オレと生家と騎士団2
「くっそー。今まで放置だった癖して今頃なんで口だしてきやがるんだよ」
オレだけ罰ゲームな王宮騎士団での研修。
事情を聞いてみたら単純な理由だった。
オレの遺伝学上の父親はレグロスの領主で侯爵とかいうふざけた地位にいる。
オレは庶子なんで分家に養子に出されたのだが、ここで「貴族のつとめ」とかいう奴にひっかかった。
本家では、二人の弟とひとりの姉がいる。
本妻さんはこの弟達を溺愛しているらしいとかで、この「貴族のつとめ」に応じなかった。
おりしも西ガルバトス諸国連合のマルティネ国侵略と、世はきなくさい世情の中、万が一にでも世継ぎもその控えも、戦争に借り出されるのはごめんだと、よりによってオレをそこに押し込んできたのだ。
「栄進になるからいいよね?庶民相手の騎士より各上ですもの」
みたいな本妻さんの手紙を見せられてオレはキレるよりも脱力した。
「勝手なことぬかしやがる。オレ、貴族としての礼儀作法とか習ってねーし」
王宮に勤める騎士は貴族子弟が殆どで、少年のうちから見習いとして騎士団ですごす。
つまり人間関係から何やら出来上がっているところに庶民のオレがつっこまれた訳で。
「くそぉ。いつか泣かしてやる」
オレが泣きながら誓った。
庶民としての生活しかしてこなかったオレに当然貴族社会からのアタリはキツい。
騎士団の先輩方も見習い騎士も、用事があって話さなくてはならない侍女さんとかも貴族子女な訳で、当然相手にされない訳で、オレは転生してからはじめて枕を濡らす夜を幾晩も過ごす事になった。
こうとなったらオレのチャラい容姿もマイナスに働く訳で。
まだ何もしてないうちから、どこそこの侍女を口説いていただとか町娘が宿舎まで押しかけてきただとか
ある事ない事噂され、あげ足を取られた。
思えば、俺は転生してから「チャラピンクになってやる!」と思い上がっていたかもしれない。
TS転生して変わったと思っても中身は非モテのボッチお局のままだったんだ。
他人の機微に疎く、その場にあった振る舞いが出来ないオレ。
すぐに図に乗って調子にのって足をすくわれるオレ。
なんて滑稽でみじめなんだ。
知り合いも親しい者もひとりもいない中でオレはだんだん心に闇を抱えるようになった。
1年目は周囲にふりまわされるだけだった。
だけど前世でもボッチだったオレだ。
オレの反骨心がこのままになってやるもんかと、それだけを支えにふんばった。
2年目になると季節を一巡りした事によって経験がつき、今までわからなかった事も予想がつくようになり対応ができるようになった。
「どうです。うまくやっていますか?貴方は侯爵家の看板を背負っているのです。あとに続く弟達のために立派に役にたつのですよ」
何もしてくれなかった癖に!オレを捨てた癖に!
あるパーティの警備に立っていたオレに気がついて、本妻が嫌そうにオレに話を振ってきた。
その頃になるとオレは虫も殺さなさそうな人のよい笑みを浮かべつつ、どす黒い思いを浮かべられるようになっていた。
「ええ。マダム。義姉上も今日はまた格段とお美しい」
毒の沼からふつふつと湧いてくるような黒い考えを抱きつつ、表面は凪いだ湖面もかくやという静かな表情で対応する。
オレは確実に病んでいた。