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アマルコルド -私は忘れない-  作者: 利府 利九
第九章 Lights Of Cydonia
179/327

179.信頼



「テオドール、何これ? ねえ何コレ?」


 目をキラキラさせながらミントの相棒ヘルガがテオドールを問いただす。

 それに対し鼻高々に答えるテオドール。


誘導式ホーミング粘着爆弾セムテックスだ」

「ほーみんぐ……せむ……?」


 ミントは首をかしげた。

 そんなものは映画で見たことも無いからだ。


 自信満々のドヤ顔で告げるテオドールに対して、ヘルガはワクワクが止まらないと言わんばかりの楽しげな表情で詳細を尋ねる。


「なあなあ、テオドール。どういう原理なんだ? 説明してくれよ」

「しょうがねえな~」


 そう言ってテオドールは丁寧にレクチャーを始める。


「先に射出した小っちゃいボールと後に打ち出した筒のそれぞれに“双子石”っていう魔鉱ミスリルを仕込んである。こいつらは魔力を流し込む事によってお互い磁石みたいに引き合う性質があるんだ」

「ほーん。そんでそんで?」

「それでだな、先に撃ったボールの内部には糊を詰めてある。そのボールが対象にヒットすると衝撃でボールに亀裂が入って糊でくっつくようになっている。後はくっついたボール目掛けて筒が飛んでいくって仕組みさ。その筒は信管になってて中には爆薬を詰める予定だ」


 それに対して疑問を憶えたミントはテオドールに質問してみた。


「それって面倒くさくない? 直接、爆薬を飛ばすのはダメなの?」

「爆薬を直線状に飛ばすだけだと大した飛距離にならないし、もし思ったより飛ばなくて自分の近くで爆発したら危険だろ? それを補う意味でも“双子石”の効果は絶大だぜ」

「あ、そっかぁ。ちゃんと考えられてるんだね」

「当たりめえだ」


 それを聞いていたヘルガが感心したように呟く。


「そうか……。それにここボレアレなら掘削用の爆発物を扱ってるからそれを転用する事も容易だなぁ」

「だろ? これは自分でも中々良いアイディアだと思ってるんだぜ」


 そう言って胸を張るテオドール。

 得意げなテオドールをフォルトナがヨイショする。


「さすが私のマスターッス! テオ!」

「よせよ、フォルトナ。照れるぜ」

「よっ! 天才兵器開発主任! 不屈の“まだら髪”! イケメン! 目つき悪っ!」

「さりげなく悪口を混ぜ込むのをやめろ」


 フォルトナの“賛辞のような何か”を聞き流すテオドールにミントは尋ねる。


「テオドール、これって量産するの?」

「うーん……。良いモノではあるんだが、みんなが皆コレを使うと戦場が混乱しそうだから一部のエース向けにすると思う」

「そっかぁ」

「それよかよ、ミント」

「んー?」

「レジーナとハル達はどうしたんだ? 一緒じゃねえのかよ?」

「ああ、レジーナ達なら、今頃穴ぐらの中にでもいるんじゃない」

「あ? 穴ぐらだぁ?」





-----------------------





「なるほど、ここなら訓練にぴったりですねぇ……」


 巨大な空洞を見渡しながらハルは満足げに呟く。

 ビョルンの部下に案内されて廃坑道を進んだハルとレジーナ達は、細い坑道からだだっ広い大きな空間へとたどり着く。


 ビョルンの部下曰く数年前までは非常に沢山の金属類が産出された現場であるそうだが、それも採り尽くされて現在は空っぽの空洞となってしまっている。

 ハルは案内してくれた彼に礼を言って送り出すと、レジーナに向き直った。

 

「さ! レジーナさん、やりましょうか!」

「お、訓練か?」

「いえ、今日はただの肩慣らしです。まずは“竜の血”を体に馴染ませないと危ないですからね。本格的な訓練は明日以降です」

「そうか……」


 残念さと安堵が交じり合った複雑な表情を浮かべるレジーナ。

 そんな彼女を《温度感知サーモ》で盗み見るハル。


 普段よりも体温がやや高い。

 緊張しているようだ。


「レジーナさん、そんな緊張しなくても大丈夫ですよ」

「し、してねえよ!」

「いえ、してます。私にはお見通しです」


 そんなレジーナにコリンが心配そうに声を掛ける。


「大丈夫? レジーナ」

「心配すんな、コリン。あたしは見ての通り、絶好調だ」

「うん、レジーナ。僕たちがついてるからね。リラックスして」


 コリンがそう言うと、後ろのマルシアルとイェルドも大きく頷いた。

 それを見たレジーナの体温が下がる。

 彼女の緊張状態が緩和されたようだ。


 “信頼”などという目に見えぬ不確かなものを温度変化で視覚したハルは軽く感動を覚えつつ、レジーナに告げる。


「準備はいいみたいですね。では早速、“竜の血”を飲み込んでください」

「……ああ」


 レジーナは神妙な面持ちでルビーの宝石のように真っ赤な血の結晶を口に入れ、そして一気に飲み干した。

 瞬間、レジーナの体温が跳ね上がる。

 ぶわっと汗を噴き出し、ぜえぜえと息を切らし始める。


 だがこれらの症状は事前にレジーナには伝えてあった。


 実はクルスの設定上はレジーナは“竜の血”無しでも竜の力を解放することは可能である。

 幼少の頃に飼い犬フランシスの小屋を破壊したときのように、感情を高ぶらせれば一時的に竜の力を顕現させることは出来うる。


 だが現在の彼女は父親による徹底した情操教育の賜物か、感情を動かさない事に長けてしまった。

 今までの自分を捨てて“粗野な女剣士”という仮面を被ってそれを演じることにより、感情を動かさない術を見につけたのだ。


 だがそれでは困る。


 これから始まるザルカ帝国との戦いは、仮面を被ったままでは決して勝てない。

 これまで培った自分の力・技術・経験・人脈・そして人間性すべてをさらけ出さないとダメなのだ。


 その時、今までしっかりとした姿勢で立っていたレジーナがふらつく。

 異常な高熱に晒されたせいで、普通に立つ事もままならないのだろう。

 そして熱さでボーっとした虚ろな目でこちらを見ている。

 その姿はいつもの彼女とはかけ離れていた。


 居ても立ってもいられずコリンが声をかけてきた。


「は、ハルさん。まずいんじゃない?」

「大丈夫、予定通りですよ」

「で、でも……僕、ここで見ている事しかできないの?」


 悲痛な表情で言葉を搾り出すコリン。

 そんな少年にハルは提案する。


「じゃあ、コリン。レジーナさんの手を握ってあげてください。そして声をかけてあげて」

「う、うん」

「かなり熱くなってますから気をつけて」


 ハルの言葉を聞いたコリンがレジーナの手を恐る恐る握る。

 あまりの熱に一瞬手を引っ込めそうになるが、それでも両手でレジーナの手を掴んだ。


 そして何事かをレジーナに囁いている。

 その内容が気になったハルは聞き取ろうと近付きかけて、やっぱりやめた。

 

 それは当人同士の秘密にするべきだろう。

 部外者が詮索するというのは無粋だと思ったのだ。


 やがてマルシアルとイェルドもレジーナに寄り添い暫くそのままで居たが、座り込んだレジーナが眠るようにして気を失った。


 イェルドがハルに問いかける。


「ハル殿、これで良いのか?」

「ええ、これで寝ている間に竜との同質化が進むことでしょう。素の状態よりも竜の力を効果的に引き出せるようになります」

「そうか……」


 深くため息をつきながらイェルドが呟く。

 すると今度はマルシアルが発言した。


「レジーナの父親はその同質化を避けるために“竜の血”を秘匿していたのか?」

「はい、そうです。ですが同時にレジーナさんの身に何かあった時のための保険として“竜の血”を使用する考えもあったようです。最後の手段として、ですが」

「なるほどな。ちなみに聞くが、創造主の筋書きシナリオとやらでもこんな風に“竜の血”を取り込んだのか?」

「いえ、『ナイツオブサイドニア』内では実戦のぶっつけ本番で“竜の血”を取り込んで、竜の力を解放することには成功しましたが、その結果暴走してます」


 それを聞いて眉をひそめるマルシアル。


「おいおい……今回は大丈夫なのだろうな?」

「ええ、大丈夫です。レジーナさんを信じましょう」


 そして会話を終えたハル達は横たわるレジーナに視線を向ける。

 体温上昇は既に止まり、安定してきた。

 これなら暴走の心配も無いだろう。


「体温が安定してきました。寝床へ運びましょう。まだ体が熱いので私がおぶりますから彼女の持ち物を頼みます」

「わかった」


 そうしてレジーナを背負うハル。

 気を失ったレジーナは無意識的に苦しそうな表情を浮かべている。


 その時、彼女の指がぴくっと動いた。

 何か夢でも見ているのだろうか。


 願わくば、夢の中でくらい幸せになっていて欲しいものだ。

 ハルはぼんやりとそんな事を考えたのだった。




お読み頂きありがとうございます。


次話更新は 8月10日(金) の予定です。


ご期待ください。




※ 8月 9日  後書きに次話更新日を追加

※ 5月24日  一部文章を修正

物語展開に影響はありません。

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