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アマルコルド -私は忘れない-  作者: 利府 利九
第九章 Lights Of Cydonia
170/327

170.トロッコ



 鉱山都市ボレアレの事務所にて。

 暗殺者アサッシンの一団からの襲撃を切り抜けたミント達は、ボレアレを仕切る頭領ビョルンの事務所に招かれていた。


 事のあらましを伝え終え、更に敵の保有していたドローンの残骸を渡すとビョルンが労うように言ってくる。


「今回の件はご苦労だったな。お前ら」


 そして彼はミントに近くに歩み寄ると肩をがっしりと掴んで言葉をかけてきた。


「それとネコのボウズもお手柄だったそうじゃねえか。見かけによらず中々やるな」

「でしょでしょー。ネコだって鋭いツメを隠してるんだよ」


 などと威張り散らすミントだったが、それにヘルガが水を差す。


「ドヤ顔決めてるところ悪いけどよ相棒。今回はテオドールの功績の方がデカいと思うよ」

「うぇっ? そ、そう?」


 ミント達の様子を監視していたドローンを撃墜した後、その残骸をテオドールが分析した。

 結果、ザルカ並びにジュノー社の工作員が潜伏していた廃坑道の特定に成功する。


 なんでもテオドールはドローンをハッキングして、映像を中継していた先の座標を特定したらしい。

 だがその座標にたどり着いたミント達が発見したのは、ザルカの工作員と思しき男とモンソン・ファミリーとかいうチンピラ達の死体だけであった。


 他のものはすべて燃やされていた。

 手がかりになる物の隠蔽を図ったのだろう。



「結局、連中のしっぽは掴めませんでしたね……」


 残念そうに呟くハル。

 ドローンを撃墜した時の陰惨な表情は既に消え、いつものハルに戻っている。


 そんなハルを励ますようにコリンが言った。


「でもさ、“敵もこれで手を引いた”って認識でいいんじゃない? もうこの町では今までみたいに動けないでしょ」


 その言葉をビョルンが肯定する。


「もちろん、その通りだ。今までより警備の人員も増やすし、今回の事件についてはサイドニアやノアキス、ハルマキスにも報告する」


 それを聴いたイェルドが疑問を口にした。


「おや、ビョルン殿。この町は政治的に独立した都市ではないか?」

「それはもちろんそうなんだが、俺の町を荒らした連中を野放しにしておくつもりもねえ。それになにやら剣呑な匂いもする事だしな。だろ? “シマウマ”のボウズ」


 ビョルンがテオドールに視線を向ける。

 “シマウマ”というのは白黒の“まだら髪”の事を指す比喩表現のようだ。

 ビョルンの視線を受け止めたテオドールが口を開く。


「ああ、そうだな。ザルカの連中は、より強力な武器を作ろうとしている」

「なるほどな。で、お前らもそれに負けじとしているわけだろ?」

「そうだ。だから早く魔鉱ミスリルを見せてくれ」

「ふうむ、良いだろう。元々そのつもりだったしな」


 すると、それを聞いていたハルがテオドールに言った。


「じゃあ、銃開発の件はテオドール達にお任せして良いですか?」

「あったりめーだ。オレらの仕事なんだからよ」


 そこへフォルトナが口を挟む。


「じゃあ、ハルさんはどうするッスか?」

「私はレジーナさんとちょっと用事があります。できればノアキスに行きたいんです」

「あ、そうなんスね。大丈夫ッスよ。こっちはきちんと仕事しまスから」


 どうやらここでハルは別行動をとるようだ。

 自分はどうするべきか。

 ミントが思案していると隣のヘルガが聞いてくる。


「相棒、お前どうすんの?」

「うーん……そうだなぁ。ねえ、ヘルガ。ボクもハル達について行っていい?」


 おそらくミントが武器開発の現場に立ったところで役には立てないだろう。

 であるならば、クルスの遺志を継ぐハルと行動を共にしたかった。


 すると少しばかり逡巡したのち、ヘルガが呟く。


「そっか。ノアキスねぇ……私も……行こう、かな……」

「えっ本当? 何で?」


 少し意外に思ったミント。

 彼女の事だからきっとここで銃器開発に参加したがるものと思っていた。


 だがヘルガにもノアキスに行く理由があるようだ。

 それを彼女は口にする。


「ノアキスの工房に久しぶりに顔を出したい……かなぁ」


 そこへビョルンが話しかけてくる。


「おい、嬢ちゃん。ノアキスの工房ってひょっとしてオットーのとこか?」

「え? そうですけど、なんでそれを?」

「前に言ってた“俺の弟子”ってのはオットーだよ」

「マジですか?」

「ああ、マジだよ」


 そしてビョルンは懐かしむように言う。


「そうか、オットーんとこで働いてたのか……。ふむ、気に入った。嬢ちゃんたち、良いモン見せてやる。ついてきな」



 ビョルンについていくと、彼は事務所から出て近くの古い坑道へと足を踏み入れる。

 その坑道は下り坂になっており地下へと続いていた。

 その下り坂を進んでいくと細長い横道へと突き当たる。


 その横道にはトロッコ用の線路が敷いてあり、レールの上に頑丈な造りのトロッコが連結されて乗っている。

 ミントは横道の左右を確認してみたが、先がどこまで続いているかは確認できなかった。


「ねー、ビョルンさん。これってどこまで続いているの?」

「ん、よくぞ聞いてくれた。ネコ耳のボウズ。この線路はな、ボレアレから各都市間を繋いでいるんだ」

「え!? ほんと? すごい、“でんしゃ”みたい!」


 感動するミントだったが、他の皆はぽかんとしている。


 マルシアルが呆れた様子で口を開いた。


「頭領殿、ドワーフ達はその膨大な距離を掘り進めた、ということか?」

「ああ、そうだぜ。穴掘りはボレアレドワーフの生き甲斐みたいなもんだからな。ガハハ!」

「動力は?」

「ああ、動力はコレだ」


 そう言ってビョルンはトロッコに取り付けられている淡い緑色の鉱石を指し示す。

 緑色の鉱石の表面には複雑なパターンの紋様が浮き出ており、自然界に存在する他の鉱石とは一線を画している。

 その鉱石を見て目が飛び出さんばかりに驚くヘルガ。


「うっわ。それ天然の魔鉱? でかっ!!」

「ガハハ、凄いだろう。これには強い《風塵》の力が閉じ込められている。ちょっと魔力を流せばその力が発動する」


 つまりその風の力を推進力として利用するのだろう。

 しかも広い空間ならいざ知らず、狭い坑道内ではその力は最大限発揮されるはずだ。


 トロッコの特徴を聞いたハルが喜色を浮かべて言う。


「素晴らしいです! じゃあ、とっととノアキスに行きましょう!」


 トロッコに乗り込むハル、ミントとヘルガ。

 そしてレジーナ、コリン、イェルド、マルシアルの四名。


 最後尾のトロッコには魔術のエキスパートであるコリンが陣取った。

 その様子を見送るテオドールとフォルトナ。


「それじゃあ、行ってくるよ。二人とも!」


 コリンが声をかけると二人は強く頷いた。

 何としても自分達の仕事を完遂させるという意志が見える。


「ああ! 行って来い!」

「ッス!」


 そしてミント達にビョルンが告げる。

 彼は線路の先を指差した。


「いいか、ノアキスはこっち方向だ。それと、この線路は他の都市のやつらには内緒で掘ってる。地上に出るときは誰にも見られるなよ」


 その言葉に楽天的なミントも不安を覚える。


「な、ナイショなの? それって大丈夫?」

「なーに、バレなきゃいいんだよ。出口は町から離れた所に掘ってある。あと、地上への出口前には看板が設置してあるからな。見逃すなよ!」

「うん、わかった!」


 注意事項を聞き終えた後、最後尾のコリンが声を張り上げた。


「じゃあ、行くよ!! みんな、しっかり掴まっててね!!」


 そして魔力を練り始めるコリン。

 その時ビョルンが口を開く。


「あ! おい、あんまりスピードを出し過」


 だが彼が言い終わる前にトロッコは凄まじい勢いで発車してしまった。

 力加減を全く考えていなかったコリンによって、トロッコはまるで遊園地の絶叫マシーンの様な速度で坑道を駆け抜ける。


 皆が必死にトロッコにしがみつく中、今まで全然口をきかなかったレジーナが絶叫した。

彼女にしては珍しく裏返った声だった。


「てめーコリン!! スピード落とせよ!!」

「できないよ!! この魔鉱、片っぽにしかついてなかった!!」

「ふざけんな、このガキ!!」


 そのやりとりを聞きながらミントも叫ぶ。


「これじゃ、電車じゃなくてジェットコースターだよー!!」




お読み頂きありがとうございます。


次話更新は 7月18日(水) の予定です。


ご期待ください。



※ 7月17日  後書きに次話更新日を追加

※ 5月15日  一部文章を修正

物語展開に影響はありません。

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