とりあえず自分の事を「俺」と呼ぶ事からはじめよう
ボッチで寂しいおひとり様街道まっすぐなお局様だった自分に後悔はない。
一応社会人をやっていたし、仕事の上でのお付き合いは普通に見えるようにこなしてはいた。
そう、私は女優よ!(身体は男子のものだが)
仮面をかぶるの!目指せイケてる男子!
顔はいいのだから、結婚できなかったのではなく、結婚しなかったで通せるはず!
(結婚は顔のいい悪いでするものではない事に気がついていない。これは前世での容姿コンプレックスが原因のようだ)
そう、私は今日からチャラエロピンクの紳士になるの!
女の子なら誰もが恋のお相手として憧れるような!
(キャラ設定がぶれすぎ。チャラエロは恋の相手としては忌避される場合もある事に気が付いていない。そもそも紳士とチャラエロは両立するとも思えない)
あれ?おかしいな
脳内にお花畑が広がっているような気がする。
落ち着こう。落ち着こう。
深呼吸
深呼吸
スーーハー
僕はジュノ。アルダス商会の夫婦の元に養子として引き取られた男子だ。
うーーん
違う。なんかチャラピンクっぽくない。
『おれ』、『俺』って思い切って自分のことそう呼んじゃうかなー。その方が男子っぽいよね?
そうそう、どうひっくり返ったって女子の身体にはなれないんだもの。
立派な男子になるしかないじゃない。
覚悟を決めるのよ。
あ、鏡!
いやだ私ったらすんごい内股で歩いてるじゃない。
カマっぽいよ。カマだよ。
いや前世では※おかまさん好きだったけどさー
(※前世でボッチで友人もいなかったのでオカマバーに行って愚痴をはきまくっていた。オカマバーのマスターを親友と呼ぶようなイタイ子だった。マスターはお客様を無碍にできなかっただけ、憐れである)
よーしちょっとだけガニ股で歩いてみよう。
以前テレビで宝塚の男役の人が男性に見えるように歩き方を練習するために股にアレに見立てた物を挟んで練習したって言ってたよなぁ。
マネしてみよう。
うひゃーー!筋肉つるつる。
ずーっと女の子歩きしてたから、この歩き方って難しいや。
ケツが突っ張る感じするわー
こりゃ筋肉つけないとどうしようもないな。
男の子ってどうして※身体が固いのかと思っていたけど、なるほどー歩くことひとつとっても女子とは違う筋肉使うんだなー。
(※実際のリアル男子にふれた経験ではありません。親戚の子どもを預かった時の経験です)
どうしよう下半身を鍛えようとすると上半身も鍛えないとバランス悪くてふらつくなぁ。
よっしゃ。せっかく男子として生まれたんだ筋肉つけて目指せマッチョ!
もう※ジャムの瓶の蓋なんか片手であけるほどになっちゃる。
(※一人暮らししていてジャムの蓋が開かない事ほどがっかりする事はない。ボッチゆえの寂しい現実だ)
自分で鍛えてもいいけど、やっぱりこの世界では魔物もいるくらいだし盗賊もいるよね?
治安も前世の世界ほどよくないだろうし。
うん。最低限自分の身は守れるようにしなくちゃね。
チャラエロピンク紳士は女の子も守れなくちゃ。
「父上!おれ、強くなりたい」
バーン!と食堂の扉を開け飛び込んできた養子であるジュノに、アルダス商会の当主のヨハン・アルダスは飲んでいた紅茶を噴き出した。
「あなた。ジュノがやっと…」
妻のハンナは泪をふいている。
どうやら本家から引き取った養子であるジュノはようやく自分が男子だと知ったようだ。
引き取ったばかりのころは大人しく、女の子の物を好み、女の子のような遊びばかりしていたものだ。
本家も随分変わった子どもを押し付けてきたものだと思っていたが、こちらでの生活にようやく慣れたらしい。
我が出るというのはいいことだ。
「マイク」
「はい」
「うちの商会の用心棒で一人騎士あがりの者がいたな?呼んできてくれないか」
「坊ちゃまに鍛錬を受けさせるのですね?」
「ああ、どうせならちゃんとした型を覚えさせた方がいい。基本は大事だ」
「はい。ただいますぐに申しつけてまいります」
マイクに呼ばれて来た元騎士はリアルチャラエロだった。
女関係で騎士団を辞めたらしい。
「これで騎士団を辞めました」と小指をたてて言ったから間違いない。
「元っつっても本職だったからな。泣き言はいうなよ?」
そして超がつくほどのスパルタだった。
剣も得意のようだが、もっとも得意なのは肉弾戦のようで身体を使った鍛錬にジュノは泣いた。
彼との鍛錬で、内股歩きが矯正されたのはいうまでもない。
油断すると出ている事もまだあるようだが。
「最近のジュノはその辺の男の子とおんなじみたいになっちゃって面白くないわ」
マイクの娘ロジーは唇を尖らせた。
「男の子って汗くさくて泥汚れがついてて乱暴で苦手なのに」
男らしくなろうとしてジュノは鍛錬の先生の行動やしぐさをまるっとマネしていていた。
それこそひよこが親鳥について歩くように。
おしっこの仕方まで彼についてマネした。
「あら、でもジュノはそこら辺の男の子とは違っていい匂いがするし、清潔で綺麗だわ」
ロジーと一緒に遊んでいたリリアが言う。
「でも、一緒に遊んでくれなくなったよ?つまんないね」
ちょっと前までジュノは女の子達にまざってお人形遊びだの刺繍遊びなどして遊んでいた。
刺繍は女の子の嫁入り技能のひとつである。この町の少女は幼い頃から針と糸をもたされていた。
ジュノも女の子達と話しをしながらする刺繍の時間は大好きだ。
ただ今は、鍛錬のせいで疲れてしまっていて、今までのようには出来ないでいるのだ。
さらにジュノは男の子なのに手先が器用で、綺麗好きだ。
爪はいつもピカピカに磨かれているし髪はふわふわのつやつやだ。
何かしているのだろうとロジーは疑っている。
いつかその秘密を聞きだしたいとも。
ロジー・ランコム
アルダス商会所属の敏腕の女商人
おもに女性用のケア製品を扱う事によって、将来王都では有名になる…予定