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アマルコルド -私は忘れない-  作者: 利府 利九
第九章 Lights Of Cydonia
176/327

176.双子石



 鉱山都市ボレアレにて。


 高温の鉄をカンカンと叩く音に混じって、散弾銃の発砲音が響き渡る。

 ハル達と別れた後、テオドールとフォルトナはドワーフ達の助けを借りて新たな銃の製作に勤しんでいた。


 ボレアレの頭領であるビョルンに気に入られたテオドールとフォルトナは、彼と懇意にしているというドワーフの鍛冶作業場と職人達を借り受ける事に成功する。

 更にビョルンは現在使用されていない古びた倉庫も提供してくれた。

 そこを手直しして即席の室内射撃場へと改装する。


 今は魔鉱ミスリルの欠片を弾薬に混ぜての試作品の弾丸の実射試験の最中である。

 炎の力が込められた魔鉱の欠片を使って焼夷弾を作ってみたのだ。

 試射を終えたテオドールにフォルトナが感想を求めてきた。


「どうッスか、テオ!」

「悪くねえ! 悪くねえけど……」

「けど? 何か問題ッスか?」

「威力が高すぎて銃本体のフレームが歪んじまった」

「なるほど、高威力ゆえの弊害ってやつッスね」

「ああ」


 そう言ってテオドールが散弾銃を検分していると、射撃場の扉が開く。

 

「よぉ、やってるか」


 声をかけて中に入って来たのはビョルンだ。

 作業する手を止めてテオドールが出迎える。


「頭領、来たのか」

「ああ、こっちの具合が気になっちまってな。で、どうよ?」

「それなんだけどよ、見てくれ」


 そう言って試作品のショットガンを見せるテオドール。


 これはボレアレのドワーフ達がこさえた代物で、ノアキスのオットー工房から独自ルートで取り寄せたものを見様見真似で複製したのだそうだ。

 その事をサイドニア国王エドガーが知ったら色々とマズそうな気がしたが、ビョルン曰く“バレなきゃいいんだよ、ガハハ!”との事だったのでテオドールも知らんぷりを決め込む。


 散弾銃をつぶさに見ていたビョルンが銃身を指でコツコツと叩きながら言う。


「ふむ、どうやら火薬と魔鉱ミスリルの割合調整をしくじっちまったみてえだな」


 それを聞いたフォルトナがビョルンに質問する。


「じゃあ、威力を下げちゃうんスか?」

「そうだな。といっても心配するな。量産予定の武器にしてはもともとの威力が過剰だっただけだ」

「そうッスか、良かったッス」


 ビョルンの言葉を聞いて胸を撫で下ろすフォルトナ。

 アンドロイドの彼女は人間と違って頑丈なせいか火力至上主義な思想を抱いているフシがあった。


 一方のテオドールは違うアプローチを求めるべく、ビョルンに尋ねた。


「頭領、別の種類の魔鉱は無いか? 焼夷弾以外のものも作りてえ」

「お前らはそう簡単に言ってくれるがな、欠片とはいえ魔鉱を都合するのも結構ホネなんだぞ」

「あれ、そうなのか? この前炎の魔鉱を大量に持ってきたからてっきり安物かと……」

「バカ言うな。あん時は炎系の魔鉱がダブついて沢山市場に出回ったおかげで、一時的に大量の在庫があったってだけだ。今は炎系の魔鉱も下火だな、供給量が下がってきてる」


 そう言ってため息を吐くビョルン。

 そのビョルンにフォルトナが疑問をぶつけた。


「あのーそもそも、魔鉱ってどういう石なんスか? 私たちはただ何となく“スゴイ力が篭もった珍しい石”程度の認識なんスけど……」


 実は今に至るまで魔鉱に関するレクチャーを一切受けていなかった二人。

 ビョルンは呆れながら答える。


「あ? 言ってなかったっけか。まぁ折角の機会だからざっくり説明してやるか。魔鉱の性質としては今お嬢ちゃんが言ったのでほぼ正解だ。“スゴイ力が篭もった珍しい石”。言いえて妙だな」

「やったッス」

「だがそれはあくまで力が宿った石そのものの性質に過ぎない。魔鉱は実は最初は何の変哲も無いただの石ころなんだよ」

「え、じゃあどうして……」

「俺は《魔術》はからきしだからよくわからんが、魔術師連中が言うには空気中には『魔素』と呼ばれる《魔術》の元になる物質が漂ってるって話があってな。それもあくまで仮説らしいんだが……とにかくその『魔素』が稀に石ころに定着する」

「なるほどッス。そうすると魔鉱になるんスね」

「そうだ。だがこの『魔素』さん達は気まぐれでな。石に宿る力の性質はまちまちのバラバラだ。炎の力が宿ったり風の力が宿ったり、何だかよくわからん力が宿ったり……」


 それを聞いたテオドールは腕を組んで話を咀嚼する。


 魔鉱の安定供給が期待できないとなると一般兵向けの量産品での運用は期待できない。

 やはり特殊な運用を想定された部隊に配備される何か“尖った”一品を形にする必要があった。


 だがそれでも何か一つくらいは安定供給されている魔鉱が無いか、という淡い期待を込めてビョルンに問いかけた。


「なぁ、頭領。本当に全部の種類の魔鉱が気まぐれに産出されるのか? 何か一種類くらいは安定して採れるやつは無いのか?」

「んー……。一応あるにはあるぜ」

「本当か?」

「ほら、丁度欠片をもってたぜ。だが、こんなのを弾薬に混ぜ込んだところで効果があるとは思えねえな」


 そう言ってビョルンはポケットからくすんだ色の二つの石ころを取り出す。

 テオドールが今まで見てきた魔鉱とは違い、大変地味な色合いだ。

 そこらの石ころと区別がつかない。


「どういう性質なんだ?」

「これはな“双子石”と言ってな、魔術使いが魔力を流し込むとつがいの石同士が引き寄せあうって代物さ。だが魔術が使えない奴には意味が無いし、引き寄せあうとはいえ重いものを引っ張る用途にも使えない。結局、お土産の小物に加工して輸出してるよ」


 話を聞くに、なるほどたしかに兵器運用は厳しそうだ。

 テオドールはそう考えかけたが、その時ある一つのアイディアが頭に去来する。


「“重いものは引っ張れない”って話だけどよ、それはどのくらいの重さなんだ?」

「あ? ……そうだな、昔“双子石”を利用して人間を運搬するリフトを作ろうとした奴が居た。リフトっても一人用だぜ? でもダメだった。人間一人の体重程度でビクともしねえ。ま、それも郵便物用のリフトに転用できたから良いんだけどな」


 ビョルンの説明を聞いてテオドールは笑みを浮かべる。

 それに気付いたフォルトナが聞いてきた。


「テオ、ひょっとして何か閃いたッスか?」

「ああ、目茶苦茶有用な武器が作れそうだぜ」


 一方ビョルンはテオドールの言葉を聞いて不敵に笑う。


「ほう、そいつは楽しみだな」

「ああ、目ん玉飛び出るような奴こさえてやるから待ってろ」

「おう、期待してるぜ」

 

 そう言ってビョルンは事務所へと引き上げてゆく。

 その姿を見送ってテオドールは早速図面を引き始めた。


 こういうアイディアの消費期限は短い。

 ちょっと別の事を考えただけで頭から飛んでいってしまうことも珍しくない。

 それを経験則として知っている彼は、アイディアを逃がさない為にアウトプットは迅速にすると決めていた。


 目にも止まらぬ速さでペンを走らせるテオドール。

 あっという間に試作品の図面を引き終わるとそれを鍛冶場の職人に預ける。


「悪い、急ぎでこの図面を形にしてくれるか?」

「へっ任せろ。一日と掛かんねえよ。明日には完成品を拝ませてやる」


 血気盛んな若い職人はそう宣言すると、早速トンカチで鉄を叩き始めた。


 倉庫に戻ったテオドールが椅子に座り一息つくとフォルトナがカップに入ったコーヒーを持ってきた。

 マリネリスに来た当初は清廉で澄んだ飲料水を何故わざわざ黒く苦くするのか理解できなかったテオドールだったが、そんな彼も今ではコーヒーの虜である。


「ありがとよ、フォルトナ」

「いえいえッス。テオ“一仕事終えたぜ”って顔してたッス」

「うるせーよ」


 ちょっと照れながら残りのコーヒーを喉に流し込むテオドール。


 そして考えた。

 ルサールカに置いて来た母親イザベラと幼馴染のリリーの事だ。


 あの二人は元気にしているだろうか。

 テオドールとフォルトナがジュノー社から捨てられたという事もあの二人には伝わっているのだろうか。


 もしそうだとすると大変な心配をかけてしまっている事だろう。

 だがこればかりはテオドールの力だけではどうすることも出来ない。

 エドガーの言葉を信じて新たな航路開拓を待つしかなかった。


 ため息を吐きながらもう一度コーヒーに口をつける。


 先ほどより苦味が増したのは気のせいだろうか。




お読み頂きありがとうございます。


次話更新は 8月4日(土) の予定です。


ご期待ください。




※ 8月 3日  後書きに次話更新日を追加

※ 5月21日  一部文章を修正

物語展開に影響はありません。

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