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アマルコルド -私は忘れない-  作者: 利府 利九
第九章 Lights Of Cydonia
178/327

178.新兵器



 ボレアレのドワーフ達が掘った移動用トロッコのトンネルから一人の獣人族ライカンスロープが地上に出てきた。

 ミントだ。


 暗闇から日の光が当たる地上へと出てきて、未だ明順応が済んでいない目を細める。

 そして彼は大きく伸びをしながら呟いた。


「ふう、二回目ともなるとちょっとは慣れたね」


 いち早く日の光を浴びて深呼吸するミント。

 その後から他の面々もトンネルから出てくる。



 ノアキスでの用事を済ませたミント達はセシーリアとその護衛のヨアキムと別れ、再び坑道をトロッコで爆走してボレアレに戻ってきたのだった。

 今回はトロッコの操縦手コリンも加減を覚えてくれたので、前回の様な絶叫マシーンにはならずに済んだのである。


「僕のおかげだね。みんな感謝してよ」


 自慢げに告げるコリンに、やつれた様子で答えるイェルド。


「……ああ、礼を言うぞコリン」


 口では感謝の言葉を吐いてはいるが、その顔は青ざめていて辛そうだ。

 彼は乗り物、というかトロッコを非常に苦手としていて、前回の移動の際には盛大に嘔吐していた。

 それに比べれば今回は大分マシになったといえる。


 一方、マルシアルは涼しい顔だ。


「ふん、これしきで情けないな。イェルド」

「私はコレが苦手なのだ、老マルシアル。仕方ないだろう」

「心頭滅却すればこの程度なんという事はない。それに見ろ、レジーナを。前回ギャアギャア騒いでおったのに今日は落ち着いている」


 マルシアルに言われてレジーナを見ると確かに彼女は落ち着き払った様子であった。

 そして真面目な様子でハルと会話している。

 レジーナの“竜”の力を訓練する予定の二人は、こうして打ち合わせを重ねていた。

 思えばノアキスを出て以来ずっとあんな調子だ。


 熱心に話しながら歩く二人にヘルガが問いかける。


「ねえ、ハルさん。この後どうすんの?」

「んー、とりあえず頭領に顔を見せてまた宿を手配してもらえないか掛け合いましょう。その後でヘルガさんとミントはテオドールとフォルトナの二人と合流してください」

「ハルさんとレジーナ達はさっそく訓練すんのかい?」

「いえ、今日は訓練場所の下見ですね。人目につかなくて、そして周りに何も無い広い空間が必要です」

「へー、そんな場所あんのかなぁ?」


 疑問を浮かべるヘルガにレジーナが告げる。


「鉱山の中にはもう鉱物を取り尽くして放棄されたエリアもあるらしい。その中から訓練に使えそうな場所が無いか探そう」


 その言葉に同意するハル。


「そうですね。ではさっさと頭領にご挨拶に行きましょう」


 そうして事務所へと向かう一行。

 初めて来た時と同じく入り口の守衛に来訪を伝えて事務所内に通されると、相も変わらず雑然としたビョルンの部屋がそこにはあった。



「とうりょうー、来たよー」


 先頭を歩いていたミントが挨拶すると、机にかじりついていたビョルンは気だるげに頭を上げる。


「何だ、お前ら。もう戻ってきたのか」

「うん、用事は終わったからね」

「そうか、トロッコの乗り心地はどうだった? 快適だっただろ?」

「いっぱい揺れたせいでイェルドが吐いちゃったよ」

「そうか。快適だったか」


 生返事をしたビョルンは再び机へと顔を向ける。

 それを見たハルが声をかけた。


「忙しそうですね、ビョルンさん」

「ああ、呼び出しを食らっちまってな」

「誰からですか?」

「サイドニアの王様からだ」

「エドガー陛下から?」

「ああ。……ったく、急にこんな手紙で呼び出しやがって。準備が大変じゃねえか」


 言うなり大きなため息を吐き出し椅子にもたれかかるビョルン。

 彼の机には帳簿がうずたかく詰まれており、彼が今激務に追われている事が一目でわかった。


 それを見たレジーナが問いかけた。


「それってどういう用件なんだ?」

「具体的なことは書いていないが、文面から察するにどうもザルカの剣呑な動きをキャッチしたみてえなんだな。今すぐ戦争どうこうはねえだろうが、開戦前に一回会って話をしておこうって事らしい」

「なるほど」

「サイドニアは戦争に向けて既にノアキスとがっちり同盟を結んでいる。次はウチやハルマキスも抱き込んでザルカの外堀を埋めるつもりだ。やる気だぜ、サイドニアもザルカもどっちもな」


 そう言って肩をすくめるビョルン。


 ミント達がノアキスに居る間に状況はそこまで進んでいたらしい。

 ならばこちらも迅速に行動しなければならない。


 そう考えたミントはビョルンに問いかける。


「テオドールとフォルトナは? 今どこに居るの?」

「あいつらには倉庫を貸しててな。そこで銃器開発に励んでる。以前、おまえらをに貸してやった俺の古い作業場があっただろ? そこの近くだ。お前らも泊まっていいぞ」

「ありがとう、頭領」

「なあに、いいってことよ」


 気前良く告げるビョルン。

 いや、実のところは忙しいからさっさとミント達を追い出したいのだろう。


 そんなビョルンにハルが尋ねた。


「あのう、頭領さん。一つお聞きしたいんですが」

「あ? どうした?」

「この辺で“人目につかなくて、そして周りに何も無い広い空間”ってありますか?」

「教えてやってもいいが、その前に使用目的を話せ」

「ええとですね、レジーナさんの秘密の訓練に使うんです」

「訓練……? わかったわかった、教えてやるからさっさと行ってくれ。俺は忙しいんだ」




------------------





 ビョルンに借りた倉庫の中の射撃場にて。


 テオドールが試作の散弾銃をぶっ放している。

 その様子を観察するフォルトナ。


「今回は魔鉱ミスリルの配合割合もバッチリみたいッスね」

「そうだな。フレームは歪んでねえし射撃も安定してる。前のより絶対にこっちの方が良い」


 前回試していた弾薬では威力が高すぎて銃本体にガタがついてしまったが、今回は大丈夫だ。

 やはり以前のものでは威力過剰だったのだろう。


「あとは例の新兵器を早く試したいところッスねぇ」

「まったくだぜ」


 そう言って二人は机の上に放置されている銃器のようなものを見つめた。

 こちらのものはテオドールが“双子石”を導入して作り上げた全く新しいコンセプトの代物だ。


 一見するとそれは木製ストックの古風なアサルトライフルのようにも見える。

 そして右手で保持する持ち手とは別に左手で支えるグリップが取り付けられており、それぞれに引き金がついている。

 これは従来の銃のように弾丸を飛ばして戦うものではないのだ。


 今までの銃器とは一線を画す“尖った”一品に仕上がったが、残念な事に《魔術》の素養が無いテオドールには扱えない。

 その為ビョルンに魔術を使える人間を送ってくれと頼んでいたのだが、今日まで音沙汰が無かった。


「ビョルンさん、今忙しいらしいから忘れてるんじゃないッスか?」

絶対ぜってーそうだな。俺が頼んだの忘れてるに違いねえ」

「じゃあ、もう一回お願いしに行ってくるッス」

「なら俺も行く。ちょっと気分転換に歩こうと思ってたんだ」


 立ち上がった二人は倉庫の扉から出ようとする。



 そして扉を開けようとドアノブに手を掛けた時、ノックの音が聞こえた。

 獣人族ライカンスロープの少年ミントの声だ。


「テオドール、フォルトナ。いるー?」


 その声に反応したテオドールが勢いよく扉を開けると、そこにはびっくりした様子のミントとヘルガがいた。

 二人は急に開いたドアに驚いて固まっていたが、テオドールは意に介さずミント達を招き入れる。


「ナイスタイミングだ、ネコ!! さぁ、入ってくれ」

「え? な、何?」

「お前、《魔術》使えたよな」

「う、うん……そうだけど」

「ほい、コレ」


 そう言って新兵器を渡すテオドール。


 何がなんだかわからない様子のミントは困り顔だ。

 一方で隣のヘルガは興味津々で新兵器を眺める。


「うおっ何だよソレ! どんな銃なんだ?」

「ヘルガ、これは銃とはちょっと違うんだぜ」

「は?」

「まぁ、見てろって」


 自慢げに告げるテオドール。

 そしてミントに指示を出す。


「ミント。引き金が二つあるが、まずはこっちのを引いてくれ」

「え、う、うん」


 ミントは指示通り左手グリップの方の引き金を引く。

 すると小さいボール状のものが射出される。

 撃ち出されたボールは的に当たると、それにくっついた。


 そのボールの中には糊がべったりと取り付けられており、中に双子石の片割れが仕込まれている。


「ミント、今度はここに魔力を込めながらこっちの引き金を引いてくれ」

「わかった」


 そしてミントが右手の引き金を引くと、今度は細く短い筒状の物体が射出される。

 その筒の先にも双子石の片割れが入っており、ミントが込めた魔力によってボールへと引き寄せられた。


 そして筒の先端がボールに接触した瞬間、信管が作動して筒の中に仕込まれた爆発物に点火される。

 今回はテスト用なので爆竹を入れてあった。


 パパパパパと射撃場に爆竹が鳴り響き、ミントはびくっと体を震わせる。


「わっ!! びっくりしたぁー……」


 驚きに目を見開いたミントに鼻息荒く声をかけるテオドール。


「ミント、ありがとう。成功だ!」

「う、うん。どういたしまして……」


 ぽかんとした表情を浮かべるミントとは対照的にテオドールとフォルトナ、そしてヘルガは興奮している。

 ヘルガがテオドールに聞いてきた。


「テオドール、何これ? ねえ何コレ?」


 目をキラキラさせながら尋ねてくるヘルガの態度にすっかり気分を良くしながらテオドールは答えた。


誘導式ホーミング粘着爆弾セムテックスだ」



お読み頂きありがとうございます。


次話更新は 8月8日(水) の予定です。


ご期待ください。




※ 8月 7日  後書きに次話更新日を追加

※12月29日  一部文章を修正

※ 5月23日  一部文章を修正

物語展開に影響はありません。

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