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151.ルサールカの企業の姿



 煌びやかな内装が施されたサイドニア王城の中の一室にて。


 ルサールカ人工島から訪れた異民であるテオドールは、フォルトナと共にその部屋で事情聴取を受けていた。

 彼らがルサールカ、そしてザルカ領で知りえた情報をサイドニアに提供するためである。


 衛兵に案内されて部屋に入ったテオドールとフォルトナ。

 二人が着席すると、後から男が三人入って来た。

 その男達はテオドール達の向かい側の席に座り、そして挨拶してきた。


「さて、昨日もちらっと顔を合わせたとは思うが一応名乗っておこう。陛下の近衛をしているエセルバード・スウィングラーだ。よろしくな、テオドールとフォルトナ」


 彼は“王様”とかいう偉い人の側近だ。

 王制が廃れて久しいルサールカの出身であるテオドールには“王様”の価値などよくわからなかったが、昨日チェルソ達に聞いた話を総合すると“社長”クラスの偉い人物であるらしい。

 そんな人物のお付きなのだから、この男もさぞ優秀に違いない。


 テオドールたちはエセルバードに返事をする。


「こっちこそよろしく」

「ッス」


 そしてエセルバードの隣の男達が紙を広げて凄まじい速さで何事かを記録し始める。

 テオドールたちがその様子に驚いてると、エセルバードが説明してくれた。


「この者達は速記者だ。この部屋での会話を記録するように頼んでいる。お前達は気にしないで話に集中してほしい。いいな?」

「あ、ああ」

「よろしい、では始めよう。まずはルサールカがどういう場所かについて教えて欲しい」


 エセルバードの質問に答えるテオドール。


「ええと、そうだな。一言で言うと“汚染された土地”かな」

「汚染?」

「ああ、過去に起こった大戦の影響で空気中には有害物質が混じっているし、水も飲料になるような綺麗なものは本当に貴重だ。水を奪い合っての戦争もあった」

「本当か? こっちでは信じられん話だな」

「本当だ。ついでに言うと上質で綺麗な水は自分で飲むより売る奴が多い。その売ったカネでランクを落とした水をたくさん買った方が長持ちするからだ」

「なるほど、ではそんな汚染された土地で人々はどうやって生きているのだ?」


 それにはフォルトナが答える。


「シェルターっていう大きなドーム型の建物があるッス。人々はその中に篭って暮らして、外に出る際には防護服を着て汚染された空気から自分を守るッス」

「ふむ、興味深いな。ではそのシェルターとやらは、どのくらいの広さなのだ?」

「うーん、私たちの住んでた八番シェルターはこの王都サイドニアよりちょっと小さいくらいッスかねぇ」


 フォルトナの話を聞いて目を丸くするエセルバード。


「なんと、そんな広さの建造物を作り上げたのか?」

「そうッスよ。そのぐらい広くないとすぐ人やモノで溢れちゃうッス」

「それは確かに、そうなんだが……。凄まじいな」


 大きく息を吐いて、呆れるような調子で呟くエセルバード。

 だがすぐに気を取り直すと別の質問をぶつけてきた。


「では、汚染された土地の中にシェルターが点在している、という認識で良いのか?」

「はいッス」

「ではその離れ離れのシェルター間での交友はどうなっているのだ? “国”という概念はあるのか?」


 それに答えるテオドール。


「国が昔あったっていうのは知識としては知っている。でも過去の大戦でそれも崩壊して今では企業が国の代わりだ」

「企業……マリネリスでいうところの商工会やギルドのようなものか?」

「ああ、だがもっと大規模だ」

「大規模だと? 具体的には?」

「さっき言った八番シェルター。それを建造したのは『ジュノー社』だ。そしてその八番シェルターで暮らしている連中は全員ジュノー社に住民税を払っている。そこで商売する奴はそれとは別にテナント料がかかるし、売り上げの何%かをジュノー社に収めなきゃならない。そうやって集めたカネで新たな事業を展開したりして更に企業を大きくしていく。それがルサールカの企業の姿だ」

「なるほどな。確かにそこまで行くと、それはもはや国と呼べなくもないな。そしてシェルターが領土というわけか」

「そうだな。だから自分の領土の中ではどこの企業も結構、好き勝手やってるぜ。自分のとこの製品売ってる店は税率抑えたりとかな」

「なるほどな。そちらの経済事情についてはよくわかった。次だ」


 そう言ってテーブルに置かれたグラスの水で喉を潤すエセルバード。

 そして更に質問を続ける。


「では、どこの企業がザルカ帝国と手を結んでいるのだ?」

「ジュノー社だ」

「そのジュノー社はザルカにどういう支援をしている?」

「主に兵器開発のための技術支援だな。人材を貸し出したりもしている。その見返りにマリネリス大陸の綺麗な水と食糧を輸入してルサールカで売りさばいている。ぼろ儲けさ」

「他の企業はどうなのだ? ジュノー社の一強なのか?」


 エセルバードの問いかけをテオドールは肯定した。


「一強……だなぁ、うん。もし仮にジュノー社と勝負になる企業があるとすれば『ヴェスパー社』くらいか」

「では仮に、そのヴェスパー社とやらと我々が同盟を組めばどうだ?」

「それに答える前に聞きたいけどよ、ここからどういう航路をとればルサールカにたどり着くか、あんたらは把握してるのか?」

「いや、まだ掴めていない……。最近『レヴィアタン=メルヴィレイ』の動きが活発になっているせいで、航路開拓が進んでいないようだ」


 悔しそうに歯噛みするエセルバード。


「『白き鯨』か。だったら、そっちが先だ。航路がわからない内から同盟先を探しても意味はないと思うぜ」

「ふむ、わかった。善処しよう」

「ああ、それがいい」


 その時、部屋に一人の衛兵が入ってくる。

 彼はエセルバードに告げる。


「兵長、よろしいでしょうか」

「何だ?」

「“彼女”が目覚めました」

「……ここへつれて来い」

「はっ!!」


 びしっと敬礼動作をして衛兵が退室する。

 その様子を見送るとエセルバードが提案してきた。


「丁度良い、少し中座しよう。ここから先は“彼女”にも聞いてもらう」





--------------------






「ミント、あなたは一体……?」

「ボク? ボクはネコだよ、見ての通りね。ふふふ」


 ハルの問いかけに目を細めて答えるミント。

 そんな彼にハルは質問する。


「あなたは『バルトロメウス症候群』をどこで知ったんですか?」

「え? そりゃもちろん現実世界で。“おとうさん”と“おかあさん”が話しているのを聞いたんだ」


 まったく要領を得ない回答に困惑するハル。

 そこで、更に問いを重ねようとしたところで、衛兵に声をかけられる。


「ハル殿、エセルバード兵長がお呼びだ。来てくれ」

「えっ? 今すぐですか?」

「ああ、もちろんだ」


 それを見ていたナゼールが立ち上がる。


「ハルさん、俺も付き添う。衛兵さん、ハルさんに何か着るものを」

「ああ、行く途中で用意しよう」

「ハルさん、それまでとりあえずコレ巻いときな」


 そう言ってナゼールはハルに毛布を渡してきた。

 彼の気遣いにハルは笑って礼を言う。


「ありがとう、ナゼール」

「こんなのお安い御用だぜ。さぁ行こう」

「はい、あ! ミント、あなたには後で色々聞きたい事があります」


 ミントは頷く。


「うん、それはボクも同じだよ。また後でね、ハル」

「ええ。それでは皆さん、また後でゆっくり話しましょう」


 ミント達に見送られながら、ナゼールに手を取られ宝物庫から出るハル。

 途中で麻でできた簡素なローブを借りて、それに袖を通す。


 最低限の身なりを整えて王城の廊下を進むハル達。

 目的の部屋にたどり着き、中に通される。


 そこではエセルバードの他に“まだら髪”の少年と、そしてハルと同型のアンドロイドが待っていた。


 ナゼールに連れられたハルを見るなり、急に立ち上がるエセルバード。

 そしてハルの目の前まで歩いてくると彼はハルに声をかけてくる。


「久しいな。ハル」

「あ、はい。お久しぶりです。エセルバードさん」


 実際のところハルにとっては久しぶりでもなんでも無いのだが、とりあえず話を合わせることにする。

 そしてエセルバードはハルに対して頭を下げてきた。


「ハル。お前たちの勇敢な行動で多くの命が救われた。深く感謝する」

「あ、いえいえ。私はマスターの指示に従ったまでで、そんな感謝されることは」

「謙遜するな。クルス、ハル、フィオレンティーナの三人は今では英雄だ」

「え、嘘でしょ? 恥ずかしいです」

「そう照れるな」


 別に照れてなどなく単純にピンと来ていないだけであるが、おそらくそんな事よりも重要な話があるのだろう。

 英雄云々は棚に置いておいて、本題を聞くことにした。


「で、エセルバードさん。私は何をしたらいいでしょう?」

「うむ、とりあえずはそこの二人の話を共に聞いてもらいたい。今ルサールカの話を聞き出しているところだ」


 そこへナゼールが補足してくる。


「ハルさん。あの二人、テオドールとフォルトナがハルさんを直してくれたんだ」


 テオドールとフォルトナ。


 彼らの事はクルスから聞いていた。

 クルスが書いた三作目の小説『機械仕掛けの女神』の主人公だ。


 ハルはこちらを注視する主人公二人組みに、挨拶をした。


「テオドール、フォルトナ。私を直してくれて感謝しています。本当にありがとう」


 ハルの言葉を聞いたテオドールがぶっきらぼうに言う。


「ハッ、それが亡命の条件だったからな。あんたから礼を言われる筋合いはねえよ」

「いえいえ、それでもお礼を言わせてくださいよ」

「随分律儀な性格に設定されてんな、お前」


 一方のフォルトナは、同型のハルに対してかなりの親近感を抱いているようだった。


「お会いできて光栄ッス、ハルさん」

「ええ、私も嬉しいですよ。フォルトナ」

「実はドゥルセに行った時に、ハルさんに間違えられまくったんスよ。ハルさんって有名なんスね」


 なんだと。

 この時ハルは気付く。

 そういえば同型アンドロイドであるハルとフォルトナは外見上はそっくりだ。


 ひょっとすると“イメチェン”をする必要があるかも知れない。




お読み頂きありがとうございます。


次話更新は 6月15日(金) の予定です。


ご期待ください。



※ 6月14日  後書きに次話更新日を追加

※ 5月 1日  一部文章を修正

物語展開に影響はありません。

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