お隣の国が大変な事に…
オレは一人,黄昏てラドトス城の庭に出ていた。
背後のテラスから続くホールには老若男女が集まり、飲み、踊り、笑いさざめいている。
そろいもそろって着飾って、感情のこもらない笑顔を振りまいて、
空虚な言葉遊びに興じている。
まったくもって貴族らしい連中だ。
オレはマネできないけどな。
勇者も聖女も神官も敵対国のお姫さんもその騎士も可哀そうに、取り囲まれて珍獣扱いだ。
「よぅ。こういうのは窮屈でいけねぇな。」
山と料理を取り分けた皿を持ってオレの隣に座ったのは戦士のドランだ。
「お前さん、こういうの慣れてるんじゃないか?騎士様?」
「警邏で参加した数は多い方だと思うけど。自国のでなきゃ、わざわざお愛想振りまく気にもなりゃしない」
「はっはっはははは。まぁ違いねぇ」
「あんたも自分の国のだったら、こんなところに逃げてこないだろ?」
「んー。普段、俺は戦ってるか鍛えてるかの二択だからな。本国でもこの手のに参加した数は片手で足りる」
西ガルバトス諸国連合は大小の国々が集まり、議会制を取っている。
だからなのか結束を固めるために、常にどこかと戦争をしているという印象がある。
共通の敵がいるというのは、内部の国同士のいい接着剤のような役目になっているのだろう。
血の気の多い、まだ若い国だ。
だからこいつも、今は気さくに話をしているが、こいつの言葉や態度を額面通りに受け取っていては危険だ。
心をひとつにして魔王討伐だ?
腹の中は探り合いで忙しいのに。
今までだってずっとひとつになんてなった事がなんだからおかしいよな。
「なぁ、あれ、やばいんじゃないか?」
ドランが顎でしゃくった方を見ればひとりの令嬢が数人の令嬢に取り囲まれて怯えているように見える。
「よせよせ。王宮は女同士の戦場だからな。下手に口出しするとこっちが大やけどくうぞ」
「ふーん。そういうものか?お?終わったか?」
一人の令嬢が残され、今まで取り巻いていた方の令嬢達が去っていく。
「こんな人目につきかねない場所だ滅多な事にはならないだろうよ」
悔しそうに令嬢達を見送った残った方の令嬢の動きが何かおかしい。
自然とそちらに目がすいよせられる。
その亜麻色の髪の令嬢はキッと去って行った令嬢の方を睨んでいたが、どこからか取り出した瓶を頭の上に振りかぶって、そして何かの中の液体を自らの身体にぶちまけた。
「「え?」」
オレとドランの口からまぬけな声が出た。
さらにその令嬢は両手を握りこんで力を溜めていたかと思うと。
…自分から倒れた!
花壇に突っ込む形で盛大に!
「「ええ?」」
「何やっとるんだあの令嬢は」
オレ達が目を剥いて驚いていると続いて悲鳴があがる。
「きゃぁっ!」
次に悲鳴をあげて蹲る令嬢。
オレはとっさにドランをひっぱり柱の影に隠れた。
「あ!おい」
「しっ!」
そこへ悲鳴を聞きつけて駆けつける警邏中の騎士達。
「大丈夫ですか?何かあったのですか?」
「わたしっあのっ。ううううぅぅ」
なんだよ、この茶番は。
「巻き込まれるのも面倒だ。このまま立ち去ろう」
オレは奥義「見なかったふり」を発動させた。
「おおぅ」
ドランも戸惑いつつも後ろを振り返りつつ、オレの後ろをついてきている。
オレこの旅が終わったら田舎で平和にくらすんだ。




