TS騎士と姫2
「よーしアルト!魚釣りしようぜ!」
「お前、本当に緊張感ないな」
「だって1時間も船に乗ってるんだぜ?ただ乗ってるだけってつまんねーだろ!勝負だ!」
対岸のラドトス国まで1時間。やる事ないしねー。
いわくつきの淵や浅瀬を避けて川を上りながらいくのでそのくらいかかるらしいんだよね。
「オレが勝ったら次の手紙代出せよー。アルトは?」
「また髪を洗ってくれ」
「そんなんでいいの?」
アルトはオレが促さないと手紙をしたためない。
アルトのとーちゃんも筆まめな方じゃないんでほっとくとお互いの安否を気遣いつつもすれ違うなんて事がままある。
血のつながらない関係のオレん家はともかく、父ひとり子ひとりのアルトのとーちゃんを心配させたくはないからなぁ。
勇者なんてものにアルトに選ばれてからは心労が絶えないだろうしよ。
「じゃじゃーん!ドワーフの釣り道具!」
オレが取り出したのは仲のよいドワーフの兄ちゃんからもらった釣り道具だ。
ドワーフにだってちゃんと青年期ってあるって知ってた?
生まれてすぐに髭面のおっさん顔になる訳じゃないんだからね!
「今日こそ勝つぞ」
オレの言葉にフッっと笑い、船頭さんから銛を借りて構えるアルト。
アルトは釣り道具を使わない。
遮光レンズもしてないのに、陸から目で水中の魚を狙って銛で魚を突くんだよねぇ。
どんな視力してんだろ。
おおアルトの目がハンターの目に。
オレだってやるときゃやるからね!負けない!
結果として惨敗。
あいつ川の中の魚が見えてるとかどんなチートだよ。
それぞれなかなかの釣果をあげたので、船上でさばいて切り身にする。
ごはんとわさび醤油で食べたいところだが、ここにいるメンバーにはなじみがないだろうから
カルパッチョにする。
白ワインとカルパッチョとチーズをのせたパンでちょっとした間食としゃれこむ。
うまー。
アルトとオレとシンシアとで舌鼓を打っていると、戦士と神官のロベルトが加わった。
そーそー。
ひとつ鍋をつつくって訳じゃないけど同じ物を食べると距離が縮まるよねー。
あまりの好評ぶりにまた開催しようとアルトと約束した。
そして斥候の奴が見張り付きの軟禁状態なので、差し入れをしてやろうという話になった。
「よー。マティアス、差し入れだぞ」
差し入れを持っていくとマティアスが号泣しちゃったよ。
なんでもオレ達を裏切っていた事がずっと辛かったんだってさー。
まぁでも未遂だったしさ?
脅されてしたことだしさ?
なんかじーんと来ちゃったまま、マティアスの部屋から出てきたところで、個室から出てきた王女様とかち合った。
王女様は身分が高いので、下々の者と慣れ合わないってスタンスらしい。
オレ達と打ち解ける気配が見えないんだよねぇ。
「食べ物で味方を作ろうっていうの? 仲良しこよしが好きな貴方らしいわね」
かちーん来ましたわ。
いや、後で考えたらそんなに怒る場面じゃなかったけどさ。
勇者パーティに選出されたのに人質をとられてやりたくない仕事させられてって斥候君の事考えてたからさ、なんか王女の言い方がね?イラっと来たしカチーンと来たというか。
王族とか貴族って勝手な奴らでさ。
自分には甘いけどその他の者の事を同じ血の流れている人間だって思ってないフシがあるんだよねぇ。
つい、ちょっと前にシンシアと話しをした時の「ガツンと言ってやる」が頭に残ってて、そーする気になっちゃったんだよね。
ダン!
気がついたら両手をついて壁に追い詰めちゃっていたよ。
「貴女は母国では身分ある立場なのでしょうが、身分が貴いのであって貴女自身が貴いんじゃない。
魔物の跋扈する地ではただの女だ。男を舐めて煽っていると…こうやって反撃されかねませんよ」
顔を寄せ低い声で囁いてやる。
こうすれば気の強い彼女がどうするかは読める。
続いて飛んできた蹴りを軽くいなせば、悔しそうな表情の彼女。
「貴女の騎士は本気を出して貴女の相手をしていないのでしょうね。手加減されているのに気がつかないとは憐れだな」
他でもない彼女が言っていたのだ。
オレは目が笑っていないと。
微笑みの形を引っ込めてしまったオレの表情はさぞかし酷薄に見えるだろうね。
怯えたような顔をしてずるずると座り込んでしまった王女様を残しオレは立ち去る。
ちょっとムラっとした。
オレってS属性なのかな?
身体は男だからなー。
綺麗な女の子に密着して、しかも泣きべそ顔みたらちょっと興奮した。
ま、それが続かないから女の子とうまくいかないんだけどさ。
王女付きの騎士が戻る前にさっさとここを離れとこうか。




