お姉ちゃんと魔法のクリスマス
僕のお姉ちゃんは、高校一年生だ。
小学四年生の僕とはとっても仲良しだった。
なのに、最近、あまり、遊んでくれない。
お風呂だって、一緒に入ってくれないし、どうしたんだろう。
ちひろお姉ちゃんは、自分のことを、時々、「JK」と呼ぶ。
「なんのこと?」
って訊いたら、女子高生の略なんだって。なんで略するのか、僕にはよく、わからなかった。
ある日、お母さんが、お姉ちゃんと、「カレシ」について、話していた。
「ちひろもカレシができたのねー」
「カレシとは仲良くやってるの?」
とか、言ってた。
「カレシってなあに?」
って僕が聞くと、お姉ちゃんは赤くなって、
「そんなの、あんたには関係ないでしょ」
だって。僕は、シュンとした。
でも、後から、お母さんがこっそり、教えてくれた。
「カレシは、お姉ちゃんと付き合っている人のことなのよ」
わかったような、よくわからないような。
「あんたにはまだ早いわね」
フフッと、お母さんは笑った。僕は少し、ムッとした。
「つまり、お姉ちゃんとカレシは、結婚するの?」
と僕が聞くと、お母さんはまた笑って、何も答えてくれなかった。
僕はますます、ムッとして、部屋に走って行った。
部屋は、お姉ちゃんと同じ部屋だ。
でも最近、様子がおかしい。僕がドアを開けて中に入ろうとすると、
「ちょっと、ノックぐらいしなさいよね!」
なぜか、お姉ちゃんに怒られた。ショックだった。
お姉ちゃんは、鏡に向かって、髪の毛を、ポニーテールにしようとしていたところだった。
その後も、お姉ちゃんは、鏡を見ながら、ああでもない、こうでもない、と、髪の毛をいじっていた。何だか、悩んでいるようだった。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
と僕が訊くと、
「何でもない」
だって。
さらに僕が、
「でも、なんか、悩みごとじゃないの?」
と訊くと、
「うるさい!」
って怒られてしまった。
後からわかったことなのだけど、この時お姉ちゃんは、デートの髪型が決まらなくて、悩んでいたみたい。
だったら、僕に相談してくれても良かったのに。わからないなあ。
お姉ちゃんは、今日の日曜日も、どこかに出かけて行ってしまった。
カレシと、デートらしい。
僕は、よっぽどお姉ちゃんの後をつけてやろうかと思ったけど、何故かその気がなくなって、やめた。
僕は、つまらなくなった。
お姉ちゃんと一緒に遊んでいた時は、トランプなどをしていたけれど、一人でいる時は、何をしていいかもわからず、マンガを読みふけっていたり、テレビを見たりしていた。それはそれで楽しかったけれど、さみしくもあった。
今日はクリスマス・イブ。お姉ちゃんは、また、どこかに出かけてしまうみたい。
お母さんとお姉ちゃんの会話によると、カレシと過ごすんだって。お姉ちゃん、すっごく楽しみにしているみたいだった。僕は、うまく言えないけど、すっごくつまらなかった。後からわかったことだけど、この気持ちは、嫉妬って言うらしかった。
この日は、お姉ちゃんを除いた家族で、普通の夜を過ごした。
お母さんによると、明日の二十五日、家族みんなが揃ってから、クリスマス・パーティーをしましょうね。と言っていた。それは僕は楽しみだったけど、なんだか複雑な気分だった。
お姉ちゃんは、夜、いつもよりも遅く帰ってきた。門限があるのに、とお母さんに言ったら、
「今日は特別よ」
だって。僕は、ずるいと思った。
お姉ちゃんは、カレシから、プレゼントをもらったようだった。
「何をもらったの?」
と僕が聞いても、なんでか、全然教えてくれなかった。なぜか、恥ずかしそうにしていた。
これもあとから知ったんだけど、カレシからは、イヤリングを、もらったみたいだった。隠さなくたっていいのに。僕には、それがわからなかった。
夜、僕が寝ていると、物音で目が覚めた。寝ぼけた目をうっすら開けると、なぜか、窓の外が明るくなっているのがわかった。
そのうち、窓から、人影がのぞいているのもわかった。お化け?泥棒?僕はいくつものことが頭によぎったが、なぜか、怖くなかった。
僕が寝たふりをしていると、真っ赤な服を着て、真っ赤な帽子をかぶった人が、窓を開けて入ってきた。
サンタさんだ…!
僕は、直感的にそう思った。お姉ちゃんに言おうと、横を見ると、お姉ちゃんはデートで疲れたのか、すやすや眠っていた。僕は、起こすのを、やめた。
そのサンタさんは、白い大きな袋を持っていた。そして、何かを中から取り出して、枕元に置いた。
僕はそのまま、意識が遠くなり、ぐっすりと眠りに落ちてしまった。
翌朝、枕元を見ると、プレゼントの箱があった。お姉ちゃんには、なかったみたいだった。
「いいなー、ひろしは、サンタさんからのプレゼントがあって」
お姉ちゃんは羨ましそうなことを言っていたが、何故か、あまり、残念そうじゃなかった。
僕が箱を開けると、中には、ずっと欲しかったゲーム機が入っていた。僕は、大喜びした。
それを見て、お姉ちゃんが、
「いいなー」
と笑っていた。
お母さんも、
「あらあら、今年は良かったわねー」
だって。
いつものクリスマスもプレゼントはあったけれど、僕が本当に欲しかったのではないものばかりだった。何故か、今年は、お願いがかなったのだ。
この日はクリスマス当日の二十五日。僕とお姉ちゃんは、学校へ行った。
そして、僕が先に帰ってきて、お姉ちゃんが、後から帰ってきた。
今日は、家族全員で過ごす日だ。
その晩だった。
「ひろしー、お風呂に入りなさーい」
と、お母さんの声。
僕がお風呂に入ろうと用意をしていると、お姉ちゃんが、
「たまには、ひろしと一緒に入ろうかな」
と言ってくれた。僕は喜んで、
「うん!」
と返事をした。
制服のままだったお姉ちゃんが、セーラー服と、下着を脱いで、裸になった。
僕も、服を脱いで、裸になった。
久しぶりに見る、お姉ちゃんの裸。久しぶりに見られる、僕の裸。
慣れていたはずなのに、この日は、ちょっぴり恥ずかしかった。
お風呂に入ると、お姉ちゃんが、僕の背中を流してくれた。
「ひろし、大きくなったね」
だって。
だから僕もお礼に、お姉ちゃんの背中を流してあげた。
久しぶりに裸の付き合いをした僕らは、いろいろなことを話した。
僕は、学校でのこととか、休日お姉ちゃんと遊べなくて、寂しく思っていることを言ったりした。
お姉ちゃんは、
「ごめんね」
と笑っていた。
お姉ちゃんは、カレシとのことを、とっても、嬉しそうに話していた。昨日の、クリスマス・イブのデートのことも、教えてくれた。カレシと一緒に映画を見たり、ショッピングに行ったり、食事をしたり、したんだって。
「それって、楽しいの?」
と僕が聞くと、お姉ちゃんは、
「バカねえ」
と大笑いしていた。
「とっても楽しかったよ」
だって。
その後、一緒に湯船に浸かっている時だった。お姉ちゃんが、真面目な顔になって、
「ひろしに話すことがあるの」
と言った。なんだろう?と僕が思っていると、
「昨日ね、あんたのところに、サンタさんが来たでしょ?見た?」
「うん、見ちゃったよ。サンタさんが窓から入ってきて、枕元に、プレゼントを置いてくれたんだ」
僕は、なぜだか嬉しくなって、話した。
するとお姉ちゃんが、
「あれね、私のかけた魔法なの」
よく、わからなかった。お姉ちゃんが、続ける。
「私の魔法で、サンタさんに、あんたのところに、来てもらったの。そして、あんたの欲しがってた、プレゼントを、出してもらったの」
僕は、最初、裸のお姉ちゃんが言うことが信じられなかったが、何故か、すぐに、信じてしまった。
「そうだったんだね、あれ」
「あんた、信じてくれたの?」
「うん。お姉ちゃんが魔法使えるってことも、信じるよ」
「でも、お母さんとお父さんには内緒だよ。絶対」
「うん。わかった」
「よかった。ありがとう」
お姉ちゃんは、何故か僕に感謝していた。
二人で一緒にお風呂から出ると、僕らはパジャマを着た。
そして、リビングに向かった。
今日は、家族のクリスマス・パーティーだ。
テーブルには、クリスマスのごちそう。
大人たちはシャンパン、僕とお姉ちゃんは、シャンメリーを飲んだ。
何故かその日以来、僕とお姉ちゃんは、魔法の話をしていない。中学生になった今となっては、お姉ちゃんの魔法が本当だったかは、わからないし、聞けずにいる。
ただ、お姉ちゃんとは、相変わらず、一緒に遊んでいないのは変わらない。
僕がお風呂に入ろうとすると、大学生になったお姉ちゃんが、声をかけてきた。
「ねえ、久しぶりに、ひろしと一緒にお風呂に入ろうかな♪」
「勘弁してくれ!」
僕は、拒否ったが、まんざらでもなかった。