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空っぽな心の人  作者: ゆう
1/3

初めての出会い

季節は秋…赤や黄色の葉っぱが風で宙に舞っては下に落ちてきて並木道を綺麗に彩る



(わあっ、綺麗…)


私はその光景を見て心を踊らせる


今日からこの学校までの通学路を


毎日渡るのだと思うと自然に頬が緩む


でも私は直ぐ表情を陰らせる


私…瑞沢雪、16才で高校2年生


今日から向かう向陽(こうよう)高校の転校生です


え…なんで転校したのって?


それは後々話していくね…


『あっ、このままだと遅刻しちゃう‼︎』と私は


自分の腕時計で時間を確認して慌てて


紅葉によって綺麗に彩られた並木道を駆け出す


走り出して5分…並木道を抜けると十字路に出る


時刻は8時40分で車の通りが多い…


(早くしないと、遅刻しちゃうっ…)


私は左右を確認してまた再び駆け出す


それから3分後…奥にはでかい校舎…そして眼前には校門が見えた


私は立ち止まって目の前の学校を見る


今この場で分かる事は…校舎が3つそんなに大きくない高校



(まぁ…人が多くないからって理由で

此処に転校しようって決めたんだから、当たり前か)



そう、私はある事が理由で人と関わる事をしなくなった


そのある事が今回転校をする理由なんだけど…



-------キンコーンカーンコーン------


と学校の予鈴が辺りに響き渡る


(わっ…急がなきゃ、本当に遅刻しちゃうっ‼︎)



そして私は校門に向かって走り出す


校門を通過して…校内の玄関に辿り着く


(えっと…先ずは教務室に向かわなきゃ)


私は周りを見回し近くにあった案内図の元に向かう



(現在地がここ…で、教務室は…あった‼︎)



案内図によると教務室は…ここから直ぐの階段で3階に上り、渡り廊下を右に曲がった所に有るみたい


私は直ぐに教務室に向かって確認した順路を歩き出す


すると頭上に教務室と言う看板が現れる


私はそこの扉の前に着いて一回深く深呼吸をしてから


--------コン、コン…ガラッ-------


『失礼します』と2、3回ノックをして教務室の中に挨拶をしながら入る…


教務室の中は教師達が朝のHRの準備やら授業の準備やら打ち合わせやらで人の行き来が激しい


私は出入り口付近で、キョロキョロしていると



『もしかして、瑞沢…雪さんかい?』と怪訝な表情で尋ねてくる二十代前半の爽やかなイメージの男性が話し掛けてくる



私は『はい…』とコクリと首を縦に振る



するとその人は笑顔で


『俺は今日から君の担任になる…田中(たなか)直文(なおふみ)だ…

心配したよ、転校初日で…遅いから』と言ってきた瞬間



(まじで、初日で遅刻とか迷惑掛ける事すんなよな

責任取らされんのは、お前じゃなくて俺なんだから)



私はピクリと体を震わす


そして目を伏せて心の中で思うのだ…


(あぁ、この人もなのか…)と__




私は貼り付けたような作り笑いをして


『大丈夫です、今度から迷惑を掛けるような事はしないので』と答えると



田中先生はギョッとした顔で


『えっ…』と驚きの声をあげて私を見たまま固まる


私はその田中先生を見て目を閉じてハアと溜息をつく



そして目を見開き私は頭を下げて『失礼しました』と言って踵を返して出入り口の取っ手に手を掛けると



田中先生は慌てた様子で


『あっ待って瑞沢さん‼︎自分のクラスと教室の場所…それと名簿番号を今から教えるから』と捲し立てるように早口で言う


私はウンザリした様子で


『2年B組…出席番号15番…教室は、ここから階段を使って4階に上がって渡り廊下を左に曲がった所…ですよね』と不機嫌な声で言うと



『あっ、あぁ』と困惑した態度を田中先生は取る


私はその態度を見て


(それは、此処まで言い当てられれば…困惑もするか)と


そう思って苦笑した瞬間…


私の頭に‘‘田中先生の心の声’’が聞こえる



(なんだこの子…薄気味悪くて、関わりたくないなぁ)



私はその‘‘声’’が聞こえて表情が冷たいものになる


そして冷やかな声で田中先生に顔を向け



『田中先生…無理に関わらなくて良いですよ

私も必要以上に関わる気は無いので』と言って


私は今度こそ教務室を後にする…



最後に見た田中先生の顔は信じられないと言った感じの顔を浮かべていた


--------ガラッ…ゴトン--------


私は扉を閉めてその場で立ち止まる


(これで先生は…必要以上に関わろうとはしないかな)


と私はそんな事を思いながら肩を落とす



そう私、瑞沢雪にはちょっとした‘‘秘密’’が有る…


それは、他人の‘‘心の声’’が聞こえるというものだ


私には何故か生まれた頃から、他人の‘‘心の声’’が聞こえるようになっていた


幼い頃の私は、その異常性に気付かずに


周りの人間の心を次々に口外していた…


そしてそのうちに周りの子供…友達だった者までも私の事を虐めるようになり



聞きたくもないのに聞こえる他人の‘‘心の声’’は__



(なにあの子…気持ち悪い)


(怖いよ…関わりたくない)


という声ばかり…


もっと酷いのは大人だ__


(あの子…精神でも病んでるのかしら

親御さんに相談しなくちゃ)



幼い頃の私は、園田先生に歩み寄ると


園田先生はピクリと肩を震わす


そして私は笑顔でこう聞くのだ…



『先生…精神が病んでるってどういうこと?』


そう言うと園田先生は『…ひっ』と悲鳴をあげて


『ち、近寄らないで…化け物っ‼︎』と叫んで


まだ幼い私を突き飛ばす…


----------ズサッ----------


私は地面に背中から倒れて上半身だけを起こして園田先生を見上げる



その時の園田先生の顔は、恐怖の色一色に染まっていたのを今でも憶えている


そして私が、この学校に来る前の所でもこの生れ付きの能力(チカラ)のせいで転校をする事になる…



それは…といけない


私は教務室の前から動き出す


目的地は…2年B組の教室だ


私は階段を使って4階に上がる



階段を上っている時に女の子が挨拶をしてくる


私は無言で、その女の子の横を通り過ぎる




(なにあの子…ウザいわね)



私はこの声を聞いて思う…


いつもの事だから__と


そうなんだ…私は生まれてから今日まで、


耐える事ばかりをして生きてきたんだ…



この時の私は__周りに絶望していたんだ…


皆、優しそうな顔をしていても心の中じゃ


嫌がっている…それなら関わらなければ良いのに


そう思いながら今日からまた…つまらない日常が繰り返されるのだと思っていた


この後__‘‘君’’と出会うまでは



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



2年B組の教室の前に着き私は足を止め目を閉じる



(今日からまた、地獄のような日々が始まるのか…)


そう思いながら私は肩を落としてから


パッと目を見開き顔を上げる


(うん、いつも通りにすれば良いんだから…

落ち込む事じゃないよねっ‼︎)と私が思った瞬間


『あっ…やっと見つけた』と言う声が聞こえて右を振り向くと田中先生が、こちらにゆっくりと歩いてくる




『先生より先に教室に来るなんて

そんなに早く友達を作りたいなんて感心だな』と



明るく笑いながら言う田中先生



でも私はそんな田中先生に目を閉じて溜息をつく



だってこの先生…言ってることと心の中で思ってることが違うんだもん



そう__今心の中で田中先生が思ってる事は




(ちっ…初っ端からそういう事するなよな

人の迷惑も考えろっての⁉︎…せっかく元は良いのにな)



私は目を開けて田中先生をキッと睨み付ける


すると田中先生はそんな私の行為にたじろぐと



『なっ、なんだ?』と恐る恐るといった感じで聞いてくる




『先生、勝手に単独行動した事に関しては謝します

ごめんなさい…それと生徒に対してそんな事を思うのはセクハラだと思いますよ』と冷たい声で言う



田中先生は化け物を見るような目で私の事を見ていて


田中先生の体が小刻みに震えている…




(あぁ…怖がらせちゃったか)



ま、良いけどね…これを機にあんまり接触しようとは思わないでしょ



でも流石に教室の前でいつまでも立ち往生という訳にもいかないので




『さっ…早く行きましょっ』と貼り付けたような作り笑いで私は田中先生に言う



田中先生はしどろもどろといった感じで



『あっ、あぁ』と返事をする



ーーーーーーーーーーーガラッーーーーーーーーーー



田中先生がドアを開けると


さっきまでざわついていた教室の中が


一気に静まり返って教室の中にいる皆の


視線は田中先生…只一点に集中する



田中先生はその視線に臆する事なく


黒板の前に置かれている教卓に向かって歩き出しながら




『今日は…て、転校生をっ紹介、する』と少し上ずった声で言う田中先生


私は廊下からその田中先生の言動を見て


私のこれからクラスメートになる人達の様子を窺う



そこには色んな顔があった…


薄っすら笑みを浮かべて小馬鹿にしてる顔…


その田中先生の様子に驚愕している顔…


気持ち悪そうにしてる顔…と大体この3種類の顔が教室を占めていた



(そりゃ…気持ち悪がるか)



私もあんな声を聞いたらその3種類のどれかの表情を浮かべる事だろう




『さ、さあ水澤っ…は、入って来い』と言われて




私は入りたくもない教室に足を踏み入れ


田中先生のいる隣まで歩みを進める




そして足を止めて生徒達の方に体ごと向けると


大体の生徒が気味悪そうに私を見ている




(あぁ、そうか…無表情でいるんだから当然ね)



でもそれなら丁度良い…



『初めまして、水澤雪と言います

基本的一人が好きなので声はなるべく掛けないで下さい』と



私は無表情をそのままに冷たい声で言う



(なにあの子…ウザいんだけど)


(こういうタイプか…関わらないようにしよう)



私の予想通りクラスメート達は心の中で私の事を悪い印象で捉えてくれる



…まだ何人かは私に関わろうという心の声も聞こえるけど



私は田中先生に視線を向け



『私の席はどこですか?』と抑揚のない声で聞く



田中先生は怖がって中々口を開こうとしない



(確か、水澤の席は一番後ろの窓際の‘‘化け物’’の隣かっ…なんで、俺の受け持ったクラスだけ問題のある奴ばかりなんだ⁉︎)という田中先生の心の声が聞こえた



私は一番後ろの方に視線を向ける


窓際の方を見てみると…窓際で外を無表情で眺めている男の子の隣が空席だった



(私の席は、あそこか)


そう判断して私は歩き出すと



『み、水澤っ…まだ席を言って、ないだろっ』とまた上ずった声で言ってくる田中先生に歩きながら



『…一番後ろの列の、窓側から二番目…ですよね?』と何気なく言う



その私の言葉を聞いてクラスメート達が騒つく



でも一人だけ…そう、さっきから窓越しに外を眺めている男の子は皆と違って此方を見向きもしない



(なんなのこの人…)



私はその人が向けている視線の方に私も視線を送る…が



そこには朝通学路で見たような紅葉と


青く澄みわたる広大な空…そして向かいに建っている校舎しか見えなかった



私はまた視線を男の子に戻す



彼の表情は無表情で…


外を眺めている目は空虚に感じられて


今にも消えてしまうように感じられる



(まぁ、私に関わらないならそれでいいか…)と



私は自分の席に辿り着き腰を掛けながらそんなことを思う…けど


私は左隣に座る男の子を見る



さっきから気になってる事が有るんだ…


ここに居る人達の心の声は聞こえるのに、何故か



‘‘この男の子の心の声だけ聞こえない’’



こんな事は初めて…



いつも嫌ってくらい、心の声が聞こえるのに


心の声が全く聞こえない人が現れるなんて…



さっきまでの事も踏まえてこの男の子に抱いた最初の印象は…まるで



(まるで…空っぽの心の人みたい)



これが私…水澤雪(みずさわゆき)と空っぽの心の人…真空天(しんくうそら)の初めての出会いでした




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