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アマルコルド -私は忘れない-  作者: 利府 利九
第六章 Until The End Of My Life
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93.不吉なしるし


 スケルトンの襲撃を退け、野営地へと急ぎ引き返すフィオレンティーナたち。

 フィオレンティーナ、レジーナ、クルスの三人は全力で夜の茂みを疾走している。


 先ほど三人のもとに一向に増援が来る気配が無かったという事は、野営地に居るチェルソ達も不死者アンデッドと交戦状態に陥っている可能性が高いと考えられた。

 急がねばならない。


 走りながらもフィオレンティーナは自責の念に駆られていた。

 不死者どもの接近を許してしまったのは、夜間の見張りを務めていた自分の責任が大きいからだ。


 そしてその思いは同じく見張りを担当していたレジーナにもあるようで、彼女は大柄な体を活かした長いストライドで疾走している。 

 レジーナの全力疾走にフィオレンティーナはついて行くのが精一杯である。


 対してクルスは時折、魔術《風塵》で風を発生させながら速度を確保しているので余裕が見られる。


 三人が暫く走ったところで野営地が見えてきた。

 野営地は案の定、不死者どもに取り囲まれており、残った戦力で防衛戦をしているようだった。

 スケルトンが多いが、中にはマリネリス大陸では見た事の無い不死者も混じっている。


 図らずも野営地を包囲している不死者の背後からの奇襲という形になった。

 その好機を逃さずにレジーナが駆けてゆき、スケルトンが数体固まっているところに大剣を横薙ぎに振りぬく。


 レジーナの豪快な一振りで複数のスケルトンが木っ端のように吹き飛んだ。

 そして野営地の皆に大きな声で呼びかける。


「おい! お前ら、無事か!!」


 レジーナの咆哮のような問いかけに真っ先に答えたのは骨董屋の主人チェルソだ。

 

「遅いよ、レジーナさん!! 見張りが何やってんの!」


 ぐぅの音も出ない正論である。 

 それを聞いた途端に罪悪感に押しつぶされそうになるフィオレンティーナ。

 だが、もう一人の見張りのレジーナは違った反応だった。


「うるせぇ!! 後でいくらでも謝ってやるから、そのクソアンデッドをさっさと片付けろ!!」


 と、怒鳴り返す。

 これではどっちに非があるかわからない。


 いや、一応謝罪の宣言をしているので彼女なりに申し訳ないと思っているのだろう。

 その気持ちの表れか、先ほどよりも動きにキレがあるようにも見えるレジーナ。

 破竹の勢いでばったばったとスケルトンをなぎ倒してゆくレジーナであったが、砕き方が大雑把であったせいか、不完全ながらも復活する個体が出始める。


 そうしてレジーナが雑に砕いた骨の残りをクルスが“骨砕ボーンクラッシャーき”で丁寧に粉砕して復活を阻止している。

 地味ではあるが適切かつ、堅実な仕事ぶりである。


 その一方で獣人族ライカンスロープのヤニック・ンゴマも正拳突きや回し蹴り、鉄山靠てつざんこう等を用いてスケルトンを無力化してゆく。


 打撃攻撃は不得手のチェルソとエセルバードは青白い肌の不死者を片付けていた。

 あの不死者はグールというらしい。


 そしてフィオレンティーナは前衛の取りこぼした不死者を《送還》し、ポーラは負傷者を回復させるという分担である。


 そうして五分ほどを要し、ついに不死者を殲滅することに成功する一行。

 護衛の奮闘もあって犠牲者無しでこの戦闘を終わらせる事ができた。



「はぁー……。こん畜生、疲れた」


 レジーナがぜえぜえと息を吐きながら大の字になって寝っ転がる。

 全力疾走の後に大剣をぶんぶんと振り回しての戦闘を切り抜けたのだ。

 疲れないわけがない。


 しかしレジーナの戦いはまだ終わっていなかった。


「レジーナさん。これ、どういう事?」


 眉間に皺を寄せながら彼女に詰め寄るチェルソ。


「あぁ? 何が?」


 そんなチェルソにぶっきらぼうに答えるレジーナ。

 先ほど彼女が口にした“いくらでも謝る”という言葉は、スケルトンと一緒に吹き飛んでしまったようだ。

 それを聞いたチェルソは憤慨する。


「“何が?”じゃないでしょ! 何であんな大勢の不死者の接近に気づかなかったのさ?」

「し、しょうがねえだろ……。気づいたら居たんだからよ……」

「しょうがなくない!」


 チェルソは尚も不機嫌を隠さずに言う。

 彼にしては珍しくカンカンに怒っている。


 フィオレンティーナが観察するところによると、このチェルソという男は自分に多少の不利益が及ぶ事に関しては怒りを露にすることは無い。

 今回ここまで怒っているのは、彼が溺愛しているルチアとジルドが危険に晒されたからであろう。


 覚悟を決めたフィオレンティーナも謝罪の言葉を口にする。


「チェルソさん、それと他の皆さんもごめんなさい。私も見張りの当番でした。私にも責任はあります。本当に申し訳ありません」


 そう言って深く頭を垂れるフィオレンティーナ。

 それを見たチェルソはばつが悪そうに呟く。


「……反省してくれればいいよ」


 一方のレジーナはチェルソの態度に納得がいかないようだった。


「おい骨董屋! あたしの時とは態度が違えぞ!! 何でシスターにはそんなに優しいんだよ!!」

「うるさいな。君は全然反省してないだろ」


 チェルソが厳しく追求する。

 しかしレジーナは意に介さない。


「そんならこっちからも言わせてもらうけどよ、そんなに怒るくらいなら何でガキ連れて来たんだよ? 今回の食糧輸送が危険な事くらい分かってたんだろ?」


 その言葉を聞いてチェルソは急に歯切れが悪くなる。


「そ、それは……、ルチアとジルドに色々な景色や珍しい物を見せてあげたくて……」

「そりゃ手前の我がままだろう? それにあたしらを巻き込むな! 今回だってそのガキどもが真っ先に襲われたんだ! なぁ、クルス?」


 そうクルスに話を振るレジーナだったが当の本人は別の事に夢中であった。

 動かなくなったグールの首の後ろを調べている。

 その時、自分に視線が向いている事に気づいたクルスが口を開く。


「ん? ああ、悪い。聞いてなかった。何だって、レジーナ?」

「だからよぉ……」


 そうレジーナが言いかけたのを遮ってエセルバードがクルスに問いかける。


「クルス、そのグールの死体がどうかしたのか?」

「ええ、首の後ろに何かの紋様が彫ってあります。他の個体も調べてくれますか?」


 言われてグールの首の後ろを検めてみると、確かに首の後ろに紋様が刻まれていた。

 そして刻まれた紋様を見てポーラが驚いた表情で呟く。


「これって……《印術ルーン》……!!」


 それが何なのかしらないフィオレンティーナはポーラに問いかける。 


「“るーん”? 何ですか、それ?」

「特殊な文字を記す事で様々な恩恵を得る事ができる術です。刻む文字で効果が変わります。でも……」

「でも?」

「こんな風に、体に直接刻む事は普通はしないです。それに、こんな禍々しい文字は初めて見ました」


 そう戦慄しながら言うポーラに、ヤニックが険しい表情で語りかける。


≪■■■■■オーベイ■■■■■■■■≫

≪■■■■■■■■■■■■≫

≪■■≫



 二人の会話がわからずぽかんとするフィオレンティーナにクルスが訳してくれた。


「ヤニック族長曰く“今回の不死者の襲撃はオーベイ族の仕業かもしれない”ってさ」

「え、そんな事ができるんですか?」

「さあな。まぁ、それは置いといて、早くここから離脱した方がいい気がする」


 そんなクルスの言葉に賛同の意を示すチェルソ。


「それには僕も賛成だね。不死者の襲撃があった場所で寝る気にはならないよ」


 そしてそれは輸送隊一行の総意でもあった。

 早速移動の準備を開始する皆。


 そんな中ポーラがフィオレンティーナに声を掛けてきた。


「フィオさん、一緒に死者を弔いましょう。手伝ってください」


 どうやら弔われなかった死者が不死者となるのはプレアデスでも変わらないらしい。


 他の者が移動の準備を進める中、ポーラとフィオレンティーナは死者の骸を一箇所に纏めて置く。

 そして二人で祈りを捧げる。


 その時、ふいにぼわっとした光が二人の目の前に現れた。

 そしてその光は燃え盛る小さなトカゲの姿へと姿を変えた。


 それを見た瞬間、プレアデスの民達が色めき立つ。


「せ、精霊さま……」


 ポーラが信じられない、といった様子で呟いた。


お読み頂きありがとうございます。


次話更新は 11月13日(月) の予定です。


ご期待ください。




※11月12日  後書きに次話更新日を追加 

※ 4月19日  一部文章を修正

物語展開に影響はありません。

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