936 クマさん、ロージナさんにお願いする
ロージナさんは面白いものを見つけたような顔をしてカガリさんに尋ねる。
「それじゃ、長く生きてきた嬢ちゃんに聞きたい。その武器にどんな風に迷いがある?」
「そんなのは分からんよ。ただ、この武器から作った職人の心が伝わってくるだけじゃ。それが一流の職人であればあるほどにな」
カガリさんは剣を鞘に納め、わたしに差し出してくる。
わたしは目を閉じ、感じとろうとするけど、そんなものは伝わってこない。
年の功って奴?
「う~ん、わたしには分からない」
わたしの言葉にカガリさんが笑う。
「武器の扱いは凄いが、まだお子様じゃのう」
幼女にお子様って言われた。
「一流の職人と言ってくれるのは嬉しいが、クマの嬢ちゃん、この子はなんなんだ?」
「えっと」
説明が難しい。
妖狐なんて説明はできない。
大人が子供になったとも言えない。
「妾はカガリじゃ。ただのユナの付き添いじゃ」
わたしが悩んでいるとカガリさんが自分で答える。
ロージナさんは納得していないけど、それ以上は尋ねてこなかった。
「それで、お嬢ちゃんはなにしに来た?」
「武器の相談? ロージナさんでも、誰でもいいんだけど。欲しい武器があって、作れる人がいないか尋ねにきたんだけど」
「武器だと?」
「カガリさん、刀をいい?」
わたしの言いたいことを理解したのか、カガリさんは無言でアイテム袋から刀を取り出し、ロージナさんに差し出す。
それをロージナさんは受け取る。
「これは刀か」
「知っているの?」
「この武器は遠いところの国で作られている武器なんだけど」
「そんなことか」
ロージナさんは笑う。
「商人たちは珍しい武器を手に入れると、この街に売りにくる。それを俺たちが買う。もちろん製法もあれば一緒に買う。もちろん、それだけじゃない。俺たちドワーフの中には他国に行き、そこで見つけた物を送ってくることもある」
つまり、ドワーフのネットワークってこと?
「それじゃ、作れるの?」
「昔に美しさに惚れて作ったことがある。ただ、切れ味は最高だが、横からの衝撃は弱い。相手の剣を横で受け止めようとすれば折れる。そんな武器を好んで買う者はいないから、作るのはやめた」
まあ、買う人がいなければ、作っても意味がない。
「ここの者は武器を扱うのが下手なんじゃのう」
「その土地にあった武器がある。なにより、その武器を扱う方法が分からないと使いようがない」
剣を使うなら剣の扱いを教えてくれる人。
ナイフを使うなら、ナイフの扱いを教えてくれる人。
槍を使うなら、槍の扱いを教えてくれる人。
自己流でなければ、親、友達、師匠、冒険者の先輩、誰かしらから教わるものだ。
フィナの解体をするためのナイフの扱いもゲンツさんに教わったものだ。
ここに刀の扱いを教える者がいなければ、刀を扱う者はいない。
「それに、武器が折れれば終わり、また購入しないといけない。冒険者にとってコスパが悪い」
確かに、折れるたびに買っていたら、出費だけが増える。
お金を稼ぐために依頼を受けているのに、簡単に武器が使い物にならなくなったら、たまったものではない。
丈夫で安いものが好まれる。
わたしだって値段が高くて、壊れやすい武器はほしいとは思わない。
だから、ここでは刀を買う人がいなかったと。
「だが、嬢ちゃんは、その刀を作ってほしいと言うんだな」
「ただの刀じゃないよ。名刀だよ。最高の刀だよ」
普通の刀はいらない。最高の1本が欲しい。
「誰に言っている。俺に作れないわけがないだろう」
「でも、ロージナさん。ブランクがあるでしょう」
いろいろとあって、剣を作るのをやめてしまった。
「そんなもの、毎日、鉄を叩いて無くなった。と言いたいところだが、そのお嬢ちゃんに悩みがあると言われたからな」
「悩みがあるの?」
「……飽きた」
ロージナさんは言いにくそうに答える。
「えっ?」
「飽きた」
ロージナさんはもう一度言う。
「それはあなたのせいでしょう」
黙って話を聞いていたウィオラさんが口を挟んでくる。
「えっと、どういうこと?」
「嬢ちゃんも知っているでしょう。この人がゴルドたちがいなくなって、腑抜けになったことは」
「なんだ。腑抜けって」
「しばらく、仕事をしてなかったでしょう。そのせいでお金が無かった」
ウィオラさんの言葉にロージナさんは口を閉じる。
「でも、調理道具とか、作っていたよね」
剣ではなく、調理道具を売っていた。
「その前は作っていなかったよ。つまり、仕事をしてなかったのよ。そうなると蓄えていたお金は、どうなると思う?」
「なくなっていく」
「ええ、でも、どうにか武器でなく、調理道具などを作って、生計をたてるようになったけど」
「うん、それで」
「昔のようにすぐになんでも買えるようにはならない」
「えっと、つまり」
「高価な鉱石を買う、お金がない」
「…………」
「だから、鉄しか打っていない。他の鉱石なんて買えない。俺は鋼やミスリルが打ちたいんだ!」
「それは、あなたが長い間、仕事をサボっていたからでしょう」
ウィオラさんがロージナさんの後頭部を叩く。
なんでも、そうだけど。
働かずにお金が増えるのは一部の人間だけだ。
わたしみたいな株や投資などをして増やす人もいるけど、普通の人は働かなければ、貯金は減る。
お金がなければ、物を買うことができない。
つまり、ロージナさんは価格が高い鋼やミスリルを買うお金がないと。
「くだらない悩みじゃのう」
それには同意だ。
「嬢ちゃんになにが分かる。鉄しか打てない俺の気持ちが」
「分からんのう」
カガリさんはキッパリ言う。
なにかロージナさんが可愛そうなので手助けをする。
「つまり、カガリさんなら安酒しか飲めないってことだね」
「……!?」
カガリさんの顔が、衝撃を受けた顔になる。
「それは辛い。悲しいことじゃ」
なんだかな。
「それじゃ、わたしがお金を出すから、好きなだけ鋼でもミスリルでも買って。いや、ミスリルなら、わたしが持っているから譲ってもいいし」
「…………嬢ちゃん、なにを言っているんだ?」
「とにかく、買いに行こう」
わたしはロージナさんの手を掴む。
「待て、俺の話を聞け!」
「ウィオラさん、店のことはお願いしますね」
わたしはロージナさんの言葉を無視して、店をでる。
観念したのか、手を離し、横を歩く。
「嬢ちゃんに買ってもらう義理はないぞ」
「ゴルドさんとガザルさんにはお世話になっているから」
「それは弟子であって、俺には関係ないだろう」
まあ、友達の親ぐらいの距離感だ。
友達の親がお金に困っているからといって、貸したりはしない。まして、欲しい物を買ってあげるなんて、普通ではあり得ない。
「さっきも言ったけど、刀を作ってほしいから」
「それだけか?」
「あと、カガリさんのお願いも聞いてくれたら嬉しいかな」
「そっちの嬢ちゃんの?」
ロージナさんがカガリさんを見る。
「なるほど、そういうことか」
カガリさんも理解したみたいだ。
「実は、カガリさん、お酒を買いにきたんだけど。美味しいお酒を売っている店を紹介してほしい」
「そんなことか。父親にでも頼まれたのか?」
「できれば試飲ができると嬉しい」
「試飲? 誰がするんだ? まさか嬢ちゃんがするのか?」
ロージナさんはカガリさんではなく、わたしを見る。
「わたしじゃないよ」
ギリギリわたしなら、飲めると思ったのかもしれない。
「それじゃ、誰が」
「妾じゃ」
カガリさんの言葉にロージナさんが信じられないといったように、わたしとカガリさんを交互に見る。
「いや、子供に飲ませるわけにはいかないだろう」
「一口でいい」
ロージナさんは困った顔をする。
「なんなら、刀を作るとき、アドバイスもできるぞ」
「そうなの?」
今度はわたしが驚く。
「まあ、お主が刀を欲しいと思ったと同じように、当時の妾も鍛冶屋には出向いたからのう」
「それなら、その鍛冶屋に嬢ちゃんの刀も作ってもらえばいいのでは?」
「その鍛冶職人は亡くなったよ」
カガリさんの言葉にロージナさんは微妙な顔になる。
「すまない」
「もう、昔のことじゃ。気にするな」
昔って、遙か昔だよね。
そんなことを知る由もないロージナさんは申し訳なさそうな顔をしている。
「酒の件は頼んでみるが、あてにするなよ」
「助かる」
カガリさんは嬉しそうな顔をする。
試飲って大切なんだね。
わたしも複数のジュースがあったら、試飲をして美味しかったジュースを購入したいと思う。
そして、周囲の視線を受けながら鉄鉱石を売っている場所にやってくる。
鉱山近くにあり、少し遠かった。
鉱山で掘った鉱石を加工するのは、ここが便利とのこと。
一応、店の近くにも加工した鉄を売っている店があるらしいけど、少し割高になるから、ここまで買いにきているとのこと。
多少、割高になっても、気にしなかったのにと言ったら、「お金は大切だ」と言われてしまった。
少し、言葉には気をつけよう。
フィナの前でも同じことを言ったら、叱られそうだ。
いくらお金があっても、無駄金はよくない。
安く購入できるなら、安いほうがいい。
「だが、嬢ちゃんに買ってもらうのは、気が引けるんだが」
「今回の刀を作ってくれる代金でいいよ」
「それとこれは別だろう」
「それじゃ、お金が増えたら、弟子でもとって技術を伝えて。ロージナさんの技術は大切なものだよ」
「嬢ちゃんは変わり者だな」
「それには同意じゃな」
なぜか、カガリさんが頷いている。
納得がいかないんだけど。
ロージナさんに作ってもらえることになりました。
お酒の試飲もできるかも?
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