勇者選定
その日に王宮に飛び込んできたニュースは眉唾ものだった。
『西ガルバトス諸国連合とマルティネ国紛争地帯にて魔王の存在を確認』
王宮は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「ふーん。『魔王ねぇ』」
一介の騎士のオレには関係ないね。
「ジュノ様。次のパーティには私をエスコートしてくださらない?」
「オレのような不調法者を連れていると、リズベット、貴女が笑われてしまう」
「いいの。貴方が私のものだって皆に知らしめたいの」
「独占欲かな、困った人だ。オレの心はすでに貴女のものだって言っているのに」
「言葉だけじゃなくて貴方の全てが欲しいの」
おっとこれはアウトだ。 結婚前にそれはいただけないね、リズベット。
「その日は団長から誘われている。なんか内々の会議らしいから抜けられないんだ」
「…。知ってるのよ。貴方は多くの令嬢と恋をしているけれど本当の心は誰にも渡していない。」
このお嬢さんは積極的だ。
結婚相手が冴えない中年らしいから焦ってるのかもしれない。
潮時だな。結婚相手の貴族を本当に敵にまわしてしまう訳にはいけない。
オレとの恋愛ごっこはセーフゾーンだからある意味見逃されている部分もあるのだ。
引き際は弁えないと。
「リズベット。オレの言葉が信じられないのなら、結局はどんな事をしてもオレを信じる事はできないよ」
暗に誘いをはぐらかす。恋愛ごっこの時間は終わりだ。
楽しかったよリズベット。
君がプレゼントしてくれたこの指輪の宝石も君の瞳の色も気にいっていたから。
「君のためだ。もう終わりにしよう」
「ッ!最低!」
君だって貴族じゃないオレをパーティに連れていくと笑われてしまうと暗に認めていたじゃないか。
最低なのはどっちだろうね。
「ジュノ…その頬は…いや何度目だ?」
「さぁ?虫にさされた数をいちいち数えたりしませんので」
「お前なぁ。最近悪さがすぎるぞ。俺も庇えなくなってくるからな」
もう王宮のめぼしい花は一通り愛で終わった。
いい加減にオレをバハロンに、故郷に帰してくれ。
優しい幼馴染のロジーとかわいいリリアと、そして今生ではじめて出来た親友のあいつのいる故郷へ。
オレは泪を流さす微笑みながら泣いていた。
「さて、会議をはじめる。とはいえ上からの通達をお前たちに伝えるだけだが。
…先ごろ発表されて魔王の出現の情報により各国はすべて強制紛争停止状態になり、ただちに勇者選定に入ることとなった」
オレにとってか世界にとってか破滅へのカウントダウンが知らぬ間にはじまっていた。




