好敵手?いや気にいらねぇんだよ!
ふぅ、やっとラドトスの土を踏めたよ。
魔法使いの姿を見ないなーと思ってたら絶賛船酔い中だったらしい。
すまん。はっきり言って忘れていた。
船から降りるのにシンシアちゃんの手をひいていたらまた視線を感じた。
姫さん涙目でこっちを見てたよ。
しかも何故かアルトの身体の影に隠れてるし、お付きの騎士が困惑してるよ。
「アルト殿。すまない…」
「たいして邪魔ではないが…なんだ?ジュノに用か?」
昨日の一件を知らないアルトには気の毒だけど、ガツンと言ってやった効果はあったようだ。
涙目でふるふる首をふる様子はなんかちょっとだけ可愛いじゃないか。
もう、アレはほっておこう。
「日に焼けるからこれをかぶって」
シンシアちゃんにかぶせたのはエルフの工芸品のうすいベールだ。
ちゃんとUV加工してあるからね、日差しの強いこの時間帯はしっかり日よけをしないとね。
これは発案がオレでエルフ達が開発したものだ。
ちゃっかりこれで宣伝をしてやるさ。
聖女ちゃんの宣伝効果、凄そうだしね?
オレのアルダス商会への恩返しはこういう形でしかできないから。
しっかしエルフ達の森の恵みに対しての知識は頭が下がるねぇ。
魔物の素材からUV効果のあるものを探し出してきたんだから。
接岸する前からも見えていたが、対岸の船着き場には銀色の美しい光を放つ集団がいた。
磨かれて手入れされた騎士達の鎧が太陽の光を浴びてまぶしいっての。
オレの玉の肌に反射光を浴びせてきやがった。
どうやらラドトス側の出迎えらしい。
神官のロベルトと王女付きの騎士が、出迎えたラドトスの王子の歓迎の言葉に何か言っている。
こいつが斥候に枷をつけた一味の一人か。
斥候と魔法使いは膝をついて臣下の礼を取ってはいるが、その胸中は穏やかじゃないだろう。
任務の失敗にはどんなペナルティが課せられるかわからないし、人質に取られている方の安否も気になるだろう。
ラドトス側の王子はマルティネ国の王女であるルネには通り一遍の挨拶をしたあとこっちまで歩いてきた。 さすが領土を取った国と取られた国の王族同士、仲は悪いらしい。
「聖女様、勇者様、どうか我らをお救いください」
うやうやしく礼はしているが、心の中で舌を出しているのが見えるようだ。
こいつもなかなか油断のならない相手ぽいな。
「お救いください」って言ってる割にその服装は華美で贅をこらした物だしその髪や肌もよく手入れされ、魔王軍に脅かされているという悲壮感がぜんぜんない。
まぁ、魔王が確認されたのはラドトスの北側にある隣国のマルティネ国であるからまだ他人事なのだろうけど、魔王軍の侵攻具合によってはこの国だってすぐに戦場になるおそれがある。
余裕こいている場合じゃないと思うんだが。
関係のない異世界から女の子を呼びつけ魔王討伐を依頼しておいて、自分達は対岸の火事を決め込んでいるとしたらふざけた奴らだ。
おまえも討伐に参加しろよ。
自分達の世界の存亡を関係のない、異世界の少女におしつけといて、お救い下さいもないもんだ。
オレはすぐにこの王子が嫌いになった。
そうしてこちら側が嫌ってるって事は相手方に伝わるようで。
聖女の手をとり唇を寄せて挨拶をしたあとで、隣にいるオレへと目を止めた。
王子の目が一瞬見開かれ、そして愉悦を含んだ何だかぞわっとくるような色に染まるのをオレは見た。
間違いない。
オレへの宣戦布告だろう。
オレも負けるもんかという気持ちを眼力にこめて王子を見つめる。
王子の目が細められ、口元がかすかに引き上げられた。
よっしゃ!買ったな?今オレの売った喧嘩を買ったな?
「グラーシアからはエルストン殿下が出ると思ったが」
「彼もすばらしい使い手です」
オレの代わりにロベルトが王子と話す。
身分的に言ってオレはここでは口を出せる場ではない。
「嫡子の出陣を王が許さなかったのであろう?グラーシア王は王妃に執心していると聞いている。」
「グラーシアの王夫妻の仲の良さは吟遊詩人の詩にもなる程ですからね。でもここに控えているジュノ・アルダスは勇者と幼馴染でもあります。このように有能な者同士が故郷を同じにするというのも縁を感じますね。きっとお互いに幼い頃から切磋琢磨してきたのでしょう」
「竹馬の友か。たしかに旅の仲間は気心しれた者がいた方が安心だ」
貴族や王族はオレにとってはいけ好かない連中だが、グラーシア王の事は尊敬している。
側妃だの後宮だのが一般的な王族事情なこの世の中で、グラーシアの王だけが一夫一婦制を貫いているからだ。
噂によるとあのちょっと怖い王妃に王がべたぼれらしいとの事だ。
反対にラドトス王には8人の妻がいて王子だけでも7人もいるそうだ。
それなのに魔王討伐には一人も王子を出していないし、出してきたのは人質をとった斥候と魔法使いだけだ。
何やら業の深さを感じる。
実力のない王族がメンバーになったらそれはそれでやりにくいのだが。
「どうぞ、わが父が歓迎の宴を準備しております。城で旅の疲れをおとりください」
キラーンと白い歯を見せて恰好よく馬を操って王子は去っていった。
これから討伐だってのに呑気に宴会だと?????
はっきり言って気にくわネェ!
ムカムカモヤモヤした気持ちで見送ってると聖女ちゃんがオレの眉間に指をあててきた。
「ジュノ―。縦皺~~」
表情に出ちゃうなんてオレらしくねぇ。
オレはただのチャラピンクなんだ。
もっと飄々と、自分の感情は、自分の中だけに周囲に気取られず。
それがオレじゃないか。
キャーという歓声があがったので見てみると、おねーさん達が勇者パーティの男どもに群がっていた。
ロベルトは険しく、アルトは困った風に、ぱっとみてヤニさがってる仲間はいなかったが、これもあの王子…いやこの国のおもてなし?
「騎士様、旅のお話を聞かせてください」
オレにも話しかけてきた女がいたが、シンシアちゃんがくっついているので遠慮がちだった。
まだ、たいして旅してねーよ!
あれ、なんなん?




