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お姫様と魔物少年 未来談

そして彼は表舞台に舞い戻る

作者: あしあと

先走り話第三弾&一区切りぽい話?


前の短編や後書きまで読まないとわからない仕様です。


 

「最近よぉ、なんか穏やかじゃねえよな」


 緑深き山林、およそ人が踏み入れぬだろう険しき道程を経たその奥。

 擦れ合う木々の葉と、時折鳥か獣かの声が聞こえる程度のひっそりと静まり返る空気を、ぽつりと呟かれる声音が破った。


 ぶっきらぼうな声音の主は、蜘蛛のように複数ある血のように赤い眼が印象的な、小岩ほどの巨体はある黒い翼獣だ。

 その黒い翼獣の話し相手か、そう遠くない位置に、例えるなら全身蒼い鎧を着こんだかのような、人の形をした存在が腕を組んで佇んでいた。身の丈は人より人の半身ほどまた高く、それだけでも彼の者も人とは異なる者とわかる。


「何だいきなり。穏やかではないか? ここのところ大した事件も起こっていないだろう」


 だが、言葉を返したのはその存在ではなかった。

 黒い翼獣の傍ら、草覆い繁る地面から重力の逆の力が働いて雫を溢すかのように地面から水が膨れ上がり、人のような姿を形作ったモノが知的さを感じさせる落ち着いた声──というか音波的なものを発した。体は向こうを窺えるほどに透明で、光が反射して七色に輝く様は神秘的とも言えるほど。


「それはそーだけどよ、オレが言いたいのはそーじゃなくてだなあ」


「胸ガざわつくト、言いたいんだロウ」


 黒い翼獣の言葉を、そこで蒼い鎧の者が温かみとは無縁の無機質さを感じさせる声音で引き継ぎ、続ける。


「そろそロ、この生活モ終いとナルのかもしれなイな」


 無機質さのなかにどこか案じるような感情を乗せて、青い鎧の者は頭上を仰ぎ見る。


「まあ、この感じだ。あれの我慢も限界だろう」


「はァ、体裁とかめんどくせーよな。どーするんかねーあいつ」


 他の二人もそれに習って上を見上げる。


 木の葉と枝に遮られながらも辛うじて視界に映る、自分たちの──聖獣の配下と呼ばれし彼らの、その主を。





「コウ、だいじょーぶ?」


「大丈夫くない。わかってるでしょ」


「ウン。でもイチオウの声掛けねー」


 樹上では、子供のような高めの声と不機嫌な人の声が言葉を交わしていた。

 大きな木の逞しい幹にもたれるようにして枝に腰かける白いローブを着込み蒼いフードを被る者と、その傍らを浮遊する黒頭巾(ずきん)のようなもの。

 蒼いフードから覗く顔は人の顔だが、黒頭巾からは黄色く灯る目を除き顔らしいものは霞に包まれて窺えず、魔生の者と思われる。


「あのコたちと旅したの、後悔してる?」


「してない。こうなると俺の考えが及ばなかったことにイラついてるだけだ。……物好きどもめ」


「ラドルとしても気楽に動けなくなっちゃったモンねー」


 重く苦々しく吐かれた言葉に、黒頭巾は裾とも切れ端とも言えそうな手らしき部分で蒼いフードを慰めるように撫で付けた。その仕草で蒼いフードの隙間から紫の髪がこぼれ出る。


「なんにしても、ガマンして爆発するのは無しだよ」


「うあー、我慢とか言わないでシェル。自覚するとやばいんだって」


 青年は悲壮な声音で呻き、ローブの長い袖に隠れた手のまま顔を覆い隠して身悶えた。


 青年がどうしてここまで嘆くのか。それは注目のされることが苦手なくせに、色々と目立ち過ぎたせいであった。

 人の国の王となったこともあれば、災害時には力ある魔物として被害を最小に抑えようと人の前に立つこともあった。

 その行為自体に後悔はないが、それから崇拝や追っかけという存在が生まれるなど誰が思うだろう。自身は人に忌み嫌われる魔物という存在だ。

 だというのに小数ではないそれ。そうでなくとも人間の数は少なくないし、もはや各地で目を光らせられていると言っても過言ではない。


 それでも最近までは誤魔化しようもあったが……息子たちの旅に同行したことでそれなりに憶測を立てさせられるくらいの話題を提供してしまい、今はほぼ身動きが取れない状態になってしまっていた。


 また別の誰かを演じて切り抜けることは出来る。出来るが、これまでもずっと自分を潜めてきたのだ。ありのままの自分で居られない生活はとても息苦しい。

 長く続け過ぎて溜まっていたストレスを自覚してしまった今、それはわずかな時間ですら自分ではないものを演じるのに嫌悪しか抱けない。かといって、今自分のまま自由に振る舞うことなどもってのほかで。


「あー、シェルが居なかったら俺ストレスで潰れてたろうなあ。まじシェル俺の安定剤~」


「お役に立てて光栄デス」


 一頻り喚いて落ち着いた青年は黒頭巾を胸に抱いてほうと息をつく。


 この二人の関係は一言で言うと親子だ。

 外見の違いからわかるように、血は勿論繋がっていない。

 まあ年の差は二桁も離れていないので、今では親子というより相棒と呼べる間柄になるつつあるようだが。


 黒頭巾は本来は生き物の生死に寄り添う存在となるべく生まれた者だった。

 しかし力量に恵まれず放置され、彷徨っていた所を青年に拾われて青年の元で同族の者を凌ぐまでに成長するも、共に過ごしてきたことで青年の内心をある程度読めるようにもなり、精神的に少し脆いところのある青年を支えることを選び今に至る。


「それで、これからどーするの?」


「そうだなあ。この話が城に行くのも時間の問題だと思うから…立ち退くのは簡単だけど、やっぱ土台は作っていかなきゃだよなあと思ってる」


「コウってばほんとーに世話焼きだよね。世話焼っきー。ほっぽってけばラクなのに。絶対面倒な虫がワクってわかってるのにさー」


「そうだけど、でもそれなりの人と交流あったし、見捨ててくのは寝覚めが悪いと思わない?」


「ウンウン。好きにしたらイイと思うよー。ボクらはそれを手伝うだけだもん」


「……物好きだよねえ。皆一人で生きていけるのにさ」


 黒頭巾に返す言葉は多分に呆れを含んでいるが、青年の口元には笑みが浮かんでいる。


 下に居る彼らは目の前にある黒頭巾とは違い、敵対する立場の者であったり、本気で命のやり取りをしたこともあったりと相容れないはずの者たちだった。

 それが傍にいたいと求められ、主従の関係には戸惑うものの名を授けて共にある間柄にまでなっているのだから不思議なものである。


「面倒だけど、まあ自分を抑えた生活はもう無理っぽいしな。俺が俺として生きるためにいっちょ動くとしようか!」


 そう意気込んで宣言して立ち上がった青年は、眼前をさっと片手で顔を覆い、そして離す。

 その後には先程まであった人の顔はなく、黒頭巾と同じ黄色く灯る目以外は霞に包まれた面が現れていた。





 そして舞台はシルヴァニア城、謁見の間。


「随分と騒がしい訪問ですね。何事でしょうか?」


 そこでは、現シルヴァニアのトップである女王ミリアが押し掛けるように訪れた謁見者たちを出迎えていたところだった。

 その者たちはいずれも自国の者たちではなく、他国のそこそこの身分ある者たちだ。各々が鞘から刀身を抜かずとも手を置き、警戒か、あるいは脅しともとれるような姿勢でミリアと対峙している。


「ラドルという男はここによく顔を出すそうだな。今そいつは何処に居る?」


「……何故彼を、貴殿方が?」


「その男が聖獣の配下と居るところを見かけたという話がいくつかあるのですよ。聖獣の配下と付き合いがあるのであれば、その者も只者ではないと考えるべきでしょう」


「その者が人間なのか魔の者なのかを貴殿がご存知かは知りませんが、そのような者を野放しにしているわけにはいかない。故に確かめさせていただきたいのです」


 ああついに来やがったか、とミリアは女王然とした態度で内心毒づいた。傍らでは渋顔で護衛として控えたアデイルもより眉間の皺を増やして不快を顕にしている。


「それで、どう確かめると? 確証もなく彼に疑いを向けているのではないでしょうね? であれば我が国は貴方方を非難しますよ。彼は私たちにとって亡き夫が遣わしてくれた良き隣人なのです」


「一国の王に対し非礼であることは承知の上。確たる証拠も持ちえないが、だが、このまま何もしないわけにもいかないだろう。貴殿たちが魔物に利用されている、もしくは操られている可能性がある以上は。

 事はシルヴァニアという国自体を疑ってかかるべき、と各国の懸念事項となっているのです」


「それで各国の皆様がお集まりなのですね」


 言葉だけは御立派ですよねえ、と建前を述べる彼らにまたミリアは内心毒づく。

 彼らの目は力ある聖獣を得たいという内心を隠しきれずにギラついていて、時に互いを牽制していたりもするのだ。口にしたことを本心で案じているような者は一人も見受けられない。

 善意で動いている聖獣を自分たちの良いように扱いたい等と、強くて自由が似合う彼に対する邪な考えに女王の皮を剥がして怒りを爆発させてしまいそうである。こういうときは魔物世界は力がものを言うから屈服とか楽なのに、人めんどいと言う彼の側近(友人)たちの言葉につくづく同意だ。


「それで、件の男は今何処に?」


「──残念ながら彼は今ここには」


「その男から話を聞くより私と話をした方が早いよ、御客人」


 うんざりしながらも不在を伝えようと口を開いたとき、この場にいないはずの第三者かれの声が割入ってきた。


 何もない空間から青と白の渦が突如生まれ、瞬く間にふわりとローブを着込んだ人の形を成すものが現れる。


「なんっ……?!」


「なっなんだお前はっ!? 蒼いフードに白ローブなどと珍妙な格好を……──っ!! 待て。まさか、貴様は噂に聞く『聖獣の使い』か!?」


 突如現れたそれにミリアは驚きに出かけた言葉を呑み込み、謁見者たちは思い当たったその正体に狼狽える。


 聖獣の使い。

 それは聖獣と聖獣の配下程知られてはいないがコウ扮する役のひとつで、ロードという存在だった。どうしても人相手に何か伝えなければならないときに矢面に立つ用といったところか。


「聖獣の使いがここに現れるなど、この国はやはり毒されていたか!」


「毒すって、人に悪い治世をした気は無いんだけど……とりあえず武器を収めてもらえないかな。狭い室内でそれは危ないし、備品を直すのもただではないんだよ? 弁償するのなら構わないけどね」


(…?)


 繰り広げられる会話にミリアは内心疑問を抱く。主に目の前のローブを纏う人に。

 ロードという役は本来、魔物たちのまとめ役として威厳を纏い、口調もそれに見合った古めかしい言い回しをするのだ。

 けれど今のロードは普段のコウの口調であって、内容もロードが関与(口に)するものではないはずで。


「さっきから客だ弁償だなどとおかしなことを──いや、ここはお前の管轄だったということか?」


「あーまあ一時とはいえ治めていたし奥さんの住む国だけど、聖獣のおつかいやら魔物だって話は一旦忘れてくれる? 話が進まないから」


「何を言って──なっ?! その姿…ら、ラディウス王っ!?」


「っ、えええっ?!」


「なっ、なんで……!」


 不意に荒っぽく蒼いフードが取り払われて、亡くなったとされている女王の伴侶──この国の王の顔が表れたのだ。

 こちらとしても何がどういう展開となってるのか、何故明かすのかとミリアとアデイルも謁見者たちと一緒になって驚くしかない。


「聖獣の使いが、ラディウス王? 何故……これは一体どういうことですっ? 貴方は亡くなられたと…!」


「うん、私はもう死んでいるよ。簡単に説明すると、死んで魂となってたところにたまたま聖獣と出くわして、この依り代(動ける身体)を貰ったんだよね」


「なんと……」


「でも戻るにしても世間的にももう死んでいるわけだし、表立って動くのはおかしいかと思って代わりにラドルにここをお願いしていたんだ。まあ君たちに追い回されるようになったら断られてしまったけど。で、こうやって奥さんも困ってたことだしネタバラシ?することにしたんだよ。てことで、聖獣繋がりはラドルじゃなくて私の方だと理解してくれたかな?」


「──……貴方は、今も聖獣と関わりがあるのですか」


「やっぱりくいつくのはそこなんだね。そんなに聖獣とお知り合いになりたい? 従えたいって?」


 呆れをありありと含んだ言葉と視線が謁見者たちを眺めやる。だが次の瞬間、それは感情の籠らない瞳へと変わった。


「夢を見るだけならいいが身の程は弁えろよ。聖獣(恩人)である彼を煩わすと言うのなら──私がお前たちの排除に動くぞ」


「…っ」


 不用意に動けば本当に言葉を実行に移されかねない空気に飲まれ、謁見者たちは凍りついた。

 侮蔑でも失望でも殺意でも、意志が見えればまだ何かしら自分たちに向けられたものと思えただろう。

 だが感情の籠らないその眼差しは自分たちを認識していない──ゴミに向けるようなものとも言い難いそれは本当にいつでも排することのできるとるに足らない存在なのだと知らしめる。

 そうでなくともラディウス王はもともと気さくで民を無下にしない優しき賢王として知られており、それまで対面していた間もそんな雰囲気で、その落差は凄まじい。

 そしてここを訪れた彼らは皆自国ではそれなりの立場にいて身分持ちだ。そんな彼らが格下と見下されるどころか本能で悟らされる死の意を向けられるなど、恐怖に震えるどころか動くこともままならない。

 とはいえ。


(わあコウのまま王様モード(ロード)入っちゃってる! やだ惚れる~! レア物ですわよ魔物たちぃ(みんなぁ)!)


(王様だ! 魔王様っ!)


 と、矛先と関係無いものは場違いにも身悶えていたりするのだが。


「聖獣は君たち阿呆(人間)の尻拭いをしてくれている。楽な生活を求めて大地から搾取し続ける人間を見逃して地ならし(フォロー)までしてくれているんだ。それを念頭に、これ以上馬鹿やって見限られないように自分を見直すといい。一度だけその機会はくれてやる」


 そうしてコウは聖獣の在り様と律儀にも忠言を加えて語り、茫然と動けぬ訪問者たちを転移魔法で城の外に追いやった。





 それから場所を移して、今は王の私室に二人きり。

 道中ローブ姿の亡き王が堂々と歩む姿に城で勤める者たちをぎょっとさせていたが、一先ずの説明はアデイルに押し付けてあるので問題はない。


「コウ助かったよありがとう~。でもロードがラディウスって設定にはびっくりしたわ!」


「聖獣=ラディウスで明らかにするとその子であるルイたちも危なくなるからね、尤もそうな話を考えてみたんだよ。死者が聖獣の配下で存在してたとか無茶かなとも思ったけど、あの反応なら大丈夫そうだね。あー、ようやく俺として生きていけそうだよ」


 コウは長い袖を若干煩わしそうにしながら伸びをして、そのまま頭の後で手を組んだ。


「……それってつまり、これからはコウとして過ごすってこと?」


「うん。俺も、ちょっと限界だったからねえ」


「じゃあじゃあっ、これからは堂々と一緒に居られるってことっ?」


「そうだね。まあ、今までよりはずっと長く居れるのは確かかな」


「ほんとに! ぃやったああー!(……お?)」


 歓喜のあまり衝動的に目の前の身体に飛び付いてぎゅうっと抱き付いたが、ややおいて、ちゃんと抱き締め返されたことにミリアは内心驚いた。

 自分たちの夫婦間は向こうが愛情表現に乏しいし、大体は自分があやされて終わる、ラブラブというよりもほのぼの寄り添う間柄な感じなのでこれはちょっと珍しいことなのだ。


(そんなにいっぱいいっぱいだったんだぁ……)


 ミリアは自分以上にいつも傍らにあるシェルとは違った立場でちゃんと求められていることにほっこりしつつ、ローブ越しでも感じる温かさに頬擦りしながら、珍しく自分が労る側として背をぽんぽんとあやすように撫で続けた。





 ──それからのシルヴァニア城では。


「ラディウス様っ、ラディウス様がお戻りになられたああ!」


「いや、死んでるからその言い方はおかしいよね?」


「お父さんイオニスはっ? 一緒じゃないのっ?」


「ここにはいないけど…近くにはいるよ? 見つけられないならまた隠れてるのかもね」


「あすみませんラディウス王、ちょっとお聞きしたいのですが…ラディウス王は以前その御姿で我が国に来られましたよね? 聖獣が何を訴えたかったのかいまいち解りかねていて、詳しい話をご存じないでしょうか?」


「えーと、お宅の国は…あー、生活エネルギーのやつかな。あれは、今のまま行くと貴方たちの土地は危なそうだっていう注意喚起だね。作物の育ちが悪くなってるのくらいは覚えがあるでしょう? 便利さを追求するのは構わないけど手後れになったら生き物も住めなくなるらしいから見直すなり何なりしてもらいたいと……っていうか待って、なにこの状況? ちょっと! 王制やめて民主制にしようっていう議案の最中になに関係ない人も入れてるの衛兵(君たち)!」


 今の場所は会議室。

 謁見の間ではないのだから関係者でない者は入れないはずのこの場はしかし、入口扉が解放されており部外者にもオープンな状況。

 着席して机に向かっている者もいるが立って周囲を賑わしてる者の方が割合として多かった。


「だって納得出来ませんからっ。ラディウス様が玉座に戻られれば万事解決なのに、民の中から代表をとか、民主体で他国と渡り合え、なんて酷いじゃないですか。私たちを見捨てていかれるなんて……」


「見捨てない案考えてのこの話し合いなんだけどっ。ちゃんと機能していくように土台造りしようとしてるの今! だいたい俺は死者で、死者が生者の国を治めるのはなにかとおかしいでしょうがっ」


「いいじゃないですか! 死んでるのならこれから死ぬ心配もなくて、後継を考える必要もなくなって良いことずくめです!」


「え待って、死人を扱き使う宣言? 俺の死因過労なのわかってて言うのそれっ?」


「聖獣のお膝元に認められし賢王が永久に統治していくのですか、これはもはやシルヴァニアの安泰は決まったも同然ですな。いやはや羨ましい」


「いや羨むとこじゃないだろ! 俺ある意味魔物落ちみたいなもんだろっ? それが人の国治めちゃってていいわけ……つーかここまで反対意見が出てこないけどどういうこと? まさかの満場一致? そんなわけないよね? おかしいからねっ!?」


「いいじゃないですかおかしくても!」


「まあシルヴァニアが変わってるのは昔から聞き及んでおりますからな、今更ひとつやふたつまた増えたところで──」


「だからって、いくらなんでも限度ってものがあるだろーっ!!」


 自国の人々や他国の訪問者に賑々しく囲まれ、頂きに祭り上げられていく死者(設定上)の王。


 こうしてまたひとつシルヴァニアは変わり者国度を上げていくが、皆広い心で受け入れていたという────。


「ところでラディウス王は俺と言われるのですね。今が素なのでしょうか? 距離が縮まった感じがして嬉しいです。これからもよろしくお願い致しますね」


「いや帰れっ!」






 ※ ※ ※


「なんか変な感じに落ち着いちまったなー? 本来はもーちょい険悪な仲になる予定だったよな。で早めに出てくってさ」


「そうダな……まさか死者を迎エ入れるとは思ワなかった」


「それだけ人望ある王だったということか、それともなんだかんだ付き合いがいいところに付け入られてるのか……なんにせよ、これでは出立は先延ばしだな」


「だな。ま、あいつも本気では嫌がってねーみてーだしいーんじゃねえか。オレらにとってもここは馴染みのとこのひとつだしな」


「…そウなのだガ………少々騒がしくテな」


「あー…まあ、そこはがんばれや」


「ふむ、ユキ(子姫)が姫寄りの才覚で良かったな、イオニス。でなければこうして隠れておれなかったろう」


「……ム」


「馬鹿フィアード。劣化種から生まれた子がコウと同等なわけねーだろ」


「アーロ…お主、それを言ったらコウに沈められるぞ……?」


「っ!? なんでだ、ヒメの事を悪く言った覚えはねーぞっ?! それにヒメは面白いしキライじゃねーっ! つーかヒメは同生の契りだかして力はコウ並に強くなったろーよっ!? もう劣化種ニンゲンじゃねーだろ!!」


「……それはそれでフォローのつもりなのか?」


「そノ辺で止めておかなイと後が怖いぞアーロ」


「なんでだっ、オレはヒメキライじゃねーって言ってんじゃねーかっ!!」


 聖獣の配下たちの集いの場のひとつであるシルヴァニアの屋上。

 普段は静かなそこであるが、フィアードにより結界を張られているとはいえ、この日はまれにみる騒がしい場となるのであった。




そしてちょっと離れた位置に居た、シェルとミリアとルイの談。


「あーらら、ヒト相手にもオドして懐かせるの(いつも故意ではないが)有効なんだねー。コウってばほんとタラシー」


「だあって私たち(もちろん魔物含む)が真っ先に挙げるコウの格好良い瞬間No.1よ? 落ちないわけがない! 普段は普段で悪くないけど、やっぱあの見下す感じ? 場を支配しちゃった感じ? もう最っ高だもの!」


「へええそうなんだ、僕も居合わせてみたかった。……にしても父さんが聖獣の使いだったなんて。配下並みに聖獣にすごく近い立場っぽいのに、なんで聖獣と話しないって言ってたんだろ」


「まあでもウソではないしねーソレ」


「……嘘じゃない?」


「コウは親い人相手には嘘は言わないのよ、ルイ。まあ言葉も足りないからそうとられがちだけどね。もちろん、ちゃんと聞けば答えるなり言えないなり言うんだけど、知らない方が良さげなことは基本自分から口にしないから」


「知らない方が、いいこと……」


「……(不思議とコウが魔物ってことについて冷静だけどさすがに)まあルイが知るタイミングとしては、キミが大人になって一人立ち出来た頃でイイと思うなーボクは。兄弟としてアドバイスするよー」


「一人立ち……兄弟? シェルさんと、僕が?」


「血はツナがってないけど僕もコウに育てて貰ったから、コウがイチオウの親っていうか? だと、兄弟でしょ?」


「育てて貰った……どのくらい?」


「どのくらいっていうか、コウが7歳の時からずっとイッショだねー。まあ向こうが空行っちゃったりボクも修行してみたりして二年くらい離れてたこともあったケド、あとはわりとイッショ」


「………(僕より)長い」


「ン? ……あれ、なんかルイが怖いぞ?」


「あらあら、ふふ。私にも覚えがあるわねーそれ。シェルと私どっちが大事なのってコウに何度も聞いたものだわ」


「おゥ、嫉妬ってヤツ? …コウの子にまでされちゃうの」


「そんな素振り無かったけど……やっぱり片親だけってのも寂しい思いをさせてしまってたのかしら」


それからのシェルはルイに学力や力比べの勝負を事あるごとに挑まれることになったとか。



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