりとクルスの前に移動してきた。

 そして今までのぞんざいな態度ではなく、丁寧な物腰でクルスに話しかけてくる。


[ よくお越しくださいました。『世界存在』。この不肖サラマンダー、貴方様にお会いできて光栄です ]

≪……え、俺のことか?≫

[ ええ、勿論でございますとも ]

≪人違いじゃないのか?≫

[ はは、ご冗談を。貴方様が『世界存在』で間違いございません ]


 その言葉を聞いてクルスの脳裏に疑問が生じる。


 『世界存在』。

 そんな言葉、概念は“設定”した覚えが無い。


 一方、プレアデスの民たちは目の前の光景にどよめいている。

 普段は適当な……もといテキトーな存在である『精霊』が、ここまで謙っているのを見た者など皆無なのであろう。


 現に先ほどクルスよりもよっぽど強面のヤニックが“あ、君、居たんだ”と雑に扱われた後である。

 言葉に困ったクルスは、とりあえず自分の知らない単語について目の前の精霊に尋ねることにした。


≪そもそも『世界存在』ってなんだよ? 俺はそんな言葉は知らない≫

[ これは失礼を。『世界存在』というのは私ども精霊が便宜上使用しておりました言葉で、文字通りこの世界を統べる存在であります ]


 あ、まずい。


 クルスは焦る。

 このトカゲは彼が作者だととっくに気付いていたようである。


 精霊の言葉を聞いたプレアデスの民たちが驚愕に満ちた顔でクルスを見やる。

 特にポーラは口をあんぐりと開けてクルスを見ていた。


 その様子を見て内心では動揺するクルス。

 『精霊』どもの言葉には、厄介事の匂いしかしない。

 何とか軌道修正できないかを試みる。


≪なぁ、やっぱり人違いだろ。俺はそんな大層な存在じゃないぞ≫

[ またまたご謙遜を。私の目に狂いはございません ]


 この爬虫類めが……。

 クルスは頭を抱えたくなった。


 一方まったくクルスの意図を理解していないサラマンダーは、自分の創造主に会えて嬉しそうである。

 そんなクルスとサラマンダーの会話を聞いていたポーラが、意を決してクルスに話しかけてきた。

 その声は上ずっている。


≪あ、あの……クルスさん? これってどういう……?≫

≪ええと……何ていうか、俺にもよくわからないんだけど……。はは、困ったな……≫

≪……≫


 台詞の後半は、思わず声が震えてしまったクルス。

 ノアキスの骨董屋でハルと共にチェルソを欺いた時は完璧な演技が出来ていたが、ここでの彼は三流の大根役者であった。

 いや、あの時は事前に“台本”を用意できたから上手くいっただけであろう。


 クルスがほとほと困り果てていると救世主は唐突にやってきた。


[ これ、サラマンダー。何をやっておるか!! ]


 足元から声が響き、クルスが驚いて下を見るとそこには体長三十センチほどの小さな老人が居た。

 こいつは土を司る精霊ノームであろう。

 そんなノームにサラマンダーは能天気に声をかけた。


[ あれ、ノームも『世界存在』に挨拶に来たのかい? ]

[ 違う。その方……じゃない、“そやつ”は『世界存在』ではない ]

[ え、ウソ。そんなはずないよ。だってノームだって感じるでしょ? ]

[ だーかーら! その方……じゃなくて“そいつ”本人が否定しておるのだ!! その意図を少しは考えろっ! ]


 そういって爬虫類に説教をかますノーム。

 そしてクルスの肩までひょいっと昇ってくると耳元で囁く。


[ 大変失礼を致しました。我らが創造主よ。シルフとウンディーネにはそれがしから伝えておきます故、今まで通り“一人の人間”としてお過ごし下され ]

≪あ、ああ。頼む≫

[ それではそれがしはこれにて失礼致しますぞ ]


 そう言うとノームはさっさと土に消えてしまった。

 それを見送ったサラマンダーがぎこちなく話しかけてくる。


[ あ、ええと、申し訳……ごめんねぇ。人違いだったよ ]

≪……わかってくれて何よりだ。とりあえず、ポーラの手助けをしてやってくれないか?≫

[ そ、そうだね。勿論。死者の弔いだろ? 手伝うよ、ネコ耳ちゃん ]


 急に話を振られたポーラがびっくりした様子で答えた。


≪あっはい。よ、よろしくお願いします≫

[ うん、任せてよ! ]


 そうしてサラマンダーが死者の骸の上で小さな体で舞う。

 すると、死者の骸が赤熱した光に包まれる。


 気を取り直したポーラとその傍らでフィオレンティーナが祈り出すと、プレアデスの民達はそれに続いて祈り始めた。

 無神論者のクルスも一応膝を折り、手を合わせて祈り始める。


 マリネリスの神には見放されているクルスではあったが、プレアデスの気さくな精霊どもとは相性がいいようだ。


 そうして弔いが終わり、浄化された骸を土に皆で埋めた。

 その様子を見守っていたサラマンダーが口を開く。


[ さてと、ボクもそろそろ行くかな ]


 そんなサラマンダーに礼を述べるポーラ。


≪ありがとうございました。サラマンダー様≫

[ なーに、このくらいお安いご用さ。あ、そうだ。せか……クルスさん ]


 『世界存在』と言いかけて何とか踏みとどまるサラマンダー。


≪何だ?≫

[ もしかして、『世界の歪み』を探してる? ]

≪何か知っているのか!?≫

[ うん。それと思しき場所があるよ ]

≪どこだ、それは?≫

[ ステロペ島だよ。それじゃあね ]


 そう言うとサラマンダーは火がふっと消えるように姿を消した。


 クルスはサラマンダーの言葉を咀嚼する。

 ついに、捜し求めていた『世界の歪み』の情報を手に入れた。


 しかし問題はその場所であった。


 ステロペ島。

 そこはオーベイの一族の本拠地だ。




お読み頂きありがとうございます。


次話更新は 11月17日(金) の予定です。


ご期待ください。




※11月16日  後書きに次話更新日を追加 一部文章を修正

※12月31日  一部文章を修正

※ 4月19日  一部文章を修正

物語展開に影響はありません。

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