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154.帰還




 王都サイドニア~交易都市ドゥルセ間の道を走る馬車が三台。


 その内の一台にハルは乗っていた。

 そしてハルと同乗するのは同型のアンドロイド・フォルトナとそのマスター・テオドールだ。


 白黒の“まだら髪”をいじりながら外を見るテオドール。

 そんな彼を観察しつつハルは昨日までの出来事を回想する。



 テオドールとフォルトナの処遇に関しては昨日、決定が下された。


 ザルカ帝国に技術供与していた彼らではあるが、その件で咎を受ける事はなくエドガーは彼らの亡命を受け入れた。

 そしてエドガーは彼らの身分保証の見返りにサイドニアの銃器開発への協力を要請する。

 テオドールとフォルトナはこれを了承し、めでたくサイドニア王家お抱えの技術者となった。


 現在サイドニアでは極秘裏にオットー工房製散弾銃の生産ラインが動いている。

 そこへこの度、ヘルガ式ボルトアクションライフルも加わった。

 ヘルガはライフルの現物をサイドニアに譲渡し、自らは新しい物を開発すると息巻いている。


 テオドール達にはそれに続く第三の制式品が求められていた。


 ザルカに提供してしまったセミオートライフル以上の性能を実現すべく、テオドールは各地の素材を見て回りたいと希望した。

 そこでハルはその道案内を頼まれたのであった。



 これまでの出来事を振り返ったハルは、馬車の窓から外を眺める。


 機能停止する直前までは海上で船に揺られていたので、マリネリス大陸の程よく乾いた風と豊かに生い茂る草原を見るのも久々である。

 景色を眺めるハルのCPUに、昨日のミントとの会話がフラッシュバックする。



 「だからボクに協力してほしいんだ、ハル。お願いだよ。ボクと“おにいちゃん”を助けて。お願い」


 その言葉はハルの胸に深く突き刺さる。


 何とかしてあげたい。

 いや、しなければ。


 それこそがハルが忠誠を誓ったクルスへ出来る唯一の事に思えた。


 結局あの後すぐにエセルバードに呼ばれて、ミントとの会話は中断されてしまった。

 エドガーがハルに服を見繕ってくれたのだ。

 彼曰く“プレアデスでの働きを評価しての礼”だそうだ。


 悩んだ末にハルは動き易さと防御性能を両立した鎖帷子が仕込まれた革鎧を貰う。

 何でもそれは、魔鉱ミスリルとかいう特殊な鉱石を仕込んだ最新鋭のものらしい。


 そしてハルがもともと所持していた《フックショット》と《パイルバンカーE型・改》も返却してもらった。

 ハルがそれらの専用兵装を点検していると、フォルトナが声をかけてくる。


「ハルさんハルさんハルさん」

「どうしたんですか? フォルトナ」

「ちょっとそのパイルバンカー見せてくださいッス」

「いいですよ、ほら」


 渡したパイルバンカーを食い入るように見つめるフォルトナ。

 一通り眺めると彼女は感嘆した様子で言った。


「はぁー……、杭の部分を短剣に換装することで接近戦に対応してるんスね。なるほどッス」

「こっちには戦闘用アンドロイドとかいないですからね。こっちの方が重宝します」

「ほへー勉強になったッス」


 そう言ってパイルバンカーを返してくるフォルトナ。

 その様子を見ていたテオドールが呆れながら呟く。


「けっ。面倒くせえ、わざわざそんなもん使わなくても銃ぶっ放せば全部解決だろ」

「私もマスターにそう提言しました。しかし彼には使命があったので、そうしなかったのです。一旦、力を示してしまえば必ず利用しようとする者が現れます」

「エドガー社長みたいにか」

「社長じゃなくて陛下ですよ、テオドール。エドガー陛下です」

「そう、それだ」


 そう言って頷くテオドール。

 テオドールとフォルトナは言語データをインストールしたらしいので意思疎通に問題は無いが、こちらの文化慣習に関してはまだまだ不勉強であった。


 その時、馬車が速度を緩める。

 ドゥルセに到着したのだ。


 三人は馬車を降り、他の馬車に搭乗していたナゼールやミント達と合流する。

 衛兵が防備を固める町の入り口を抜けて、久々にドゥルセの地を踏むハル。


「うわぁ、懐かしいですねぇ……」


 感慨深くしみじみと呟くハル。

 そのハルにナゼールが声をかけてくる。


「どうだ、ハルさん。二年ぶりのドゥルセは?」

「……んー、なんか異民の人増えてません?」

「貿易が常態化してもう結構経つからな。そりゃそうだ」

「なるほど。ナゼール、骨董屋に戻る前にちょっと町を散策しても?」

「もちろんだぜ。ついでにギルドに寄ったらいい」

「そうですね」


 ハルはエドガーから“お前は死亡扱いになっているから、それをギルドで取り消してもらって来い”とのお達しを受けている。

 このまま出歩いたら不死者アンデッド扱いされてもおかしくない。


 そうハルが危惧しているとミントに話しかけられる。


「じゃあ、ボクもついていくよ。いいでしょ? ハル」

「ええ、もちろん」


 二つ返事で了承したハルにナゼールが言う。


「日没までゆっくりしてていいぜ、ハルさん。こっちも“準備”があるしな」

「……準備?」


 ハルがそう聞き返すとナゼールは“しまった”という顔をした。

 そして後ろで聞いていたレリアが顔をしかめて呆れている。


「ナゼール……。あなた、それ言っちゃダメってさっき話してたでしょ?」


 レリアの鋭い視線を受けたナゼールは、冷や汗をかきながらハルに告げる。


「ハ、ハルさん、気にしないで行ってくれ。ゆっくり町を廻ってきていいからな! ミント、頼むぞ」

「はいよー任せて。じゃ、行こっか、ハル」


 そそくさとその場を離れるナゼール達を見送りながら、ハルとミントはギルドに向かって歩き出す。

 歩きながらハルはミントに切り出した。


「ミント、ひょっとして何か“サプライズ”的なもの企画してます?」

「うん」


 あっさりと白状するミント。

 彼は続けた。


「さっきみんなで馬車の中で話してたんだ。“ハルの帰還をお祝いしよう”ってさ。おいしい料理をたくさん用意するってチェルソが張り切ってたよ。ハル、気の利いたリアクションを頼むよ。ちゃんとビックリしてね」


 などと無理難題を言うミント。


「全部バラしといてよく言いますよ……まったく。まぁナゼールの態度でバレバレではあったんですが」

「だよねー。ところでさ」

「何ですか?」

「ハルはテオドール達の面倒を見るの?」

「そうですね、陛下の頼みですし。ミントはどうします?」

「うーん、ハルには一回ハルマキスに寄ってほしいんだけど」

「何でですか?」

「“おばあちゃん”に会ってほしいんだ」

「誰の事を指してるんですか?」

「セシーリアおばあちゃんだよ」


 セシーリア。

 その名もクルスから聞いている。


 『ナイツオブサイドニア』作中では行く当てを見失った主人公レジーナに助言を与えるような立ち位置のキャラだったそうだ。

 だが、どういう人物かまでは聞いていない。

 “ハルマキスに行く事があったらその時教える”と言われていた。


「なるほど、検討しておきましょう。旅のルートはまた後ほど」

「うん」


 そこまで話した時、丁度ギルドの建物が見えてきた。

 懐かしさで胸が一杯になるハル。


「うわぁ、ここは変わってませんね。懐かしい」

「そっか、とりあえず入ろうよ」

「ええ」


 中に入ると、慣れ親しんだ内装がハル達を出迎える。

 まだ冒険者達は受注した依頼クエストに取り掛かっている頃合らしく、閑散としている。


 そして受付にはハルも良く知る女性が二人。

 受付嬢のメイベルとアンナだ。


 二人はハルとミントの姿を見て、何事かこそこそと言い合っている。

 そんな二人に近付くハル達。


 ハルの顔には自然と笑みがこぼれていた。

 だが、メイベルの第一声にその笑顔はかき消される。


「あ、いらっしゃいませ。フォルトナさん」


 笑顔がぱっと消えて暗い顔になるハル。

 暗い表情で彼女はメイベルの言葉を否定した。


「……違います」

「あれ? この前ナゼールさんに連れられて来た方とは、また別の方ですか?」


 表情を曇らせるハルを見て隣のミントは爆笑している。

 ハルはいささか憤慨しながら、二人に告げた


「メイベルさん、アンナさんお久しぶりです。ハルです。復活しました」


 それを聞いた二人は一瞬顔を見合わせて、きょとんとする。

 そして再びハルの顔をまじまじと見つめると叫んだ。



「「え”--------っ!!」」









お読み頂きありがとうございます。


次話更新は 6月19日(火) の予定です。


ご期待ください。



※ 6月18日  後書きに次話更新日を追加 一部文章を修正

※ 5月 3日  一部文章を修正

物語展開に影響はありません。

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