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空っぽな心の人  作者: ゆう
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名前

私は暫く隣の席で窓をずっと眺めている男の子を見ていると





『…さっきから、何?』と




ずっと窓を眺めていた男の子が私に振り向きながら抑揚のなくて無機質…まるでロボットの様に全く感情が感じられない声で聞いてくる



私は突然の事に一瞬固まる


いつから私が見ている事に気付いていたの…?




『なっ…いつから気付いて、たの?』と私は恐る恐る聞いてみる




『いつからって…窓にアンタの姿が映ってる

だから気付いた_で、なんでアンタは俺を見ていたの?』と興味が無さそうな顔で聞いてくる男の子__というか




『私はアンタっていう名前じゃない…』と私は不満顔で言う





男の子はその言葉にも先ほどと同じ興味の無さそうな顔で






『そうかよ…』と視線を再び窓の奥…空に男の子は戻す





私はその男の子をまたジッと眺める



なんでだろう…なんでか知らないけど


この目の前で窓を眺めている男の子が凄く気になる




(心の声が聞こえないからかな…?)




単純に考えたらそうなのかもしれない…


だって今まで‘‘こんな人’’いなかったから



心の声が聞こえなくて…それでいて話してみても


人間味を感じさせないどこか冷めている態度…


それにこの男の子の目…


感情の色も宿っていない、冷たさを感じさせる目を初めて見た



冷たい目はいつも私は周囲から浴びせられているけど



この男の子の目はいつも私に向けてくる人達のとは違う…


まるで__この世の全ての人を信じていないとさえ感じさせるほど、男の子の目は冷えきっている



この時の私はそう感じた…




『…ねぇ』と




私は再び男の子に小声で呼び掛ける




『………』


だけど男の子は何も言わずこちらを振り向きもせず


依然として窓越しに外を眺め続けている




『…ねぇ!』と先程より気持ち大きい声で呼ぶ…すると





『…何?』と外を眺めたまま応答する男の子



私は返事をしてくれた男の子にホッとする



だって、まるで最初からこの場に居ないかのように感じたから



だからその声を聞いて良かったと感じたの



『何を見ているの?』と淡々と聞く私




『何って…さぁ、何を見てるんだろうな』と感情の無い声で言う男の子



それから暫く無言が続く…



男の子は相変わらず窓越しに外を眺めている



そして私はそんな男の子をずっと見ている



一時間目の授業が終わり10分間の休み時間に入ると



ガタッと椅子を引く音を立てさせながら各々一斉に立ち上がり何人かは私の席に歩み寄って




『…ねぇ水澤さん、話良いかな?』と茶髪で長い髪をポニーテールにしている女の子が私に声を掛けてくる



それと同時に彼女の心の声も聞こえてくる



(本当は、話しかけたくなんてない…

だって‘‘犯罪者’’の隣だし、この子…怖いんだもん

でも__私、学級委員だし…頑張ろう)と



私はその心の声を聞いて落胆するより先に気になった



私は視線をこの目の前にいる女の子…学級委員から目を逸らして


隣でずっと外を眺めている男の子を見遣る



(‘‘犯罪者’’ってどういう意味?)



私は心の中でそう思ったけどすぐにその思考を停止させた



馬鹿馬鹿しい…なんで私が他人の事に干渉しなくちゃいけないの


今まで努めて人を遠ざけるようにしてきたのに



私は頭を振って視線を前に向ける



そして目の前にいる彼女に告げる



『委員長…無理に私に構わなくていいよ__迷惑だから』冷たい目で拒絶の言葉を述べると




『っ!?』彼女は一瞬にして顔を強張らせる



その時の彼女の心の中の声が私に入り込んでくる



(えっ、私…学級委員だって一言も言ってないのに

なにこれ、怖い…)



《化、化物っ!?》



瞬間心の中の声と現実の声が同時に発せられた



『ッ…』



私は女の子の目を見て驚き肩を揺らした



その目には恐怖の色が詰まっていたからだ…



(いけない…このままだと)



私は知っている…こう言う反応をする人が次に移す行動を



恐怖で押し潰されかけているせいなのか



女の子の目は焦点が合っていなかった



その目を女の子は私に向けると



目にも留まらぬ速さで私の襟首を掴んできた




周りの生徒はその光景を見て戸惑いを露わにしている



(しまったな…こうなる事くらい、予想出来たのに)



私は奥歯を噛み締め口を噤む…



そう、こんな事は今まで何回も有った


私に対して恐怖を抱いた人がその恐怖に押し潰され


そして私に…とそこまで思っていると



『っ!!』


私の襟首を掴んでいた女の子の右手が離れ


その手は大きく振りかぶられる



(あぁ、私…引っ叩かられるんだ)



そう思い私は目を強く瞑った…これから訪れる痛みに耐える為に



(……?)


おかしい…いくら待っても私に向かってくる女の子の右手の感触が来ない



私は薄っすらと目を開ける



すると思いも寄らない光景に私は大きく目を見開いた




だってそこには、ずっと隣の席で外を眺めていた男の子が怖い顔で女の子の手を掴んだ状態で睨んでいたからだ



私は驚きのあまり声を出す事が出来ないでいると



『お前さ…少し、黙れよ』と



彼の冷たく低い声が静寂に包まれた教室に響く




『は、離してよっ!?』と真っ青な顔で掴まれていた手を振り払う女の子



そして男の子をキッと睨みつけて声を荒げながら言う



『今度は、私でも‘‘殺す’’のっ!?』と



私は黙ってその場を眺めることしか出来ないでいた



そして女の子の言った言葉を心の中で反芻する



(今度はって……過去に殺したことでも有るの?)



私はそう思いながら男の子を見遣る



男の子はどこか遠くを見るような目で女の子を眺めていた



でも私にはその目が何故か…悲しく映る


さっきまで外を眺めていた時にも感じたものだ



まるで、自分なんて居なくてもいいってそう言ってるようにとれたから



男の子は怖い表情を崩さずに言う




『あぁ…お前の言う通り、俺は過去に人を殺した

だから…お前らが俺を怖がってんのも知ってる

もし俺が…逆の立場だったら‘‘犯罪者’’と一緒に居たいなんて思わない』と言って男の子は窓に目を向け一息吐く




そして女の子を真っ直ぐに見据えてはっきりした口調で言う



『でもな、会ったばかりの人間を…化物呼ばわりするのは__どうかと思うぜ』と淡々と告げる




『なっ…』と女の子が何か反論しようとするけど


男の子は続けて言う




『俺はそいつの事を何も知らない…けど

悪い奴じゃない__なんとなくだが、そう思うぜ』と言うと今度とばかりに



『そこまで言わせる…根拠は何よっ!?』と女の子は凄い勢いで言い放つ



男の子は暫く黙ってから答える



『…さあな、でもそいつは俺に話しかけて来た

怯える事なくな__あぁ‘‘犯罪者’’の言う事は聞けないか?』と自嘲気味に笑って言う男の子



私はなんでこの男の子がそんな事を言うのか…


その理由が全く分からない


ここまで色々喋ってくれているのに男の子の心の声は


出会ってから一時間が経つのに何一つ聞こえてこない



(…でも)と私は視線を男の子に向ける



彼のことを信じてみよう…そう思ったのだ



根拠は、今の言葉…今の言葉には何故か



‘‘優しさ’’を感じたから



『でもそれは…彼女が転校生で、貴方のことを良く知らないから』とあたふたしながら答える女の子




『なら、そいつを化物呼ばわりせずに匿ってやるべきじゃねぇのか…本物の犯罪者(バケモノ)からよ』と


男の子は冷ややかな視線で女の子を射抜く



女の子はその目を見ると全身をガタガタと震わして酷く怯えていた



私も素直に男の子の事が怖いと思った


その目にはたった一つの強い感情を感じたそれは…



‘‘憎悪’’だ…男の子からはその感情を強く発しているように見えた



なんでそんな感情を出したのか


過去…男の子の身に何が有ったのか、私には全く分からないからこそ



この時の目は一時間前より冷たく機械的で


それでいて…全てを拒絶してるように感じた


◆◆◆◆◆◆キーンコーンカンコーン◆◆◆◆◆◆



その時丁度休み時間の終わりを告げる予鈴が学校中に響いた


皆はその音を聞くと忙しく自分に席に着いていく


が、男の子と私だけは依然として立ったままだ…



◆◆◆◆◆◆◆◆◆ガラガラッ◆◆◆◆◆◆◆◆



暫くして先生が入って来て怪訝な顔で私と男の子を見る



『おい、水澤…それと、しっ…真空』とぎこちなく田中先生は男の子の名前を呼ぶ



私は真空と呼ばれた男の子に目を向ける




(真空くんって言うんだ…)


それは一時間経った今…やっと知った名前


と言っても苗字だけだけど



真空くんは気怠そうな目で田中先生を見て



『…田中先生』と低い声で呼ぶ




田中先生は『…な、なんだい』と引き攣った笑い顔で応答する



その時田中先生の心の声が聞こえた



(な、なんだ…何をする気だ__まさか、殴ってくるつもりかっ!?)と心の中で叫んでいた



その声は恐怖の色に染められていた



なんでなんだろう…なんで、皆__真空くんの事をここまで恐れるんだろう?



私はそう思いながら真空くんを見つめる




すると暫く黙っていた真空くんが口を開く




『実は、腹が痛くて…保健室で休んで来ても良いですか?』と痛そうな素振りもせずに淡々と述べる真空くん



田中先生はそれを聞くと



『あ、あぁ…それ、は__大変だな

お、おい水澤…し、真空を保健室まで連れてってやれ』としどろもどろに言う田中先生




真空くんはその言葉に顔を顰める



『なんで、そいつを同行させる?』と田中先生を睨みつけながら言う真空くん



田中先生はその真空くんの目を見てピクリと肩を揺らすと暫くして



『だ、だって…真空、の隣は水澤だろ?』と言うと



『あぁ…確かそんな名前だったっけな』と興味のない感じで言う真空くん



その言い方にイラッとしたが必死で抑える私



『そう…それで__水澤には早く、学校に慣れて欲しいし…友達も作って欲しい』と慌てながら言う田中先生…その言葉からは焦りや恐怖心が感じられる



『つまり、俺と一緒にさせて友達を作る機会を与えようとしてるって事か?』とどうでもいいことのように言う真空くん



『あ、あぁ。そ、その通りだ』と怯えてる様子で答える田中先生



というか、友達を作る機会を与えようって…教師としてその言葉はどうなんだろう?__そう思っていると



(頼むっ…真空と一緒に行ってくれ、水澤‼︎)とまるで懇願するかのように紡がれた心の声が聞こえた



私はその声を聞いて理解する



田中先生は私と真空くんをこの教室から追い出したいんだと納得する




『……チッ』



と真空くんは苛立たしげに舌打ちをすると出入り口に向かって歩きそのまま教室から出て行く



私はそんな真空くんに慌てて付いて行く




教室を後にし暫く無言で廊下を付かず離れずといった適度な距離をキープしながら歩いていると




『…なぁ、なんで付いてくるんだよ?』と



無言に耐えきれなくなったのか


腹立たしそうに言う真空くん



『え、なんでって…お腹痛いんでしょう?』と私は真空くんを労るように言う…すると




『フッ…お前それマジで言ってんの?』と鼻で笑って私を馬鹿にしてくる



『…どういう事?』と私は疑問の言葉を投げる




『俺が腹痛いって言ったのは、授業をサボる口実に使っただけだ…こんな事も分かんねぇのかよ』と呆れるように言う真空くん



私は無言で顔を俯かせる



分からないよ…だって、全然 (こころ)が聞こえないんだもん



私は視線を地面からさっきから前を歩いている真空くんの背中に向ける



なんか、見た感じ背中大きいし広そうだなぁ__って、なに考えてるのっ…私っ!?



私は大きく頭を振ってまた再度真空くんの背中を見る




(でも、なんでなの…なんで真空くんだけ心の声が聞こえないのかしら?)



真空くん…私にとっては色んな意味で初めて関わる人種だ



そう…私にとって彼はレアな人なんだ


心の声が例外無く私に流れ込んでくるのに


真空くんの声だけは、何故か…聞こえない



(こんな事、今まで無かったのに)



何故真空くんの声だけ聞こえないのか…


その理由は分からない…けど


不意にさっき真空くんが言った言葉が脳裏をよぎる



(犯罪者…か)



『ねぇ、真空くん』と私は何気なく声を掛ける



『……』が真空くんは私の呼び掛けに応答せずに無言のまま



『また、無視?ちゃんと読んでるんだから返事をしてよ』と私は不満を声に入り混ぜて言う



…ピタッ



すると真空くんは急に立ち止まる


私もそれに続いて止まると真空くんは私の方に体事振り返って



『…何のつもりだ?』と真面目な顔で聞いてくる真空くん



『…?』


何に対して聞いているのかわからず私は小首を傾げる




すると察したのか真空くんは


『つまり…なんで俺の事、苗字で呼んでんだって__聞いてるんだよ』と不機嫌そうな顔で言う真空くん



『あ、もしかして苗字で呼ばれたくなかった?』と私は慌てて聞く



いけない…全然心の声が聞こえないから、考えが読めない



けれどその質問に対し真空くんは



『いや、別に』と私から目を逸らし歯切れの悪い受け答えをする



私は分からなくてただ呆然と真空くんを眺める



すると首を左右に振って




『もういい…それより何か話が有ったんじゃないのか?』とその話を打ち切り今度は私の要件を伺ってくる



『あ、うん…その‘‘犯罪者’’ってどういう意味?』と私は何も考えずに聞いた



瞬間真空くんの顔が次第に曇っていく




私はしまったと思った…いきなりこんな事を聞かれて答えられるはずがない



まして私と真空くんは今日会ったばかりなら、尚更だ



『ごめん、話したく無いこともあるよね

本当ズカズカと…ごめんなさい__別に無理に話さ『__なんで?』と私の声を遮って真空くんが言う



『なんで俺にだけ…関わろうとしてくるんだよ?』



『えっ…?』


咄嗟のことで真空くんの質問の意味が直ぐには理解出来ない



『お前、周りと距離を置こうとしてるのになんで俺には…構ってくるんだよ?』と言う



その時の表情は依然として不機嫌なままだがその目は何処か切なく見えた



私は真空くんに言われて考える…


私はなんで、真空くんに話しかけようと思ったのか


第一に思い浮かぶ事は、やっぱり心の声が聞こえ無いこと


本当にこんな人に会ったのは、初めてだ


だから不思議に感じて真空くんの事をまじまじと見ていた



でもそんな理由…言えないから



『うーん…なんとなく、かな?』と私は戯けて笑いながら言う



『なんとなく、か…』と何処か遠くを見るような目で窓に目を向ける真空くん



(あ、またあの目だ…)



もう一つ真空くんに話しかけようと思った理由…それは



真空くんが何処か危なっかしくて切なげで寂しそうに見えたから



そう…真空くんは今日初めて会ったけど


此処までずっとと言って良いほど窓の外を眺めていた


私が話しかけても気付きもしないくらいに


その姿はまるで、もう会えない人に想いを馳せているかのように


この時の私は何故か…そう感じたんだ



真空くんは窓に向けていた目を私に向けると



『なら、もう俺に関わるな』と低い声で脅しを掛けるように言う真空くん



『な、なんでよ?』と返す


突然の事で、声が間抜けな物になってしまう



『さっきのを見ただろ?

俺は周りに恐れられてる…そんな俺に話しかけてもメリットは無いと思うぜ?』と淡々と告げる真空くん



そんな…そんな理由で関わるななんて言うの?



私は咄嗟に



『嫌よ…大体そんな理由で関わるななんて__おかしいと思う』と私は強く否定する



すると真空くんの表情が怒りを露わにする



『お前、本当に馬鹿か?

俺に関わるより周りと関わって人脈を増やした方が得だって言ってんのが、分からねぇのかよ』と少し声を荒げて言う真空くん



私は一瞬たじろぐけど直ぐには持ち直して



『そんなの、真空くんが決める事じゃないでしょっ!?

それに《お前、お前》って…私には』



『名前が有るって言いてぇんだろ?』とつまらなそうに言う真空くん


『っ…そうよ、だから名前で『いやだ』と即答される



『なんでよっ⁉︎』と私は疑問の声を大にして言う



『お前、一応今…授業中なんだから声抑えろ』と真空くんは自分の口の前に人差し指を立てながら言う



私は口を慌てて抑えて、真空くんをギロリと睨む



(誰のせいだと思ってるのっ…誰のっ‼︎)と心の中で毒吐く



『理由は簡単だ…田中が俺とお前を友達にさせようとしてるみたいだが、俺はお前と友達になる気は無い』と真っ直ぐに私を冷たい目で見下ろしながら言う真空くん



ま、背が真空くんの方が高いから自然と私を見下ろす形になるんだけど



『それに、お前…俺の過去を聞きてぇみたいだけどよ

俺はお前の事何一つ知らない__そんな奴に話す気はねぇ』と言って踵を返し歩き出す真空くん



振り返りざま、真空くんの表情が何処か悲しく映った



次の瞬間


『真空くんっ…私っ、関わる事は止めないからっ‼︎』と気付いたら私はそう宣言していた



『…勝手にしろ』と一瞬立ち止まって言った後再び歩き出す



(なんで、あんな宣言…したんだろう?)



私は教室に戻って授業を受けながら考え事をしていた


結局、あの後授業を抜ける理由が無くなったので


私は教室に戻って来ていた


教室に入ると田中先生が凄く嫌そうにしているのを


私は忘れられなかった



(それほどまでに、嫌われてるんだ)



私はその反応に慣れてはいるけど、


全く何も感じない訳じゃない…胸が痛いよ__



そして今に至る


考え事はさっき真空くんに対して言ったこと



‘‘真空くんっ…私っ、関わる事は止めないからっ‼︎’’




無意識だった…


口が勝手に動いて__気付いた時には真空くんが見えなくなっていた



ただあの時…真空くんが振り返りざま見た顔が、あまりに悲しく見えたから…


だからつい、あんな事を言ってしまった


あそこで何も言わなかったら…もう逢えないと思った


何か…繋がりが欲しい、私と真空くんを繋ぎ止める何かが


でもそれが見つからなくて、だから無意識にあんな事を口走った…



(でも、勝手にしろって言ってたよね?)



という事はこれからも関わる事は許してくれたって事なのかな?


でも、あの感じだと暫く口は聞いてくれないかな…


私は授業中ずっと、答えの出ない自問自答をずっと繰り返していた


そのせいで、全くその日の授業は耳に入って来なかった



『ただいま…』と私は学校が終わり真っ直ぐ家に帰宅する



『あらあら…早かったわね』とリビングからお母さんが、玄関にやってくる


私は玄関で靴を脱ぎ手早く脱いだ靴を揃える


後ろを振り向くとお母さんがにっこり笑顔で



『おかえり、学校はどうだった?』と言ってくる



『別に、普通だよ』と私は淡々と告げる



その時お母さんの心の声が聞こえた



(大丈夫かしら?ただでさえ、能力(チカラ)の事も有るけど…雪は内気で、大人しいところも有るから…心配だわ)



『っ///』


心配なのは分かるけど、表面も内面も私の事ばっかりだと恥ずかしくなる


お母さんは私の能力(チカラ)の事を知っている…本当の意味での私の理解者だ…そのせいで、お父さんと喧嘩して離婚させちゃったんだけど


(悪い事しちゃったな…)


それが顔に出ていたのかお母さんが少し怒ったような口調で



『あぁ、雪…またお父さんの時の事考えてるわね〜っ‼︎大丈夫よ、雪は何にも悪くないし…私も後悔してないんだから』と笑顔で言うお母さん



お母さんは昔からこうなのだ…いつも、私の味方で居てくれる__私の気持ちを優先してくれる



(母親って…そこまで出来るのかな?)


私が、そう思いながらリビングで腰を落ち着けていると


キッチンからお母さんが少し大きめな声で


『そう言えば、誰か仲良くしたいとか…気になる子は居なかったの?』と言われて私は少し考える



直ぐに思い浮かんだのは、真空くんの事だ…


別に仲良くしたいとかそう言う訳じゃないんだけど


やっぱり、初めて心の声が聞こえない人だったから


真空くんの事が気になる…一体何故、心の声が聞こえないのか


それに…なんで、あんな遠くを見つめるような目をするのか__その理由が知りたいと私は思った


この時はまだ…興味本位でしか無かった



『あ、さては雪にもついに春が来たかな〜っ』と満面な笑みを私の目の前で浮かべる



気付くとお母さんはキッチンから移動して私が座ってる椅子の前に来ていた…



(そんなに、考え込んでたんだ…)



私はお母さんの顔をじっと見つめる


お母さんはそんな私に何かを察したのか



『今日、何かあったの雪?』と心配そうな顔で聞いてくるお母さん



『ねぇお母さん…』私はいつもよりワントーン低い声で呟く


『何?』と笑顔で聞き返すお母さん



『今日ね、心の声が全く聞こえない人がいたの…』


お母さんはそれを聞いて…



『えっ…それ、本当っ⁉︎』と私の両肩を掴み揺らしながら聞いてくる


『う、うん…』と私は戸惑いながら答える



『良かったじゃない…今までそんな子、いなかったでしょう?』と嬉しそうに言うお母さん



『うん…だけど、少し怖い』私は顔を俯かせながら言う



『怖い?』とお母さんはキョトンとした顔で問い返してくる



私は無言で頷いてから



『だって、今まで心の声が聞こえてたのに…

その人だけ聞こえないなんて、少しいや…かなり戸惑うよ』と私は不安に思ってる事を口にする



お母さんは腕を組んで右手を顎に当てながら



『そうねぇ、心の声が聞こえないならその子は…心を閉ざしてるんじゃないかしら?』と言う



(心を閉ざしてる、か…)



確かにそうかもしれない…



お母さんは真剣な目を私に向け



『何か、心当たりはないの…雪?』



私はその問いに頷きながら



『真空くん…‘‘犯罪者’’って呼ばれてた…』



お母さんはギョッとした顔で


『‘‘犯罪者’’っ⁉︎』と大声で言う


『…うん』と私は頷く



お母さんは胸に手を当てながら


『…そう、ならそこに心を閉ざす理由が有るのかもね』と苦笑を浮かべながら言う



『でも、そっか…』と言うとニンマリと笑って



『雪は、その‘‘真空くん’’っていう男の子が気になるんだ?』と囃し立てる様に言うお母さん


『なっ、違うよ…只、その__ほっとけないっていうか』としどろもどろに言うと



『ほっとけないって?』と言うお母さん



『その…話してたらね、時々遠くを見る様な目をするの…それに感情も希薄で、その場に存在してるのかも偶に分からなくなる…』


自分でも何を言っているのか分からなかったけどお母さんは



『もしかしたら、その真空くんって子…‘‘消えたい’’って思ってるんじゃないかしら?』と真面目なトーンで言うお母さん



『…消えたい?』私は訳が分からず聞き返した


『そう、お母さんにも経験が有るわ…

何か後悔をしてる時…外を眺めていたもの』



それを聞いた時…ハッとする



お母さんから聞いたそれは、紛れもなく今日見た真空くんと同じ行動だったからだ



『お母さん、ありがとう…少し分かったかも知れない』


私は満面の笑みで答える


『良いのよ、これくらい…それにしても雪がねぇ』と幸せそうな顔で私を見つめてくる


『なによ…言っておくけど、心配なだけだからね』とそっぽを向きながら言う


『ねぇ、下の名前はなんて言うの、その子?』と優しく微笑みながら聞いてくるお母さん



名前…そう言えば、下の名前は知らない__


苗字は田中先生が私と真空くんを注意する時に初めて聞いたくらいだ…


それどころか、真空くんは今日1日私の事を一度も名前で呼んでくれなかった…



『…お休み』


『えっ…ちょっと、雪⁉︎』とお母さんが私を呼ぶが


私はそれに構わずリビングを後にして二階の自室に向かう



自室に入って私は自分のベッドにダイブする



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ボフッ◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、すぐに毛布と掛け布団を自分の体に掛け


目を閉じながら心の中で思うのだ


(よーし…絶対真空くんの名前と私の事を、名前で呼ばせるぞ〜っ‼︎)と心の中で誓いながら眠りについたのだった…

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