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F病棟の奇妙な住人達  作者: 麻香
1/7

FNo.1 203号室 リノン

この作品はTwitterの診断『奇病患者F病棟』の診断の結果を使用しています。

私のフォロワーさんに許可を得て参加していただき、診断結果のキャラクターを元にして物語を作っています。

各話の主要キャラクターをあとがきにて、元となった診断結果を掲載しています。

ここでの暮らしは別に悪いわけじゃない。

やたらと検査多いけど、お金目的で襲われる事もないし。

ここに来る前は夜でも髪色が目立つから、なかなか隠れられなくてさぁ。

あぁ、かけっこする?自信あるんだ、ワタシ。

だからここから脱出する気も全然ない。その気になったらまた考えるでしょ。

そういえばワタシどうやってここに来たんだっけ?……まぁいいや。

それに結構面白い人たちもいるし、楽しいよ。



ワタシの朝は日が昇ったとき、窓から差し込む朝日を浴びて背伸びをする。

カサカサという音が背中から聞こえる。

今日も相変わらず重たい背中を触ろうとしたら、指からぷつりと朱が流れた。

「……やっば」

はむっと口にくわえて舐めとったその味はちゃんと鉄の味がする。

「この調子だと、もうすぐかなぁ…アレ痛いから嫌なのに」

ワタシの背中から生えているのは天然で最も堅い鉱物、ダイヤモンド。

背中に反射した光が狭い部屋の中を包む。


皆が憧れる輝きを背負う少女が部屋を出ると、部屋に差す日の光も冷たく感じた。



「あー!……おーもーたーいー!!」

ワタシはいつも食堂で食事をとるようにしてる。

一人で食べたって楽しくないからね。

足をばたばたさせながら机に突っ伏すとガシャガシャと派手に石のこすれる音がした。

「おい!静かにしろリノン。食事中だろ!?」

「カルネの方がうるさいよ、一回で良いからこの重さを君が味わえば良いんだ」

向かいにいたカルネの皿には花が盛られている。この間、あんまりにもおいしそうに食べるもんだからつまみ食いしたんだけど、おなか壊したんだよなぁ。すごい怒られたし。

「誰のおかげでその重たい翼をどうにか出来ると思ってる。全く恩知らずだな」

「はいはい、それには感謝してますよー」

そう言って目の前の花を眺めながらワタシは自分の食事に口をつけた。

「どうせ、俺のところに来たのはその用事なんだろ?」

「そうそう、さすがはカルファーネさん察しが早くて助かるよ」

「そんなあからさまに意思表示されたら、誰でも予想が出来ると思うけどな」


「えっ?リノンさん、また翼堕としちゃうんですか」

上から柔らかい声が聞こえたのでそちらを向くとしょんぼりした表情の少女がリノンの隣に座る。

「やぁ、おはよう櫻。もうだいぶ大きくなってきたからね」

「でも、堕とすのに痛みを伴うのでしょう?」

「重たいのもずっと肩凝るからね、それくらいは我慢できるよ。だから、そんな悲しい顔しないで…櫻が笑ってる方がワタシは好きだなぁ」

君が悲しんだら、君も辛いだろうし。

「まぁ、ふふっ。でも、リノンさんの翼はとても綺麗ですし、少し残念です」

「それは大丈夫だよ、すぐまた生えてくるし」

そんな、なんてことない会話を今日もしながら朝食を皆で食べていた。


昼下がり、いつもは棟内を探検するのが日課だけど、今日は用事がある。

「お邪魔するよ、カルネ」

「あぁ、お目当てのモノは用意しておいたぞ」

そう言って小さな長細い小箱をリノンに差し出した。

「……いつもごめんよ」

「何を謝る必要があるんだ?」

「だって、ワタシのために食事制限してるんでしょ?」

「こういうのはお互い様だ、そんなどうでもいい話誰から聞いた?」

「うーん…じぶんのお腹かなぁ…」

はぁ?とカルネは素っ頓狂な声を上げる。

いつも真面目な彼がこんな表情をするのはある意味貴重だなぁ…。

「本当にありがとう、カルネ。君のおかげでワタシはまだ生きてられる」

そう言うと照れた彼が俯きながら小さく、あぁと応えた。


部屋に帰ると、カルネから貰った小箱を開ける。そこにはやや黒みがかった赤い液体が入っていた。たぷん、と試験管の中で揺れる液体を眺めるリノンは大きくため息をつく。

「こんなにたくさん…カルネ、大丈夫かな?」

足りなかったらまた言えって言ってたけど、前回と比べて明らかに量増えてるじゃん。

そんなことを思いながら少女は試験管の中身を飲み干した。



この翼は定期的に堕とさないと大変なことになる。自分の身体お構いなしでどんどん伸びるもんだから、最終的に身動きがとれないほど重くなってしまうんだ。

ワタシの翼がどうやって堕ちるか簡単に言うと、ダイヤモンドをブルーダイヤに変化させると堕ちる。

これはここに来る前から知ってる事で、いつだか誰かに毒を盛られて背中のダイヤが青く染まった時、翼が背中から突然堕ちたんだ。

ブルーダイヤはダイヤモンドより価値があるらしいがワタシとしてはどうでも良かった。

ブルーダイヤはホウ素が不純物として混入して出来る。たぶん、その毒もホウ素の一種だったんだろう。

ホウ素は植物にとっては栄養にもなるらしい。この病棟には、花だけしか食べられない病の人たちがいる、カルネもその一人だ。

彼らは大量のホウ素を取り込んでも耐性があるから、ワタシみたいに食べても苦しむ事はない。

そして、幸いなことに彼らの血に含まれているホウ素にならワタシにも耐性あることがわかった。

もともとその前から、自力で何回か翼を堕としてたから少し耐性があったのだろう。それを見つけてくれたのもカルネだったんだけど。

彼はそれからホウ素を多く取り込んだ花を食してる、さっきの食事制限はこのことだ。

栄養を多く含んだ花は美味しいらしいのだが、それでも最近やり過ぎな気がしていた。



背中に何かがしみ出ている感覚。そろそろか、とリノンは下唇を噛んだ。

ピキピキという堅いモノにひびが入る音、割れるはずのない鉱物が端の方から崩れていく。

今までの重荷を全て下ろすように、翼を堕としていく。

それは開放感を心に満たし、痛みを身体に植え付ける代償行為。

堕ちる破片が身体をかする、翼の生えている部分から血があふれ出す。


「……明日は貧血でずっとは外に出てられないかなぁ。やだなぁ」

そうやって、さらしを巻く。後ろには青く輝く宝石の山、それにつたう赤い血。

…さらし、毎回使い捨てなのもったいないなぁ。

そんなことを思いながら、ベッドに寝っ転がって月を眺める。

「まだ見えてるって事は、今日は早めに終わったのか」

ここは朝日が一番早入って、月が早く昇る場所。

皆に朝を伝えなきゃ、夜を伝えなきゃ。

それはワタシにしか出来ないことだから、ワタシが出来る唯一のことだから。

カルネや他の皆に頼ってばかりじゃいられない。ワタシだって皆に何かしてあげたい。


また、朝日が部屋を包んだ。

軽くなった背中をさすると、指じゃなくて全身に痛みが走る。

足下の破片の血を洗い流し、袋に詰めて部屋を出る。


「さぁ、皆に『おはよう』を言いにいこうか」


皆が嫌う朱を背負った少女が部屋を出ると、部屋に差す日の光が広がる朱を暖かく照らしていた。



リノン【麻香】

 203号室に住む少女の患者。

 美しい銀色の髪と青色の瞳を持つ。

 マイペースな性格で、背中から宝石の結晶が生える病を患っています。

 まだ治る見込みはあります。

 背中から美しい花が生えてくる病の患者に嫌いな人がいます。

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