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147.呪い



 セシーリアに見送られつつハルマキスを出発したミント達。

 ひいこら言いながらレウル山脈を越えた先で、“まだら髪”の少年と女性型アンドロイドを保護した。


 彼らにアンドロイド“ハル”を修理させる代わりに亡命の手助けをすることで話は落ち着き、現在は彼らと共に行動している。


 ミントはチェルソに連れられ、近隣の集落へと訪れていた。

 あたりはすでに薄暗く、もうすぐ完全に日が落ちる頃合だ。


 今日はここで宿を取るらしい。


 ミントの前をチェルソとフォルトナが並んで歩いている。

 ハルと面識のあるチェルソは、やはりフォルトナを見て驚きを隠せないようだった。


「しっかし、本当にハルちゃんにそっくりだねぇ」

「はあ、どもッス」


 そしてその後ろをミントとヘルガ、そしてテオドールで並んで歩く。

 だがザルカからの逃亡で消耗してしまったのか、テオドールの足取りは覚束ない。

 そんな彼を心配する素振りを見せるヘルガ。


「おい、フラフラしてるけど大丈夫か?」

「うっせぇ、大丈夫だ。このくらい」

「しっかりしろよ、お前に倒れられたら銃の事を聞けなくなるからな」

「んだよ、オレのじゃなくて銃の心配かよ」

「あれ、何? 心配して欲しかった?」

「チッ、別に。それよか、ここはどこだよ? 何て町だ?」

「町じゃないな。タダル村だよ。ハルマキスへの商隊がよく中継地点にしてる所だね」

「ふーん、ところでよ、ナゼール達はどこ行ったんだ?」


 それにはミントが答える。


「若様たちはバフェットさんと一緒にここの村の偉い人のところに行ったよ。あの“くるま”を運ぶ人を雇いに行くんだって」

「わざわざジープを運ぶのか。あんなもんガソリン入れりゃすぐ動くだろ」

「テオ、こっちではガソリンは無いんだよ」

「あ? そうなのか? よくそれで生活が成り立ってんな。信じられねえ」

「こっちでは馬車が普通だからね。あ、丁度向こうから来た」


 向こうからどこかの商隊の馬車が向かってくる。

 ミント達は道の片側に寄ってすれ違った。


 そしてテオドールとフォルトナは、初めて目撃する馬車に目を丸くする。


「あ、あれが、“ばしゃ”か……?」

「うん、すごいでしょ」

「あ、ああ……うん。すげぇ」


 パカパカと蹄を鳴らしながらゆっくりと進む馬車に二人は興味津々のようである。

 その時前方から風にのって食欲をくすぐる香りが漂ってきた。


 近くに食堂があるのだろう。

 前を歩くチェルソが告げる。


「ほら、皆。夕食にしよう」


 その食堂は近隣で働く労働者向け、といった風情で無駄な装飾もなくこざっぱりとしている。

 長テーブルが等間隔に並ぶ中、その内の一角をミント達で陣取った。


 その先に置かれた寸胴の鍋でスープが煮込まれており、そこから湯気が溢れている。


 ミント達が席に座ると古びた板に書かれたメニューが目に付く。

 経年劣化が酷くところどころ掠れてしまっているそれを何とか読み取るミント。


「うーん、どうしようかな。ボク熱いの苦手なんだよね」


 ネコ舌のミントの弱点メニューは汁物である。

 それを聞いたチェルソが提案してくる。


「じゃあ、サンドウィッチなんかはどうだい? 僕もハルマキスによる途中でここのを食べたけど、美味しかったよ」

「サンドウィッチ、ねぇ……」


 普段なら問題なく食せそうな一品であったが、今ではその名を聞くだけで『ジャイアントモス』の姿が脳裏をよぎる。

 ミントの横に座るヘルガもたいそう微妙な表情をしている。

 悩んだ末にミントとヘルガはパスタを注文した。


 一方でテオドールとヘルガは、初めて訪れたレストランに戸惑いを隠せない。

 それに気付いたチェルソが声をかけた。


「ん? どうしたんだい、二人とも? お口に合わなそうかい?」


 それに答えるフォルトナ。


「い、いえ。私たち、こういう食事は初の経験でして……。どれを頼めばいいかわからないッス」

「ふうん、じゃあ僕と同じのを頼もうか。食べやすいのがいいね」


 そう言ってチェルソは大きなピザを注文した。

 労働者向けの食堂らしく、注文した品がすぐ運ばれてくる。


 ミントとヘルガの頼んだ近隣でとれた野菜たっぷりのクリームパスタ。

 そしてチェルソの頼んだピザである。


 そしてミントとヘルガはそのピザを見て顔をしかめる。

 たっぷりとチーズとトマトソースがかけられその上にバジルの葉っぱがのっているそれは、どこからどう見てもマルゲリータであった。


 これも、ハルマキスの森で討伐したジャイアントモス『マルガリータ』の呪いなのだろうか。


 そんな思いを胸中に秘めながら暗澹たる思いでパスタを食べるミントとヘルガ。

 その向かいの席ではチェルソがテオドールとフォルトナと会話しながら舌鼓を打っている。


 ルサールカではこういった食事は珍しいらしく、二人は感激した様子で食事を楽しんでいた。

 その様子を見つめながらヘルガがぽつりと呟く。


「そういえば、蛾で思い出したんだけどよ」

「ちょっとぉ、やめてよ食事中に」


 普段はまんまるとしている大きな目を細めて、ミントはヘルガに文句を言う。

 だがそれを無視してヘルガは話を続ける。


「『カートラ・ベーカリー』の店主の供述では“行商人からあの蛾を買った”ってことだったけどよ。結局その行商人って特定されたんだっけか?」


 あのサイコな店主は、蛾の幼虫を見慣れぬ行商人から買い付けたそうだ。

 だがその行商人は未だ特定できていないと聞いている。


「ううん、結局ギルドの調査でもわかんなかったみたいだよ。よそ者なんじゃないの」

「そっか」


 すると、その会話を聞いていたチェルソが話しかけてくる。


「ねえ、今『カートラ・ベーカリー』って言ったかい? 僕も一度食べてみたかったんだけど、実際に行ったら閉まってたんだ」

「ああ、そこなら潰れたよ」

「えっ!? 嘘? 良い評判しか聞かなかったから食べてみたかったのに、残念だなぁ……」


 などと悔しがるチェルソだが“食べれなかったことはむしろ幸運だろう”とミントは思った。


 会話が一段落したところで、マルゲリータを食べ終わったフォルトナがチェルソに尋ねる。


「あのう、ところでチェルソさん。一個聞きたいんスけど」

「ん、何だい?」

「ハルさんの故障箇所ってどのあたりなんスか? それによって修復できるかどうか変わるんスけど」

「ええとね、体の半分以上が『レヴィアタン』の酸で溶かされてる」

「えっ、マジッスか」

「うん、でもどうやら予備の体を残してたみたいなんだ。大きな鉄製の棺桶みたいな箱なんだけど、それがどうしても開けられない」

「ああ、それならイケるかもッスね。ハッキング・クラッキングならお手の物ッスよ、ふふふ」


 などと笑うフォルトナだが、テオドールに一蹴される。


「言っとくけど、褒められた特技じゃねえからなそれ。あとデータいじりならオレの方が得意だし」

「それ言っちゃダメッス、テオ。私の“できる女”のイメージが台無しッス」

「元からねえから安心しろ」


 などと気の置けない会話をする二人。

 相当に仲はいいと見える。

 そんな二人にチェルソが告げる。


「なんだかよくわからないけど、とにかく頼むよ二人とも。君達だけが頼りだ」


 それに元気良く答えるテオドールとフォルトナ。


「了解ッス」

「任せとけ」


 チェルソは頷くと、立ち上がる。


「さてと、それじゃ宿をとりに行こうか。明日からは馬車での移動だからね。さっさとサイドニアに行くよ!」



お読み頂きありがとうございます。


次話更新は 6月10日(日) の予定です。


ご期待ください。



※ 6月 9日  後書きに次話更新日を追加

※ 4月29日  一部文章を修正

物語展開に影響はありません。

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