TS騎士と姫
斥候のマティアスが魔王出現時に国の間で結ばれる不戦、不可侵の協定を無視こいて、グラーシアの機密を母国ラドトスに持ち込もうとした事件は未遂に終わった。
まぁこれについては変に騒ぎ立てれば「魔王討伐」事態が振り出しに戻っちゃうので、大人の解決という手段を取る事になったのだが。
ラドトスの王族というのは、斥候の仕事をさせるのに逃げられないように人質を取ったり弱みを握ったり、結構な人でなしのようであると言う事がわかった。
ラドトスの権力者の紐つきという立場は斥候君にあまりいい影響を与えなさそうだが、「勇者パーティ」に影響がないのであれば、このまま斥候君は討伐メンバー参加続行という立場になった。
ただし監視つきだが。
オレらも何とかしてやりたいのは山々だが、余所の国の事だしどうしようもない。
ましてや他国の王族が関係している事だ。
出来る事など皆無だろう。
マルティネ国の王女のルネならラドトスに対して多少は影響力もあるのかもしれないが、そもそも魔王が出現する寸前までマルティネ、ラドトス、西ガルバトス諸国連合は三つ巴の領地争いをしていた事からして期待できる物もあるまい。
話は変わって、斥候君の事件の直後に、魔物の襲撃を受けてはじめて「勇者パーティ」として戦ったのだが感じは悪くない。
何回もいうけどさすが「その分野での最高峰の人達」と言われているだけあって普段はあんなに協調性がない癖によくまぁ戦闘の連携取れていたと思う。
見てるだけのオレが何故か、一番のボスのとどめを刺す事になったのが腑に落ちないが、まぁアルトが関わった事にオレが巻き込まれる事なんて今にはじまった事じゃないし諦めよう。
オレのメインの仕事はあくまでシンシアちゃんが気持ちよーく聖女のお仕事が出来るようにすること。
で、魔王討伐が終わったら一緒に王族殴って帰るんだ…って残念な事にオレこっちの世界の生まれだったわ。
まぁ殴るは冗談にしても、シンシアちゃんを元の世界に返してあげて、オレはもう王宮勤めをしなくてもいい権利をもらって田舎で詰所勤務するんだ。
たまに町はずれに出る、弱っちい魔物を駆逐するだけの簡単なお仕事をしてのんびり過ごしたい。
あれ?王宮での出来事を思い出したら目に雨が…。
晴天なのにオカシイネ。
とか回想にふけってる内に新しい船の用意が出来たようで。
というか、普通に民間人が乗るはずだったのを「勇者パーティ」が割り込んで借り上げちゃったんだけどね。
ごめんね~悪く思わないでね。
関所で随分順番待ったろうに。
割り込んじゃってごめんなさい。
「さっさを運んで頂戴」
ルネ王女が何故かプリプリ怒りながら荷物を運ぶようにオレに命令する。
おつきの騎士は…と探すと今回魔物の犠牲になった船頭さんの代わりの人と話をしている。
ああ新しい船頭さんが共通語がしゃべれないんで通訳に借り出されちゃったのか。
荷夫もいるのにこの扱い。
オレの身分は貴族の下っ端で安定らしい。
あいつ我儘で嫌いー。
ちょうどシンシアちゃんのために日避けを用意してあげていた所なのに。
「なぁに、あれ。感じ悪ぅぅぃ」
シンシアちゃんが口を尖らせてオレのために怒ってくれている。
王女のオレにだけ対する態度が悪化中な中、本当に君は癒しだよ。
まぁ貴族連中に嫌われるのは今にはじまった事じゃないけどさ。
「感じ悪いよねー」
「ねー」
今のオレにはアルトもいるしシンシアという異世界から来た友もいる。
グラーシアの王城で「騎士団長だけが理解者さ」という状態に比べれば、オレの心は平和かもしれない。
「一度ガツンと言ってやったらどうですかー。ジュノの事をなめくさってますよ。あの女」
身分制度のない世界から来たシンシアにかかれば一国の姫もただの『あの女』扱い。
そこに痛快さを感じるが、それはここだけの会話にしないとね。
「でも、まぁ腐っても姫だしなー」
「腐ってもって」
今の会話にツボな所があったらしい、シンシアが笑ってる。
この子といると本当に楽しいわー。
でも一度は姫のあの鼻っ柱を折ってやるのもいいかもしれない。
マルティネ国では王女様でも、国から一歩外に出たらそういうのが通用しない事もある事を教えてやらないとね。
この女性蔑視社会が普通のこの世界で、あの調子で生意気いってたら反感買う事もあるよね?
つまりは姫のためって訳だ。
オレって超やさすぃー。
さーてどうやってお灸すえてやろーか?




