オレと生家と騎士団
「えー。君達は5000人の中から選ばれた精鋭なわけであるからして…」
オレはおえらいさんのありがたい薫陶にあくびをかみ殺した。
今年、騎士に任命されたのはわずか20人。
オレは最短の3年で騎士になれたが4年5年と訓練所に待機するものもいると聞く。
金がいくらあっても足らないよな。
戦争も災害もここ数年はないので、騎士に空きが出ないのが原因だが、こんなに少なくていいのかね?
いざとなったら若い騎士がひとにぎりで後は老騎士ばっかりで使えないとかないよね?
やべぇ。上官のロケッツ指導教官長補佐に見つかったみたいで睨まれた。
オレは幼馴染のありがたい枷のせいで入団してから常にトップ10内の成績を保ち続けた。
思ったよりチャラエロ先生であるガードナーとの鍛錬はためになったらしく剣はもちろん体術でも一回りでかい先輩とも互角にやりあえた。
無意識に「身体強化」を使っていたらしい事を指摘され、驚く事になるがそれでも勝てなかったアルトって一体…。
とはいえ騎士より強い冒険者とかゴロゴロいるこの世の中では順当なものかもしれない。
勉強らしい勉強はしてこなかったオレだが、自主勉強してきた内容も役にたったし、前世では「ガリ子さん」という不名誉な仇名をもらった事のあるオレだ。
問題ない。
しっかしロクな称号もらってないよな、前世のオレ。
「えー。この後は王都へ移動し研修として2年。その後は希望地に配属となる訳ですがー。この王都で身を持ち崩す新人騎士が毎年一定数いる事は嘆かわしい事であるー」
そこでまたキラっと目を光らせ、ロケッツ指導教官長補佐がオレを見た。
へいへいへい。昨日今日人間やってる訳じゃないんで、大丈夫ですよ。
前世と合わせたら貴方より年上なんで睨むのやめてくださいよね?
オレにしたらこの3年は女っ気のない味気ないものだった。
刺繍もきれいなレースも無駄毛の手入れもひとまず諦めてすごす事のなんと辛かった事よ。
幸い胸毛は生えなかったがちょっと油断すると鼻の下や顎がピンクになるってどういう事?
未だに脇の下のピンクの繁みには慣れやしないよ…。
とか感慨にふけってる間にありがたいお話は終わったようで式典は無事終了したようだ。
この後、すぐにオレ達は5台の馬車に分乗して王都の研修先の騎士団におしこめられ…失礼、配備されるのだ。
しかし前世でも思ったのだが どうして男って座る時に足をおっぴろげて座るんだろうね?
オレは肩幅に揃えている位だが明らかに他のメンバーは足を大きく外側に向けている。
内腿の筋肉、鍛えたりないんじゃないかな?
「「「ジュノ~~。寂しくなるわぁ!こっちに戻ってきたら必ず顔を見せてねぇ~」」」
黄色い声があがり、オレは馬車の窓から顔をだし、オレのファンの女の子達に手をふる。
定職についてなかったオレは故郷ではアレな扱いだったが、レブロスでは将来有望な騎士候補のお婿さん候補だ。
さっき女っ気がなかったって言ったけど、いやぁモテたモテた。
個別におつきあいする暇がなかっただけで。
オレのふるまいに同乗の諸氏は渋い顔をしている。
開げた足で激しく貧乏ゆすりまではじめる始末。
「いやぁ~。女の子のお見送りっていいもんだねぇ」
わかって煽っちゃうオレも大概。
むさくるしい他の連中と違って柑橘系のフレグランスをいつも漂わせ、優しい物腰で対応するオレに
女の子達は目をハートにして夢中になり、いろんな差し入れをしてくれた。
養父母に金銭で余分に負担をかけたくなかったオレはありがたくファンからの貢物を活用させてもらった。
感謝に耐えない。
よくいく飯屋の女の子からはサービスランチを。
騎士用の装備品を扱う商家のおくさんからは、いい銘の剣を。
下着や靴下を取り扱うお店のおねえさんからは上等な肌着を。
本当に助かった。
みんな、イイコ達で大好きだ。
王都に行くにはビレッツォと城下都市グランを結ぶ白の街道に出て西に7日ほどを進む。
オレ達はその旅路で西ガルバトス諸国連合が何回かめのマルティネ国への侵略をはじめたという情報を拾った。
マルティネ国とグラーシア国の境界を流れる大河のローレアナ川がある限り、オレ達の国には影響のない話なのだが、なんだかあまりよい幸先とは感じられない。
気のせいか同乗者の顔色もすぐれない。
「うーー。腰がいてぇ」
7日の間には夜間訓練もあったりしてけっこうな強行軍だった。
城下都市グランについた時には腰が皆、ばっきばきになっていた。
休む間もなく整列させられ、移動先が告げられる。
一人、また一人と移動先へ迎えにきた先輩騎士に連れられて減っていくのだがオレだけなかなか呼ばれない。
「あー。ジュノ・アルダス。お前は王宮へ行ってもらう」
「はいいいいい??????」
何故なんでこうなった?
オレだけしちめんどくさい貴族子息の巣窟の王宮での研修って一体どういう事?