病んでるオレ
騎士になって3年目。
オレは王宮に引き続き勤めていた。
研修を波乱万丈で過ごしたオレの心には冷たい汚れた淀みが燻っていた。
「ジュノ様。わたくし例え今の身分を捨ててでも貴方についていきたい」
「かわいいアーシア。オレは貴族じゃありません。オレについてきても貴女を不幸にするだけだ」
愛をささやくのはこれで何人目だろう。
どうせ相手の令嬢だって本気じゃない。恋愛ごっこに興じて不幸に酔っているだけだ。
「アーシア…口づけていいだろうか?せめて貴女の唇を心の糧としたい」
「ジュノ様…」
唇と唇を重ねる行為には慣れた。
だけど、前世の記憶がこれは同性同士だと忌避感を訴えるのには慣れない。
オレは「安全で安心な恋愛ごっこの相手」として貴族令嬢の中で知らないものはいなくなっていた。
前世の忌避感からキスより先に進めないからだ。
令嬢達はオレ相手にひとときのまがい物の恋の感情に酔う。
そしてオレのこころはそういった恋愛を重ねれば重ねる程冷えていった。
「貴方の事、お父様に話しをしたの。決して悪くはしないわ」
「テレジア。君にそんなマネをさせてしまってすまない。オレはなんてふがいない男なんだ」
おあいこだ。政略結婚が普通の令嬢達はある意味、「恋愛」に飢えているしオレはオレでそれでいい思いができる。
「この間の懸案の件、前進したぞ。ゴーグ子爵をどう説得したんだ?」
「ふふっ。秘密ですよ」
「…色事で汚い手を使いやがって」
研修中、騎士団では見習いからも見下され軽く扱われていたが、今のオレを軽く扱うやつはいない。
「使える手は使う主義でね」
オレは腐って、淀んで病んで汚い男に成り下がった。
「酷いわ。愛してるって言ったじゃない!」
「この女を連れて行け、賊の間諜だ」
そうして自分では気がつかないままやりすぎたのだ。