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アマルコルド -私は忘れない-  作者: 利府 利九
第六章 Until The End Of My Life
100/327

100.快適な空の旅




「うぎゃああああーー!!! んだよこれはぁぁぁ!!! 聞いてねえぞこんなのぉぉ!!」


 プレアデス諸島のひとつ、ステロペ島の空にレジーナの叫び声が響き渡る。

 そう、空にである。


 クルス、そしてレジーナの二人組は現在空を飛んでいた。

 否、飛ばされていた。



 事の経緯はこうである。



 ヤニック・ンゴマの計らいで《印術》を教わっていたクルス達。

 そこに突如現れた『精霊』シルフとウンディーネ。


 そこで『精霊』ウンディーネがもたらした情報によるとムカバの集落にオーベイ族が急襲をかけ、そこでハルとデボラが連れ去られたらしい。

 デボラはともかくハルが連れ去られるという事は、クルスにとっては信じがたい話ではあった。


 それを聞いたクルスは『精霊』シルフにお願いをしたのである。


≪シルフ、オーベイの集落に早く移動する手段はないか? ハルとデボラを助けに行かなくちゃならない≫

[ んー? 移動方法ならあるよー。 送ってあげようか? ]

≪できるのか?≫

[ うん。とりあえずここの人達を送ればいい? ]

≪ああ、頼む≫

[ わかった! 順番に“飛ばし”てあげる!! えーと、とりあえず二人ずつね。あんまり多いと制御できないし、もし“落とし”ちゃったら大変だもんね ]


 シルフの言に不穏なものを感じたクルスは、思わず尋ねる。

 これは、ひょっとすると命に関わる事かもしれない。


≪飛ばす? それに……落とす? おい、シルフ。ちょっと待≫

[ いっくよー! それーーー!! ]


 だがクルスの言葉を聞くよりも早く、シルフは大きな風の渦を発生させてしまった。

 そうして次の瞬間はクルスとレジーナはシルフの起こした竜巻に吹き上げられて、あっという間に空の上である。



 などと走馬灯の如くクルスが回想しているとレジーナが詰問してくる。


「おいっ! クルス!! てめえ、責任とれよ!!」


 だがその強い語調とは裏腹に表情は引き攣っている。

 それもそのはずで、クルス達は地上数百メートルはあろうかという空の上を飛ばされていたのだ。

 まともな神経を持っている人間ならば、落下の恐怖でおかしくなってしまう。


「うるせえな!! 俺だって恐えーんだよ!!」


 と、レジーナに怒鳴り返すクルス。

 実は彼も高い所はそれほど得意ではなかったのだ。

 遊園地のアトラクションのジェットコースターも苦手であった。


 と言っている間にも眼下の景色は恐ろしい速さで流れてゆく。

 かなりの速度が出ているようだった。


 数分の後に海を飛び越え、別の島が遥か下方に見えてきた。

 だが、このスピードでは果たしてそれが目指すステロペ島かどうかわからない。


 次の瞬間、速度が鈍り急速に地面が近付いてきた。


「おい!! ちょっと待て、あたしら落ちてんぞ!! どうすんだよ!」


 レジーナが喚く。

 だがそんなことを言われてもクルスにはどうしようもない。


「知るかよ! 俺に言うなよ!」

「てめえ後で覚えてろよ! あのクソ精霊ともどもボコボコにしてやる!!」


 そうやってクルスとレジーナが罵り合っている間にも落下は止まらない。

 色鮮やかな緑に包まれた森林が凄まじい速度で迫ってくる。

 プレアデスの密林に二人の絶叫が響いた。


「「うあああああああああっ!!!!」」




---------------------





 オーベイ族の本拠地であるステロペ島。


 そこの浅瀬の洞窟に船を隠し、森林の中を進むレリア、ナゼール、コリン、そしてアメリー・ムカバと彼女が連れたムカバ族の精鋭達。

 彼らは昨夜攫われたハルとデボラを追ってこの島に上陸しているのであった。


 屈辱の一夜を過ごしたレリア達はあれから即座に行動を開始し、ムカバの集落からここまで移動していた。

 だが、夜間の強行軍が災いして全員疲労困憊である。


 そんな中、森林の中で小さな沢を見つけた一行。

 森に差した光が澄んだ水に反射して幻想的な雰囲気をかもし出している。

 そこでアメリーが提案してきた。


≪ここらで、休憩しようや≫


 全員がそれに応じて腰を降ろす中、唯一人レリアはアメリーに進言する。


≪ムカバの長。もう少し進んだ方が良いのでは? 早くあの魔女を止めないと二人が……≫

≪落ち着けって。オーベイの集落に近付くほど敵に発見される危険も高まる。そうなってしまっては休むこともできない。休憩がとれるのも今のうちだけさ≫

≪で、ですが……!≫

≪ここで無理して前進しても、肝心な時に疲労で動けなくなるだけさ。いいから休め≫

≪……はい≫


 進言を却下され、力なく座り込むレリア。

 彼女とて疲労はピークに達してはいるが、それでも逸る気持ちを抑えられない。


 うな垂れるレリアにナゼールが話しかけてきた。


≪レリア、心配するな。あの二人を案じてるのはお前だけじゃない。ムカバの長だってそうさ≫

≪ええ、わかってるわ。ありがとう、ナゼール≫

≪なーに、いいってことよ≫


 その時ふと、自分の上空から何か悲鳴の様なものが聞こえてきた。


「「うあああああああああっ!!!!」」


 何だろう、と思いレリアが上を見上げると恐怖に満ちた叫び声を上げながら二人の男女が降って来た。


 反射的に腕を上げて顔を覆うレリア。

 だがその二人組みは地面に叩きつけられる直前でふわっと浮き上がり、そしてゆっくりと着地した。


 その時になって初めてレリアは二人組みが自分の知る人物であると気づいた。


「えっ! クルスさん? それに、レジーナ?」


 レリアがそう声をかけると、クルスは青ざめた顔をこちらに向けて力なく笑う。


「あ、ああ、レリア……。精霊から話は聞いた。助けに来たぞ」

「え、ええ……」


 “助けに来た”。

 その響きだけ聞くと非常に格好の良い台詞ではあったが、青い顔でぶるぶると震えているクルスが言うと何とも締まらないものがある。


 そしてクルスの横ではレジーナが憎憎しげに呟いていた。


「あ”-……、死ぬかと思ったぜ。畜生」


 そのレジーナに駆け寄るコリン少年。


「レジーナ!! 大丈夫? 怪我ない?」

「ああ……コリン。見ての通り、あたしはもう駄目だ……」


 げっそりと告げるレジーナにコリンが非情に返す。


「あっそう。なら大丈夫だね」


 その時、颯爽と風の精霊シルフが降りてきた。


[ ふっふっふ。空の旅はどうだったかな? お二人さん? ]


 腕を組み、偉そうにふんぞり返りながら告げるシルフ。

 クルスはぐったりとした様子で返事した。


≪と、とても刺激的だったよ……ありがとう。シルフ≫

[ でしょでしょ~? ]

≪ああ、だから……他の皆も“同じ方法で”運んできてくれ≫


 と、クルスが意地悪な笑みを浮かべながら言うと、シルフは機嫌良さそうに飛んで行った。


[ ぐふふっ、任せなさーい! ]



 そこへ、アメリーがクルスに話しかけてきた。


≪お、おい……まさかお前らはシルフに飛ばされてここまで来たってかい?≫

≪はい≫

≪ふぅーまったく、無茶をするもんだよ。ま、それは置いといて……クルス≫

≪何ですか?≫


 険しい顔でクルスに問いかけるアメリー。


≪お前、ラシェル・オーベイと知り合いなのか?≫ 

≪は? 会った事も無いですよ。何でそんな事聞くんですか?≫

≪あのクソアマがお前の名前を出したんだよ。何か知らないか≫

≪……いえ≫

≪そうかい。まぁ奴は異民とも繋がりがあるみたいだから、異民の誰かからお前の事を聞いたんだろう。わかんねえのは、何でお前が狙われてるのかってことだが、心当たりはあるか?≫


 その問いにクルスは暫し考えて答える。


≪ひょっとすると『バルトロメウス』絡みかもしれないですね≫

≪あ? 何だそりゃ?≫

≪邪神だそうですよ。前にその信奉者に殺されそうになりました≫

≪そいつは大変な事だな≫

≪それより、ハルとデボラは?≫

≪ああ、攫われちまった≫


 眉間に皺を寄せて苦しげな表情を見せるクルス。


≪……≫

≪だが、私の考えでは二人は無事だろうよ。ハルは大事な異民の人質でまだ利用価値がある。そしてデボラは血を分けた妹だ≫

≪だったら、取り返す余地はありそうですね≫

≪ああ。だがこのまま無策で仕掛けるのは得策じゃない。何とか居場所を突き止めて、先に二人を救出した方がいいだろう≫

≪それなら適任がいますよ≫

≪ほう、誰だい?≫


 アメリーの問いに、自信ありげに答えるクルス。


≪チェルソさんです≫



お読み頂きありがとうございます。


次話更新は 12月11日(月) の予定です。


ご期待ください。




※12月10日  後書きに次話更新日を追加 

※ 4月20日  一部文章を修正

物語展開に影響はありません。

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