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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、海に行く
96/903

92 クマさん、クラーケンを討伐に行く

 翌日、討伐の方法も考え、その許可を貰いに冒険者ギルドに向かう。

 昨日と同じように冒険者ギルドの職員が忙しく、動き回っている。

 その仕事の半分が商業ギルドの仕事なのがおかしいところだ。

 でも、指示を出しているのがアトラさんなのだが、商業ギルドの職員もちゃんと働いている。

 忙しそうにしているアトラさんを見つけて、話しかける。


「ユナ、どうしたの?」

「ちょっと、相談? お願い? 頼みたいことがあって」

「何かしら。ユナの頼みだったら、何でも聞くけど」


 もし、わたしが男だったら『何でも』って言葉に反応するんだろうな。

 そんなことを考えているとアトラさんが近づいてくる。

 大きな胸が顔に近づく。

 そんなに大きな胸を押し付けないでください。

 羨ましくありませんから。


「誰もいない所でいいかな?」


 わたしは周りを見ながらお願いすると、奥の部屋に通してくれた。


「ちょっと、汚いけど座って」


 書類の山が多く積まれている。

 全部、仕事関係かな。

 昨日から始めたんだよね。もしかして、アトラさん寝ていないのかな。


「それで、お願いってなに?」

「クラーケンと戦おうと思うんだけど、そのことでお願いがあって」

「…………」


 アトラさんの口が開いたままになっている。


「本気?」

「ちょっと、クラーケンを倒す理由ができたので」

「その理由ってなに? 命を懸けるほどなの?」

「大した理由じゃないよ。個人的なことなんで」


 さすがにお米と醤油のためとは言えない。


「はぁ、取り敢えず、お願いごとって、クラーケンを倒すから手を貸してほしいってこと?」

「クラーケンとは、わたし一人で戦うから大丈夫」


 アトラさんはわたしに近づくと、額に手を当てる。


「熱は無いわね。クラーケンって一人で倒せる魔物じゃないのよ。いくらあなたが強くても無理よ。盗賊を討伐したからと言ってクラーケンも出来ると思わない方がいいわよ」


 まあ、ゲームでも一人で倒すような魔物じゃなかった。


「わたしを信じて、と言っても駄目?」

「ちなみに聞くけど、成功率は?」

「指定した場所にクラーケンが現れてくれれば、倒すよ」


 アトラさんがわたしの目をジッと見つめてくる。

 そして、小さく溜め息を吐く。


「……分かったわ。それでわたしは何をすればいいの?」

「盗賊が現れる道に、海に向けて大きな崖が在るよね?」

「ええ」

「その、近辺で戦いたいから、誰も近付けさせないでほしい。あと、その日は危ないから漁はしないでほしいかな」

「あそこの崖で戦うの?」

「クラーケンの大きさは分からないけど、あのぐらいの崖の高さがあれば大丈夫だとおもう」

「どうやって、クラーケンをあそこに呼び寄せるつもり?」


 わたしは餌を何にするか説明をする。


「成功するかは分からないけどね」

「ふふふ、それはそうね。誰もクラーケンを呼び寄せようとは思わないし、やったことはないからね。でも、呼び寄せることに成功しても逃げられる可能性もあるんじゃない?」

「逃がすつもりはないよ」


 崖まで来たらわたしのテリトリーだ。

 狩られる恐ろしさをクラーケンに教えてあげるよ。


「うーん、分かった。3日ほど時間を頂戴。それとウルフの追加もお願いできるかな」


 アトラさんは少し考え、お願いを了承してくれた。

 3日の期間は漁師を船を出さないように説得するため。ウルフは在庫が無くなったとのことらしい。


 住民のことはアトラさんに任せて、わたしは下調べのために崖に向かう。

 昨日も確認したが、クラーケンが現れたら失敗は許されないからね。クラーケンが来ない時は平気だけど。せっかく来たのに失敗したら二度と同じ方法で呼び寄せることができない。

 クラーケンの全長は20m以上から数百mになるって記憶がある。

 海の深さや崖の高さは十分にある。

 あとは、上手くいくことを祈るだけだ。



 翌日、アトラさんが宿にやってくる。


「ユナ、二日後に全ての舟を止めることになったわ。それと、町から出るのも禁止させることにしたから」

「えーと、言っておいてあれだけど早くない?」


 昨日頼んで、今日だ。町の住人に説明をしないといけないだろうし。説得の時間もかかるはずだ。


「海は、漁師の一番偉いお爺さんを説得すればいいだけだし、崖の方は、冒険者ギルドで対処するから平気」

「でも、そのお爺ちゃん。よく海に出ないことを了承したね」


 こういう場合、頑固爺と相場が決まっている。


「まあ、ユナの頼みを断ることができる者はこの町にいないわよ」

「それって――」

「食材の提供、盗賊団の討伐、商業ギルドの横暴を止めてくれたこと。そして、今度は町のためにクラーケンと戦おうとしている」

「商業ギルドはわたしじゃ……」

「食材の提供と盗賊を討伐したおかげで悪事がバレたんだからユナのおかげでしょう。だから、お爺さんも快く船を出すのを止めてくれたわ。それから、お爺さんから伝言ね。『無理はしないでくれ。クマの嬢ちゃんには感謝している。どうやって、あの化け物を倒すのかはわしには分からんが手を貸してほしいときは言ってくれ』だそうよ。あのお爺さんにあそこまで言わせたのは凄いわよ」


 お米のために戦うとは段々と言えなくなってくるんだけど。



 そして、戦いの当日がやってくる。

 朝起きると、宿の部屋から外をみる。

 いい天気で戦い日和だ。

 やっぱり、雨より晴れている方がいい。

 アトラさんが戦いのお膳立てのために頑張ってくれたんだ。雨だから、今日は中止にしますね。とはいえないから、晴れているのは嬉しい。


「嬢ちゃん、今日はどこかに行くのか?」

「散歩に行くよ。それが、どうしたの?」


 デーガさんに尋ねられるが、さすがにクラーケンを倒しに行くとは言えずにそう答える。


「散歩か~。それじゃ、美味しい朝食を作ったから、しっかり食べていくんだぞ」

「デーガさんの食事はいつも美味しいよ」


 本心を言う。


「俺を泣かすな!」


 鼻をすすり、微かに涙目になっている。


「ちゃんと食事を作って待っているから、帰ってくるんだぞ」

「当たり前でしょう。しばらくは、お世話になるよ」


 しつこいぐらいに帰ってくるんだと念を押されて宿を出る。

 宿代でも心配しているのかな。

 町の外の出口に行くとアトラさんを含む、冒険者ギルドの職員が数名いる。


「おはよう」


 みんなに挨拶をする。


「おはよう」


 アトラさんが返事を返してくれると、職員のみんなも返事を返してくれる。


「それじゃ、行ってくるけど、この先には何があっても通しちゃ駄目よ」


 アトラさんが職員に対して指示を出す。

 でも、行くって?


「もしかして、アトラさん、付いてくるの?」

「ええ、もちろんよ。だって、勝てるんでしょう」

「戦えば多分ね」

「なら、問題はないわ」


 わたしたちは町の外に出て、くまゆるとくまきゅうを召喚する。


「この子たちが召喚獣ね」


 召喚獣のことは宿屋が襲われた時に話してあるし、盗賊の時もどうやって見つけたかを報告するときに説明をしている。


「そっちの黒い、くまゆるに乗ってください」

「あら、いいの?」

「早く倒して、のんびりしたいからね」


 わたしはくまきゅうに乗り、2匹はこの先にある崖に向かう。


「ここで戦うのね」

「来なかったら何もできずに終了だけどね」


 わたしはクラーケンを呼び寄せる餌をクマボックスから取り出す。

 出てきたのは数十メートルのワーム。しかも、時間が止まっているため、死にたてのホヤホヤ、まだ、生温かい、新鮮なワームだ。


「本当にこんな物を持っていたのね」

「例の英雄の称号のときにね」

「やっと、納得がいったわ。国王じゃないけど、あなたとは絶対に喧嘩をしたくないわ。わたしとも友人でいてね」

「わたしが大事にしている物を奪い取らなければ、敵になるつもりはないよ」

「了解。気を付けるわ」


 そんな会話をしながら作業を行う。

 氷魔法を使い、ワームの下半身部分に氷を纏わり付かせて、崖の上から海に向けて吊るす。イメージ的に崖の先に大きな氷柱がワームを吊るしている感じになる。

 ワームの体が半分ほど海に浸かる状態にする。

 昔テレビで魚を釣るときに、幼虫を使うのを見たことがある。ワームって幼虫に似ているよね。だから、クラーケンの餌にならないかな~と思ったのだ。

 実際問題、クラーケンは人を喰う肉食。

 なら、ワームを食べてもおかしくはないはず?


 ワームは大きい。その分、匂いも海に広がりやすい。上手くすればこの崖までクラーケンが来てくれる可能性がある。

 もし、来なかったら、くまたちに乗って海の上で戦うしかないけど。そんな闘いはしたくないから、クラーケンが来ることを祈ろう。


 ワームを海に吊るしてから一時間ほど過ぎた。

 気のせいじゃなければ、波が高くなっているような気がする。

 それは気のせいではなく、間違いなく波が高くなっている。

 探知魔法で確認するとクラーケンが近寄っているのが分かった。

 そして、海から細長い触手が飛び出し、ワームに巻きつく。

 氷柱は折れてワームは海に引きずりこまれる。


「ユナ!」

「アトラさんは、下がってください!」


 わたしは土魔法を発動させる。

 イメージをする。

 巨大なクマ、数十mの大きさのクマを。

 海の底から、土でできたクマが何体も出現して、崖を中心に半円を作り。隙間無くクマの壁が完成する。

 久しぶりの巨大な魔法で魔力を大量に消費され、脱力感に襲われる。

 大きさだけでなく、クラーケンに壊されないように強度も強めている。その分、大量に魔力を使っている。

 そのおかげで、クマの壁の中にクラーケンを閉じ込めることができた。

 でも、クラーケンはクマの壁に閉じこめられたことも気づかずにワームを食べようとしている。

 大きなイカだ。

 クラーケンとは大きなタコもイカも示す。

 どちらかと思ったら今回はイカの方だった。


 わたしは大きな無数の炎のクマを作りだし、クラーケンに向けて解き放つ。

 炎のクマはクラーケンに命中し肉体を焼く。

 焦げる臭いが漂ってくる。クラーケンは海に潜り、払い落とす。

 クラーケンはわたしの存在に気付き、触手を伸ばしてくる。ここまで届くの?

 どれほどの大きさか分からないけど、崖に触手を伸ばしてくるほどにクラーケンは大きい。

 触手を躱し、触手に向けて炎を放つ。触手が燃え上がるが、すぐに触手を海の中に引っ込め、消火させる。

 わたしは、次から次へと炎のクマを作り出す。

 クラーケンは海の中に逃げ出そうとするが、クマの壁が邪魔をして逃げ出すことができない。

 海の上に上がってくればわたしが攻撃をする。

 上がってこなくても攻撃をする。

 海水の温度が、炎のクマのお陰で段々と上がっていく。

 クラーケンはもがき苦しむ。何度も何度もクマの壁に向かって体当たりをする。

 魔力を大量に注ぎ込んだクマの壁だ。簡単に壊れてもらっても困る。

 ブクブクと海水が沸騰し始める。

 クラーケンは触手を伸ばし、クマの壁を登ろうとするがわたしがさせない。

 ベアーカッターで触手の先を切り落とす。でも、すぐに再生して触手が伸びる。

 これって、無限に素材取り放題?

 触手限定だけど。

 クラーケンは何度も何度もクマの壁に触手を伸ばす。


 勝負はわたしの魔力が切れる前にクラーケンが力尽きるか、魔力が切れてクラーケンが逃げ出すかになってくる。

 クマの壁、もっと大きくしとけばよかったな。まさか、こんなに大きいなんて思いもしなかった。

 肉体的な戦いは無いから、白クマの服で戦えば良かったんだと、今更ながら思いつく。そうしたら、魔力を回復しながら戦えたのに。

 もし、魔力が無くなりかけたら、白クマの服に着替えるために、ここでストリップショーかな。

 それは嫌だな~。

 アトラさん一人しかいなくても、人前で着替えるのは恥ずかしい。

 でも、クラーケンの討伐と引き換えだったら、やるしかないのかなストリップショー。

 

 炎のクマのお陰で海は沸騰し、辺りは蒸気が立ち上り、海は熱湯風呂のようになっている。そのせいで、周りの温度は上がっている。たぶん、外部の気温は暑いのだろうが、わたしはクマさんの服のお陰で暑くない。

 クラーケンは海が熱いため暴れまくっている。

 崖も一部崩れ落ち、始めの頃とは原形が変わってしまっている。

 わたしはクラーケンにダメージを与えつつ、逃がさないようにする。

 今更ながら、蓋を作れば良かったんだと気付く。

 今から壊れないほどの強化した蓋を作るには残り魔力が心配だ。

 う~ん。即席で考えたから、作戦に穴が多いな。

 今度、戦うことがあったら、気をつけないと。

 そんな、攻防? 一方的に炎のクマを撃ち込んでいるだけが続く。


 クラーケンは触手を伸ばして、一生懸命に逃げようとするが、わたしは逃がさない。

 早く終わってほしいと願う。

 倦怠感が大きくなってきている。

 魔力が無くなり始めているのが分かる。

 これは早着替えのストリップショーかな。

 そう、思った瞬間、クラーケンの動きが鈍くなった。

 触手が上がらなくなり、クマの壁に体当たりをすることも無くなった。

 わたしは攻撃の手を休めて、様子をみる。


 クラーケンは動かなくなる。

 わたしは探知魔法を使い、クラーケンのマークが消えるのを確認する。 

 終わった……。

 わたしは地面に腰を下ろし、寝転ぶ。

 疲れた。

 魔力の使い過ぎで体が怠い。


「ユナ!」


 アトラさんが駆け寄ってくる。

 顔には凄い汗が流れている。

 ここ暑いからね。


「アトラさん。終わったよ」

「本当に死んでいるの?」


 アトラさんは沸騰した海に浮かんでいるクラーケンを見る。

 クラーケンは動かない。

 それに探知魔法で確認したから間違い無い。


「大丈夫、死んでいるから。アトラさん。後は任せていい? ちょっと、さすがに魔法を使い過ぎて、もう動けない。それに怠いし、眠い」


 もう、歩く力も無い。


「ええ、もちろんよ。それと、ありがとうね」


 お米と醤油のためとは言えず、笑顔で返答してみる。

 わたしはくまゆるたちを召喚する。

 するとくまきゅうが近寄ってきて乗りやすくしてくれる。


「ありがとう」


 わたしはくまきゅうにアトラさんはくまゆるに乗って町に戻ってくる。

 町の入り口に戻ると多くの人が集まっていた。


「ギルマス!」


 職員が駆け寄ってくる。

 

「これは何事?」

「ギルマスが向かった先にクラーケンが見えたと報告があって、住人が騒いでいるんです」


 アトラさんは少し悩んでから口を開く。


「クラーケンなら、この子。ユナが倒した」

 

 くまきゅうの上で倒れているわたしを指す。

 ああ、大袈裟にしないでと頼むの忘れていた。

 今のわたしには、そのことをお願いする力も残っていない。

 今は早く宿に戻って寝たい。


「ギルマス、本当ですか」

「ええ、本当よ。信じられないなら見に行けばいいわ。クラーケンの死体があるから」

「危険じゃ?」


 一人の職員が言う。

 それに対してアトラさんは。


「何が危険なの? 盗賊はいない。クラーケンもいない。何が危険なのかしら」

「それは……」

「それよりも、道を空けてくれない? この町を救ってくれた英雄を宿で寝かしてやりたいんだけど」

「ですが、そのクマを町の中に……」


 くまきゅうを見る。


「危険は無いわ。わたしが保証する。それにクラーケンの戦闘で疲れきっている恩人にクマから降りろとはわたしには言えないわ。それを言った者をわたしは軽蔑する」


 アトラさんはこの場にいる全員を眼光だけで黙らせる。

 ギルド職員、住人は道を作る。

 道ができ、わたしを乗せたくまきゅうは宿に向かう。

 宿屋に戻るとデーガさんが叫ぶ。


「嬢ちゃん!」

「大丈夫。少し疲れただけだから、しばらく寝るから起こさないでね」


 くまきゅうは大きな体で宿に入り、狭い階段を上がっていく。その後ろには、くまゆるが付いてくる。部屋の前まで来ると、わたしはくまきゅうから降りてドアを開ける。


「くまきゅう、ありがとうね」


 くまきゅうとくまゆるをこぐまにして、部屋に入る。


「大統領でも総理大臣でも国王でも誰が来ても起こさないでね」


 まだ、昼過ぎなのに疲れている。

 魔力の使いすぎだ。

 脱力感がある。

 頑張って服を脱ぎ、裏返して白くまの服に着替える。

 そのまま、ベッドに倒れると、クマたちが寄り添うようにわたしの横に来てくれる。そんなクマたちにお礼を言いながら眠りに落ちていった。



討伐の答え、ワームを餌にして、クマの形をした土鍋を作って茹でるでした。


次回はイカパーティです。

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[一言] 水魔法で海水を持ち上げ続けるとかではなかったか
[気になる点] 逃がさないための蛸壺っぽいのは想定した 土鍋かw
[良い点] かわいいイカ回
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