再会
「待って!ジュノ!お願い」
リズベットが追い縋ってくる。
「貴方を困らすつもりじゃなかったの。そんなつもりじゃ…ごめんなさい…」
この国の最高権力者に準じる存在に告げ口をするという事がどんな事なのか知らなかったリズベット。
「いいよ。気にしないでくれ。リズベット。オレは与えられた使命を果たすだけだから」
優しく微笑めば、明らかにほっとするかつて愛を囁いた人。
人の表面しか見えないリズベット。可哀そうでかわいいリズベット。
お約束だとか暗黙の了解とかわからないリズベット。
オレなんかを相手に本気で恋をしたリズベット。
オレはせめての償いに君の罪悪感をぬぐってやろう。
「宝石はあのあと君の実家に返しておいたから。怒られただろう?ごめんな。もう二度と大事なものを軽々しく人に渡したらだめだよ」
君がくれるって言って押し付けてきた指輪だったからそんなに高価なものだとは知らなかったんだ。
何しろ庶民だからね。宝石の目利きとか出来ないんだ。
「お元気で。リズベット。君の幸せを遠くから祈っているよ」
オレの精いっぱいのお祝いの言葉なのに、何故君はそんなに絶望したような目をするんだい?
願わくば、オレのようなウソツキにこの先は出会わないように祈るよ。
うやうやしくその手を取り、淑女に対するキスを贈る。
さようなら もう二度と会わないよ。リズベット。
「あ、」
「あ」
リズベットと別れてきびすを返せば、
通路に懐かしい顔があった。
君はいつも気配を消したままオレの傍まで来れるんだね。
「本当にお前が勇者なんだな」
「まだ候補だ」
「ふふっ。オレ、勇者パーティに選ばれたよ。『聖女』のお守りだってさ」
「ジュノ…」
「じゃ。オレは行くねアルト。みっともない所を見せちゃったな。仲間としてお前がいれば心強いけど『勇者』って大変なんだろ?一緒に旅に出られるといいなって軽々しく言えないね」
何か言いたげなアルトをその場に残し、オレは討伐の旅に出るための準備に取りかかるためにその日は王宮を下がった。
オレと会うと気まず気だけど何も言わないレブノス領主とその妻であるオレの実父と義母は
討伐メンバーにオレが選ばれたと知って大はしゃぎだった。
今までオレの為に何かをしてくれた事もない癖に、これみよがしに「侯爵家の御威光」とやらをかけた装備を送りつけて来た。
何も知らない癖に。オレは異世界の「聖女」に機嫌よくこの世界を救ってもらうための要員だと知らない癖に。
騎士団からは団長だけがねぎらいの言葉をかけてくれた。
オレってけっこうこの3年間頑張ったんだけどな。
同僚や先輩や見習いは、内心見下していたオレの栄達に不満らしく「また色事で手にいれた立場だろ」って噂してた。
まぁ当たらずとも遠からずなので何も言えないね。
ロジーとリリアからはそれぞれが縫った刺繍入りの肌着とハンカチが届いた。
「乙女の祈り」という加護がついたものだ。
レダからはお守り袋。養父母からは護符つきの籠手。 マイクからはすごく効く傷薬のセットとエルフの扱う織物で作ったマントが届いた。軽くて保温性と通気性がすぐれているという相反する効果のあるレアものだ。
ああ、こんな役目なんて放り出して故郷に帰りたいな。
キイチゴは今年もたわわになっているだろうか。
アルトと採ったギガキシ茸は今年は生えたかな。
野イチゴを食べた小さな子達は口のまわりを真っ赤に染めているだろうか。




