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アマルコルド -私は忘れない-  作者: 利府 利九
第九章 Lights Of Cydonia
197/327

197.近接戦闘



 地上の光も届かない薄暗い洞穴。

 その中に四人の男女が居る。


 “白金”級冒険者レジーナ達のパーティである。

 彼女達は現在ノアキスの真下の地中深くに息を潜めていた。


「あーあ、大丈夫かよ……あいつら」


 小さな声でレジーナがボヤく。

 彼女達はこの地中で仲間達の帰りを待っていた。



 アルシアの森での戦闘後、敵に奪われたノアキス奪還のための作戦が練られた。

 作戦のキーポイントになったのはボレアレのドワーフ達が密かに掘り進めてあったトロッコ用の坑道である。


 大量の兵士を運べるような坑道では無いが、少人数の移動なら充分に役割を果たせる。

 その坑道を有効活用しようということになったのだ。


 幸い、その坑道はノアキス近くまで既に掘り進めてあったので追加で新たに掘る距離は少なく済んだ。

 兵士達によって夜を徹して掘削作業が進められ、ノアキスの町の下まで坑道が伸びたのがつい昨日の事。


 そこを侵入経路にしてレジーナを筆頭としたレジーナ達“白金”冒険者のパーティ、加えてナゼール、レリア、チェルソの三人組と、ハル、ミント、そしてヘルガがノアキスの地下へと侵入した。


 そして現在、ナゼールやハル達が町中や大聖堂の偵察に向かってくれている。

 彼らの目標は敵の総大将リチャード・ダーガーである。


 リチャードを見つけ次第、偵察隊からレジーナ達に位置が伝えられる手はずとなっている。

 彼を倒せればそれで良し、倒せなくても敵本拠地を撹乱できれば成功である。

 ノアキスにはすでにサイドニア軍が向かっており、間もなく到着予定だ。


 偵察班からの連絡を一日千秋の思いで待ちわびるレジーナ。

 そわそわとしたレジーナをマルシアルが宥める。


「レジーナ、落ち着け。こうして大聖堂の真下に消耗無しで来れたのだ。(わし)らの勝算は決して低くは無い」

「おじじ、それはそうだけどよ……」


 尚もナーバスな表情を崩さないレジーナ。

 彼女の心配事はそこでは無かった。


 コリンがそれを察する。


「大丈夫だよ、レジーナ。ナゼールやハルさんたちがそう簡単にやられるわけないじゃん」


 微笑を交えつつコリンが言う。

 それを聞いてレジーナも少しばかり落ち着きを取り戻した。


「そうか……そうだよな。あたしらがあいつらを信じてやらなきゃダメだよな」

「そうそう」


 にんまりと笑いながら頷くコリン。

 彼も決戦前で緊張しているだろうに、不安な顔ひとつせずにレジーナを励ましてくれた。

 それに勇気づけられるレジーナ。


 その時、地表の様子を窺っていたイェルドが口を開く。


「シーッ! 何か音が聞こえた」


 言われて口を閉ざすレジーナ達。


 次の瞬間、遠くから銃声が響いた。





-----------------------






 地下道を通って大聖堂の中に侵入したナゼール達。

 戦闘準備の為か閑散とした大聖堂内部を探索していると、純白の法衣を身に纏った黒髪の少年が礼拝堂へと入ってゆくのを目撃した。


 ハロルド・ダーガーだ。


 もしかするとリチャードもその先にいるかもしれない。

 そう考えた一行は礼拝堂へ侵入する事にした。


 ところが礼拝堂の入り口を見張っている狙撃手が居る事にハルが気付く。

 彼女の目に仕込まれた機能である《温度感知サーモ》とかいうのを使って見つけたのだそうだ。

 ナゼールにはその原理はよくわからなかったが。


 とにかくナゼール、レリア、チェルソの三名がローブを纏い宗教関係者に化けて礼拝堂へと向かい、ハルとミント、ヘルガの三名で狙撃手を排除するという段取りで行動を開始する。


 そうしてナゼール達が礼拝堂の入り口前に差し掛かった時、銃声が響いた。

 一瞬体が硬直したナゼール達だったが、どうやら撃たれたのは自分達では無いらしい。


 聞こえてくる音から察するに、排除前に感づかれて戦闘になってしまったようだ。


「銃声……」


 ナゼールの横で、レリアが小さく呟く。

 ハル達を心配しているのだろうか。

 そんなレリアにナゼールは注意を促した。


「レリア、こっちに集中しろ」

「え、ええ。そうね」


 そこへチェルソも声をかけてくる。


「彼らの無事を信じよう。それに彼もこちらに気付いたみたいだよ」


 礼拝堂の中に目をやると、ハロルドが立ち上がってこちらを見ている。

 ナゼールは二人に告げた。


「行くぞ」


 三人は注意深く礼拝堂に足を踏み入れるが、幸いにしてここの守りは手薄であった。

 外から見張っていた狙撃手の他に兵士は居なかったようだ。


 ハロルドまであと数メートルまで来たところで、ナゼールが少年に話しかける。


「お前がハロルドか?」

「やあ、こんなところまでわざわざご苦労様。でも無駄足だったね、ここには皇帝陛下はいらっしゃらないよ。よそを探すんだね」


 微笑を浮かべながら語りかけてくる少年。

 その優雅な佇まいは高貴な身分を連想させた。


 だが、ナゼールの横で少年を観察していたレリアは違う感想を抱いたようだ。


「あら? この少年……」

「レリア、どうした?」


 ナゼールの問いに答えず、レリアはずかずかと距離を詰める。

 そして腰に差したナタに手を掛けると、少年に向けて斬りつけた。


 突如として少年に斬りかかるレリアを諌めようとするナゼール。

 だがレリアはナゼールが制止する前に刃を止める。


 少年の眼前でピタっと止まった刃。

 微かに少年が“ひっ”と怯む声が聞こえた。


 それを聞いてレリアは刃を収める。

 そして呟いた。


「やっぱりね……。背格好や佇まいは似てるけど、あなたはハロルド本人じゃないわね。本人は今のでも眉一つ動かさないわよ」


 レリアが少年に言うと、彼は震えながら反論した。


「ふ、ふざけるな。僕がハロルド本人だ。こ、この無礼者どもめ!」

「あーはいはい、そうね。影武者の坊や」


 少年の言葉を聞き流しながらレリアはナゼールとチェルソに提案した。


「行きましょう、二人とも。ここに居ても時間の無駄だわ」





--------------------------






 礼拝堂の入り口を見張る狙撃手を背後から排除しようとしたハル。

 だが女狙撃手はハルによる背後からの奇襲にすんでのところで反応した。


 彼女は即座にマシンピストルを抜き放ち、ハルに向けて発砲してきた。

 その銃撃を横に跳んでかわしたハルは一旦距離をとる。


 そして声をかけた。


「ふふっ、こんなところで会えるとは。海の上ではお世話になりましたねぇ、狙撃手さん。私の事覚えてますか?」

「あいにく、私は忘れっぽい性格でね」


 ハルの質問に曖昧な返答をする女狙撃手。

 彼女の顔にハルは見覚えがあった。


 ハルがクルスに連れられてナゼール達とともにプレアデス諸島へ赴いた帰り道の海上での事。

 ハルの主人であるクルスが命を落としたプレアデス沖でのルサールカの民からの襲撃があった。

 それに加担していた狙撃手である。

 ハルはあの時《望遠ズーム》で彼女の姿を視認していた。


 彼女が船の“鐘”を対物ライフルで撃ち抜いてくれたおかげで、海中に潜んでいた『白き鯨レヴィアタン=メルヴィレイ』が姿を見せてしまったのだ。

 そしてクルスはそのバケモノに喰われてしまった。


 つまりは彼女もクルスの仇のひとりである。


 憎悪が滲んだ視線を女狙撃手に送るハル。

 その表情のまま女狙撃手に告げた。


「忘れっぽい……ですか。だったら思い出させてあげますよ」


 その瞬間、強く床を蹴って女に飛び掛る。

 再び女がマシンピストルの《リューグナー18》で応射してくるが、その弾道は先ほどの射撃で見切っていた。


 最低限の重心移動で身をよじって銃弾をかわしつつ前進するハル。

 そして右手の《パイルバンカーE型》の杭を女に向ける。


 今回ハルはパイルバンカーの先端部分を短剣から杭に換装していた。

 “グスタフ”との戦闘が想定されていたので、固いウロコを貫く為の杭を選択したのだ。


 女はギリギリのところで杭による刺突を避ける。

 それにより杭が勢い余って壁に突き刺さった。


 一瞬身動きが取れなくなったハルに向けて女は《リューグナー18》を撃ってきた。

 それを左手で遮りつつ、ハルは上段の回し蹴りを放った。


 綺麗なモーションの蹴りが女の右手にヒットし、彼女は銃を取り落とす。


「くっ!」


 その一瞬の隙を逃さず再び距離を詰めるハル。

 だが女は後退することなくハルを迎えうつ。


 左手に持っていたセミオートスナイパーライフルの《グライフ》を振りかぶり、銃床ストックを叩き付けて来た。

 咄嗟に両腕を前にかざして防御するハル。

 ガンという鈍い音が響き渡り、ハルはバランスを崩して尻餅をつく。

 

 その瞬間、素早く腰撃ちの体勢に移った女は《グライフ》の引き金を引いた。

 セオリーではありえない行動に度肝を抜かれるハル。


 ハルの頭部を狙ったその射撃を、上体を傾けてかわすハル。

 銃弾がこめかみを掠めるが、ハルは意に介さず寝そべったまま蹴りを放った。


 蹴りによって銃口を逸らされた女は再び距離を取る。

 そのスキをついてハルは立ち上がることに成功した。



 そして次の攻撃の機会をハルが窺っていたその時、その背後から足音が響く。

 ミントとヘルガだ。


 ミントが口を尖らせて文句を言う。


「ハルー! なに見つかってるんだよ、ドンくさいなぁ」

「うっさいですよ、ミント。それよりそっちは終わったんですか?」


 それに答えるヘルガ。


「こっちはちゃんと敵を倒してきたよ」

「なるほど」


 ハルは頷くと、対峙している女狙撃手に問いかける。


「だそうですよ、狙撃手さん。三対一でしかも増援も来ないみたいですけど、どうします? まだやります?」

「……」

「もしあなたが何か有益な情報を喋ってくれるなら」

「……」

「苦痛なく殺して差し上げますが、どうします?」


 冷たく言い放つハル。

 対して女狙撃手は苦虫を噛み潰したような表情で静かに言った。


「提案は有難いが、私はお喋りは嫌いなんだよ。ポンコツアンドロイドさん」

「……どうやら苦痛が欲しいみたいですねぇ。残念です」




お読み頂きありがとうございます。


次話更新は 10月10日(水) の予定です。


ご期待ください。



※10月 9日  後書きに次話更新日を追加 

※ 6月 9日  一部文章を修正

物語展開に影響はありません。

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