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放課後ふたたび

作者: 森下青海

時間は放課後、場所は化学実験室。普段人気のないこの場所に、俺こと冬木秋彦はいた。双眼鏡を片手に。


もう十分ほど、ある一点を凝視している。すると、背後から声が掛けられた。


「おい冬木、お前こんなとこで何してる?しかも双眼鏡片手に」


振り返ると五十がらみのオッサン、もとい化学教師千金楽龍蔵が立っていた。


「先生うっす。覗きですよ」


「双眼鏡を寄越せ」


「へいよ。プール裏の焼却炉」


「あん?なんだおい。あれは菅原に吉永、赤井と…笹井か?」


「誰だかは知らんが人数は合ってる」


「どう見ても笹井が因縁つけられてるようにしか見えんな。仕方ない、ちょっと遊んでやるか」


「さっすがチェケラ先生。イカしてるせ。そこに痺れる憧れるー」


「ぬかせ。乳臭いガキどもが将来困らない為の教育だ、バカタレ」


そう言うとチェケラ先生は足早に出ていった。そしてすぐに校内放送が流れる。


『えー2年4組の菅原、吉永、赤井、直ちに職員室まで来なさい。焼却炉脇でのことは目視済みだ。三人がかりで一人に因縁つけるとはやるな!逃げたら明日の全校集会で問いただすからな。三分間待ってやる。さっさと来い』


うーん、さすが変態教師。やることが1ラジアン上を行くぜ。おお、三人衆が血相変えて走っていく。


おっと、笹井がこっちに気付いたようだ。双眼鏡覗きながら手を振ってやる。


何か叫んでいるようだが、当然聞こえない。しかしまあ、まだ足が痛むようだから迎えに行ってやるか。



「よう、なかなか面白い生活を送っているようだな」


「何バカなこと言ってるのよ。信じられない!」


「そうか、まだ足が痛むだろうから来たんだが…必要なさそうだな。じゃあな」


「先輩ちょっと待ってよ!ごめんなさい、私が悪かったわ!」


「ふむそうか。なら仕方ない。とりあえず移動するか」



「ほら入れ」


「お、お邪魔します…」


連れてきたのは何の変哲もない空き部屋、もとい部室である。そこで中にいた人物から声を掛けられる。


「冬木、あんたが女連れとは珍しい。どういう風の吹き回しだ?」


「倫理的見地から保護した野生のセジウィックだ。気軽にマニュファクチュアと呼んでやってくれ」


「誰が大脱走の製造屋よ!」


「いやあジェームズ・コバーンはなかなか渋かったな。個人的にはあの飄々とした感じが好きだ」


「ええ、確かにそれはそうだけど…って違うわよ!」


「ははは、そうかそうか。冬木が連れてくるわけだ。くくく、なかなかじゃないか、冬木」


俺と笹井のやり取りを見ていた某女子が可笑しそうに笑う。


「初めまして。私は文芸部部長の野田朱里だ。以後お見知りおきを」


「わ、私は笹井夏紀です。初めまして」


野田の自己紹介に笹井も答える。ご丁寧にお辞儀までしている。


「まあ、立ち話もなんだ。どうぞ掛けてくれ。今お茶を出そう。冬木、君も座りたまえ」

「あ、お手伝いします」


「野田がああ言っている。座っておけ。それにお前足が痛むだろう」


「でも…」


「ま、気にすんなや」



「先輩って文芸部だったんですね。意外です」


学校からの帰り道。文芸部でダベっていたら下校時刻になったので、こうして帰路についている。


笹井と野田はすぐに打ち解けたようで、昨日の一件も含めていろいろと話していた。俺は本を読んでいたのでスルーしていたが。


「まあ書くのはアレだが、読むのは好きだからな」

「へぇ〜何読むんですか?」


「ランチェスターの法則」


「何ですかそれ?」


「ググれカス」


「なっ!?」


絶句したようだ。うむ、こいつのリアクションはいちいち面白いな。


「何てこと言うのよ!バカ!信じられない!」


「まあ気にするな。カルシウム足りてるか?」


「原因は先輩です!」


「むつかしいな」


影法師が長く延びる。ザ・夕暮れ時だ。


そろそろ笹井の家に着くところで、彼女が口を開いた。


「ねぇ、先輩」


「なんだ?」


「連絡先、教えてくれない?」


「なんだ、それならタウンページにいろいろ載ってるぞ」


「違うわよ!先輩の連絡先!電番とかメアドとか」


「ああ、そっちか。今メモってやる」


ポケットからペンとメモを取りだし、電番を書いて渡してやる。


「ありがとう先輩。あとでいろいろ送るから」


「へいへい」


「あと、それと、なんだけど…」


「なんだ?」


「足が良くなったらでいいんだけど…あの、その」


「わかった。いいだろう」


「へ?」


固まる笹井。意味が理解出来なかったようだ。


「だから、どっか行きたいんだろ。付き合ってやるよ」


赤くなってる。可愛い奴め。


「も、もう!知らない!じゃあね先輩!」


赤面しながら家に這入る笹井を見ながら、さてどこへ行くことになるのやら、と嬉しくも嘆息する俺であった。

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