表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/76

28話 ビレルワンディ街道分岐点

先頭文がコピペされてませんでした……

そのまま5日ほど過ぎた。


 だいたい旅とはそんなものなのだが、自分の足で歩いたりするのとは違い、馬車に揺られるばかりというのは、これはこれで結構しんどい。


 丘陵地帯を逆戻りして、アートル経由帝都の旅程は、馬車にするとおよそ2週間程度。

 5日目の今日は、それでもまだ半分も消化していない。

 ただレオン軍団、もとい親衛隊の行軍スピードを思えば、12日間程度で到達するかも知れない。

 一応、レオンに聞くと、13日だと言われた。そこまで急いでないので、アートル遺跡近くの街、ビレルワンディで一泊するらしい。


 ビレルワンディの街は俺も知っている。そもそも女になる前、アートルに挑む為に一月ほど拠点として暮らしたのはそう遠い昔の話では無いし、帝都からテラベラン、カクラワンガの街道上分岐点にあるこの街は何かと便利な場所にあり、それ以前にも何度か訪れたことがあるからだ。

 あと1日で到着するという。暇を託つ俺たちにとっても、楽しみなことではある。


 この5日間、何も無かったのか、といえばそんなことは無い。

 毎日パルミラは真面目にルーパートと勝負していたようだったが、その成果といえばそこはよく分からない。とりあえずルーパートとの実力差がありすぎて、パルミラが強いのか弱いのか、いまいち判断しにくい。

 ただ、少なくとも今の俺よりは強いのはわかる。前の俺でも油断すれば負けるかもしれない、ぐらいは思う。

 とにかくパルミラはそんな感じで努力していて、最近は暇だ暇だと言い続けたあげく、昨日はレオンの馬に乗ってご満悦だった。俺もアイラもついでなので乗せて貰ったが。


 では残された俺たちは一体何をしていたのかというと、殆どなにもしていない。

 アイラはアイラで、少しの焦燥感を感じていたようだが、向こうに着いたら頑張る的な事を言って今は何もしていない。

 まぁ、彼女はメイドになるなどと言っていたので、確かに今は何もすることは無いだろう。言ってみれば雌伏の時とも言える。


 俺は俺で、特に何もすることはなかった。

 一応、一度は剣をパルミラに借りてルーパートに挑んだものの瞬殺された。もちろん、元の体でもルーパートに勝てる目算は全くないのだが、なにしろ体が動かないのだ。

 力が無く、それに伴って早さが足りない。短く軽いパルミラの剣でも体が泳いでしまう。

 その辺り、パルミラは反動を利用しながら動くスタイルでカバーしているようだったが、もともと剣を使っていた俺は、逆にその経験が邪魔をして、まともに剣を振ることが出来ない。力に頼っていた部分が多すぎた。

 じゃあ、新しい戦闘スタイルを学んでいくのかといえば、それはそれで難しそうな気がする。正直、剣を持って強くなるというイメージが、今は全然わかない。


 では、魔法は。

 こっちはより、今の自分にとって現実的ではあった。ただ、肝心のアイリンに会えない。

 魔法を使えるようになっておく、というのは先々を見越せば必要な気もする。ただ、それ以前に、もっと魔法について聞いておきたい。それはこの体の謎に迫る話になるだろうとも思う。

 以前にアイリンに魔法の話を聞きはしているものの、思い出すと実際は全く不十分な事に気付く。アイリンは教えたつもりなのかもしれないが、肝心なところは全然だ。

 なので、ここ数日アイリンを探していたのだが、どこにも居ない。仕方なくレオンに聞くのはアレなので、食事のジーク君に聞いたら、


 「そういえば居ないですね。第一小隊と一緒に先に帰っちゃったのかもしれません」


 いや、ジーク君、そういうことは前に編成を聞いた時言って欲しかったよ。

 というか、第一小隊も居なかったのか。全然気付かなかった。そういえばバイドも全然見ていない。


 そんな理由で、俺も何もしなかった。あえて言い訳すると、したいのに出来ないアイラを気遣って、付き合っているだけだ。嘘だが。


 馬車に揺られながら、あまり代わり映えしない景色をなんとなくぼーっと眺める毎日だ。丘陵地帯の景色は案外いいのだが、それが毎日続くとなると、やはり膿んでくる。

 天気でも変わればまた違う感じになるのだろうが、あいにく毎日、高い空の秋晴れだった。


 唯一違ったといえば、件のゴブリンに襲われた地点を通過したときだっただろうか。

 街道上で襲われて、馬車もそこにあったはずなのだが、親衛隊がそうしたのか、それら残骸は道の端に堆く積み上げられていた。殆どバラバラになったり、燃え滓のようになっていたりして、それらが元は馬車だったなどとは、最早わからない。ところどころに車輪らしき破片があって、それで辛うじて分かる程度だった。

 その時間、小休止でもなければ大休止でもなかったので、特に何事も無かったように通過する。俺たちも馬車の窓からそれを眺めるだけで、特に何も言う言葉も無く視界から消えていくそれらを見送った。


 ただ、俺は砕けた馬車の近くに、二つの土盛りと立てられた石を見た。それは、多分、墓だった。そしてその数から、俺は助けられなかったあの二人なのだろうと、推測した。

 口には出さず、心の中で二人に詫びる。そして二人のために、短く祈った。

 きっと、親衛隊がそうしてくれたのだろう。感謝したい。

 とはいえ、それを夕食の席でレオンに尋ねたり、言葉にするような事はしなかった。


 ビレルワンディに到着したのは、そこから三日後。テラベランを発して六日目の午後だった。






 ビレルワンディの街は、テラベランに比べると、かなり小さい。

 ただ、それでも中規模程度の大きさはあり、一応街外周を、低いながらも壁が取り囲む。

 この辺りになると、これまでの丘陵地帯は終わり、低い山間の平地という場所になる。この先、山を二つほど超えていけば帝都に到着なわけだ。

 前にも言ったとおり、この街は、街道分岐点上にあり、その利便性の高さから主に宿場街として栄えている。

 また簡易的な交易ポイントという側面もあるため、ある程度、商業も盛んだ。更に言えば、街道分岐点にある以上、戦略的位置づけとしてもそれなりに重要であり、帝国軍の一部が常に駐屯している。

 その一方で、そこまでの立地でありながら、中規模都市程度で終わっているのは、それなりに理由がある。


 この都市から繋がる各都市が大きすぎるのが原因だった。

 北に港湾都市テラベラン。東には、要塞都市カクラワンガ。そして南には帝国最大都市、帝都グラナダス。それらの立地や、役割の方がここビレルワンディを遙かに上回っているせいだ。その為、戦略や交易点としては中途半端な存在になってしまっている。

 それでも、かつては街の西に広がるアートル遺跡群のお膝元の都市として栄えたこともあったが、遺跡群が枯れた事に伴い、規模が徐々に縮小し、今の規模に落ち着いたという歴史がある。


 ただ、その関係上、この街にある冒険者ギルドは古く、そして大きい。帝国では最大だと言われている冒険者ギルドが、衰退したこの街に何故存在するのかというと、歴史もそうだが、国家に属さない冒険者ギルドという性質上、中規模の街にある方が、何かと政治的な問題になりにくいという事情にある。


 とはいえ、とりあえず軍にまみれた俺たちだ。冒険者ギルドはおろか、宿場街もあまり関係は無い。

 そのまま街に入るわけではなく、街の北側に回り込み、そこから帝国軍駐屯地へと直接入る。懐かしいとか思ったのは、外からだけだった。街にすら入っていない。


 「本日はこちらに泊まります。まだ先はあるのですが、とりあえずお疲れ様でした」


 などと、レオンが案内したのは、駐屯地内にある割と立派な建屋の一室だった。流石に個室などということは無いが、思った以上に豪華ではある。


 「うわー、ありがとうございます」


 ずっと寝泊まり馬車の中だったせいか、アイラが心底嬉しそうにはしゃいでいる。

 一方で、俺は別の事を考えていた。

 個室じゃ無いということは、朝、恒例だったレオンが来ないということだろう。

 実のところ、レオンにはもっといろいろな事を聞く必要がある。結局、『クリス』の事もあれ以降何も聞いていない。


 そうした話は、出来れば二人きりで話したかった。

 そうかというと、あの夜そうしたように、河原に呼び出すのもかなり躊躇われた。あの時の微妙な雰囲気を思い出すに、正直に言えば次は何されるんだなどと、かなり不安がある。そのせいで、結局今の今まで、その辺りが何も聞けていない。

 まあ、まだいいか……。

 とりあえず自分をそう言って誤魔化す。個人的には、『今日やらない者は明日もやらない』などというモットーを掲げていて、かなりそれに抵触しているのだが、実際帝都まではまだまだ距離もあるし、その間はどうせ暇なのでどこかで機会もあるだろと思うことにする。


 「夕食にはまた呼びに来ますが、街には出ないようにお願いします」


 なんで?

 と言う間もなく、レオンはどこかに行ってしまった。夕食までとか言われても、未だ結構な時間があるような気がする。

 部屋を横切って、窓を開ける。

 部屋は、屋敷とも、兵舎ともいえる建屋の三階で、そこからは街の様子が一目で見えた。


 「わー、良い眺めですねえ」


 後ろからついて来た、アイラが感嘆の声を漏らす。横からパルミラも顔を出して、同じような顔をした。


 一望する街の様子は、それなりに日が傾いている今でも、結構な数の馬車が行き来している。街道分岐点あるだけあって、街を縦断する通りはかなり大きく取られていて、そこを移動する馬車がここからでもはっきり見えた。ともすればそこを歩く人すらも。


 結構、活気がある街だと言える。規模は小さくとも、南には帝都があり、そこへ、或いはそこからの隊商が多く立ち寄るのだろう。

 街の中心に目を移すと、そこに三階建て程度の比較的大きな建物がある。地味で古そうな外観のそれは、冒険者ギルドだ。出来れば、この街に居る間に寄っておきたい。そこはレオン次第になるだろうが。


 「あれはなに?」


 パルミラが指さす方向を見ると、街の外に広がる、黄土色に染まった石の迷宮が見えた。ここからだと見えにくいが、迷宮と言ってもそう思えるだけで、実際は半壊した街だったりする。

 なので地上部分は、実際あまり重要では無い。

 冒険者的には、その地下に広がる迷宮の方で有名だった。何のために作られたのかさっぱりわからないが、迷宮の数は現在確認されているだけでも12本が存在し、そのうちの1本は俺が見つけたあの迷宮になる。多分、それがすべての筈だ。


 「あれがアートル遺跡群だ」


 言いながらも、俺は自分でも分かるぐらい複雑な顔になる。


 「あ、それって、お姉様が」


 「そうだ」


 よく覚えてたなアイラ。ただ、良い思い出の無いそれに、俺はすぐさま肯定して、話を終わらせる。

 あの遺跡群の、名前もわからない12番目の迷宮。

 その中で、俺は女になり、そこを出てすぐに奴隷商人に捕まった。奴隷商人に捕まった時、俺はかなり前後不覚だったからどの辺りだったかは定かでは無い。

 ただ、気になるのは、やはり12番目の迷宮の現状だった。


 そこに、もしかすると、今でも俺の元の体があるのかもしれない。


 正直、考えるのを避け続けていたが、その可能性が高いだろうと思う。

 そして特に保存されていなければ、きっと既に朽ちているだろう……。だとするならば、もう俺は元の体に戻れない。

 ただ、そうでない可能性もある。なんらかの原因で、俺の体が保存されている可能性だ。その何らかはさっぱり想像も出来ないが、そもそも憑依したなどという話ですら、かなり突拍子もないので、そんな話はあり得ないと言い切れない。

 そして、今はその可能性を信じるしか無い。

 だからこそ、冒険者ギルドで情報を得たかったのだが。


 そこで確認したいのは、二つ。

 一つ目が、12番目の迷宮の存在を知っているかどうか。

 もう一つが、知っているなら、そこで遺体を発見しなかったか、だ。

 12番目の迷宮は、俺が発見し、誰にも言わず俺だけが潜った。だから、ひょっとすると今を持ってギルドは迷宮数11だと思っている可能性がある。この場合は、そこで話が終わる。

 ただ、知っているならば、きっと既にギルドが冒険者に探索依頼を出しているはずだ。

 そのタイミングにも依るが、既にあの日から結構な日付が経っている。

 少なくとも一回は踏破しきられている迷宮の再探索は、そこまで時間がかかるとは思えない。そして中で発見されるのは、もし、そこにあるならば、不自然に財宝にまみれた、一つの死体だけのはずだ。

 そして、それが発見されていないのなら、まだ俺は戻れる可能性がある……。


 一方で、もっと簡単な方法はある。

 自分で12番迷宮に潜って直接確認することだ。


 そう、出来れば行ってこの目で確かめたい。

 ただそれは、今の俺には無理だった。レオンに頼ってもいいが、何となく、真実がぼやけてしまいそうな気もする。

 今を持って、確実にレオンは何かを隠しているだけに。


 そこまで考えると、結構いてもたってもいられなくなってきた。

 レオン次第などと言ったものの、行程13日なのであれば、単純に計算して、ここを起つのは明日の筈。要するに、今日しかチャンスは無い。


 「アイラ、パルミラ」


 窓からギルドを見ながら、二人に声をかける。


 「……街へ行ってみないか?」


 そして二人の返事を待たず、俺はそう提案した。

そろそろ地図ぐらい書いても良い気がしてきました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ