933 ジュウベイ、目覚める
襖が開く音で目が覚める。
「起きたのですね」
襖のほうを見ると、桶を持った女性がいた。
女性は安心した表情を浮かべると桶をテーブルの上に置く。
桶には水が入っていたみたいで、水が少しこぼれる。
「体は大丈夫ですか?」
軽く体を動かしてみる。
痛いところはない。
「ああ、大丈夫だ」
「水をお飲みになりますか?」
喉を確認する。
喉が渇いている。
「すまないが、いただこう」
女性は水差しからコップに水を入れ、コップを差し出してくれる。
「感謝する」
コップを受け取り、水を飲み干す。
体が水を欲しがっていたのか、体に染み渡る。
飲み干したコップを女性に返す。
「それでは、わたしはジュウベイさんが起きたことを、サタケさんにお伝えしてきます」
女性は空になったコップを受け取ると、部屋から出て行く。
俺はあらためて周囲を見る。
ここは病室か?
どうして、ここに俺が……。
ユナと戦った記憶が戻ってくる。
「つまり、俺は負けたのか」
ユナと戦って完膚なきまでに負けた。
攻撃は躱され、手加減され、最後は顔を殴られた。
その後の記憶は残っていない。
顔を触る。
殴られた感触は残っているのに、痛みはない。
負けたうえに、治療までしてくれたのか。
さらに気を失った俺を、ここまで運んでくれたみたいだ。
重ね重ね迷惑を掛けてしまった。
「どのくらい俺は寝ていたんだ?」
窓を見ると明るい。
立ち上がり、窓に近づき、窓を開ける。
気持ちいい風が入ってくる。
日の高さを確認する。昼は過ぎているようだ。
負けた。
負けることは分かっていた。
ただ、もう少し、いい勝負になると思っていた。
自分の意志を曲げてまで、妖刀を使ったのに……。
初めてユナと戦い、負けたときから、いつか再戦はしたいと思っていた。
あの年齢で、どれほどの戦いの経験をしてきたのか。
魔物と怖がることもなく戦い、武器を人から向けられても、剣先をギリギリで躱す胆力。
俺の刀を真っ直ぐな目で見つめ、武器の長さの不利を埋めるために紙一重で躱す。
天才って言葉で片付けたくなる。
でも、天才でも恐怖心を無くすことはできない。
練習では強くても、死と隣り合わせの戦いとなれば、体が硬直して、思うように動けなくなる者を多く見てきた。
剣技にあれほどの実力を持ち、大蛇を倒せるほどの魔力と魔法を放つことができる力。
神の領域。
結局のところ、ユナの実力を全て引き出すことはできなかった。
今度は純粋に剣技だけの戦いを申し込んでみるのもいいかもしれない。
負けたばかりなのに、次の戦いのことを考えている自分がいる。
それも、ユナとの戦いが面白かったのが原因だろう。
力を出し切って負けた。
ユナは受け止めてくれた。
悔いはない。
悔いはないが、もう一度戦いたい。
いや、何度だって戦いたい。
窓から離れ、部屋を見ると籠の中に俺の服があった。
俺は服を手にすると着替え始める。
手や体に傷がある。治してくれたのは殴った顔だけみたいだ。
でも、手や体の傷をみると、本当に戦って負けたんだと実感する。
夢ではない。
上着を着たとき、襖が開き、人が入ってきた。
国王様、サタケ、シノブ、カガリ様、ユナの5人だ。
先ほどの女性はサタケだけではなく、みんなに伝えたのか?
それにしても、ユナがいるとは思わなかった。
少し、気まずい気持ちがある。
俺はユナに謝罪すると、困った表情を浮かべる。
次の言葉を言おうとしたときサタケが近寄ってくる。
「ジュウベイ、おまえもクマの嬢ちゃんに負けたみたいだな」
おまえも?
話を聞くとどうやら、サタケもユナと戦って負けたらしい。しかも、俺と同じように妖刀を使って負けた。
サタケの話を聞いて、笑いが出てくる。
俺だけじゃなかったんだな。
そして、ユナに戦いのことをどこまで覚えているか尋ねられる。
俺は殴られたところまでと伝えると、ユナはなにかを隠すような表情をする。
なんだったんだ?
気を失った後になにかあったのか?
気になったが、俺は国王様の前で膝をつき、今回のことを謝罪する。
どんな罰も受けるつもりだった。
でも、厳重注意だけで終わった。
あれだけのことをしたのに、ユナが俺に対して重い罰を望まなかったからだ。
またユナに借りができた。
俺の処罰も決まり、ユナ、カガリ様、シノブ、国王様は部屋から出て行き、サタケが残る。
「嬢ちゃんとの戦いは楽しかったか?」
部屋に残ったサタケが尋ねてくる。
「どうだろうな。妖刀の意思もあったかもしれんが、心の中では楽しかったと思えている」
今も、高揚感が残っている。
「それにしても、あんな化け物みたいに強い嬢ちゃんが本当に存在するんだな。ああ、化け物って言ったことは嬢ちゃんに言うなよ」
あんな可愛らしいクマの格好した女の子を化け物と思ったことはない。
「さっき、サタケもユナと戦って負けたと言っていたが」
「ああ、二度戦った。一度目は実力を確かめるために、二度目は妖刀の力を使って」
俺だけじゃなかった。
「なに笑っているんだ? ジュウベイも負けたのだろう」
どうやら、俺はサタケの話を聞いて、笑っていたらしい。
「ああ、清々しいほどに負けた」
「そういえばジュウベイ。妖刀狂華に飲み込まれていた時の記憶は本当にないのか?」
「妖刀狂華に飲み込まれた?」
なんのことだ?
「さっき、嬢ちゃんが殴られた後のことを覚えているか尋ねただろう」
「ああ」
俺は覚えていないと答えた。
「どうやら、お前さんは妖刀狂華に飲み込まれてたらしいぞ」
「……?」
「嬢ちゃんから、おまえさんが持っていた妖刀を封印強化するために預かって、保管室に持っていった。一応、念の為に妖刀を確認したら、折れた刀身が入っていた」
記憶がない。
「それで、嬢ちゃんにここに来るまでに折れていることを尋ねたら、お前さんが妖刀狂華に飲み込まれ、襲ってきたから、妖刀狂華を斬ったと教えてくれた」
だから、妙な質問とあんな表情をしていたのか。
でも、気になる言葉をサタケが発していた。
「刀を折ったのでなく、斬った?」
「ああ、カガリ様の刀を借りて、おまえさんが持つ妖刀狂華を斬ったらしい。妖刀の確認のために鞘から抜くと刀身が真っ二つになっていたから、確認したんだよ」
全然、覚えていない。
「サタケ、その刀を見ることはできるか?」
「保管室にあるが……」
俺はサタケとともに妖刀が保管されている保管室に向かう。
そして、妖刀狂華を前にする。
「封印されているが、気をつけろよ」
妖刀狂華を手にするが、反応はない。ちゃんと封印はされているみたいだ。
俺は鞘から刀を抜く。
本当に二つになっていた。
布で刃を持ち、切り口を見る。
綺麗に斬れている。
折れたのとは違う。
「俺も見たときは驚いた。綺麗だろう」
「どうして、俺は覚えていないんだ」
「お嬢ちゃんの話だとおまえさんが気を失ったあと、妖刀に操られるように動き出したと言っていた」
覚えていない。
「それで、おまえさんの行動を止めるために、妖刀狂華を斬ったそうだ」
つまり、妖刀狂華に操られている俺が持つ妖刀狂華を斬った。
そんな神業が目の前で起きていたのに覚えてない。
見ていないのが悔やまれる。
「サタケ、襲い掛かってくる相手の刀を斬ることが、できるか?」
「できると言いたいが、できないだろうな。折ったことは何度もあるがな」
斬ると折るでは違う。
俺は二つに分かれた刀身を鞘に戻す。
折れた妖刀は、時間が経つとくっつくと言われている。
この刀も、いつかは元に戻るだろう。
刀を元の場所に戻し、並んでいる妖刀を見る。
「全て回収できたみたいだな」
「ああ、カガリ様とクマの嬢ちゃんには感謝だな。おまえさんから2本も回収したんだからな」
サタケは嫌みっぽく言う。
「それを言うならユナは妖刀を持ったサタケから回収したってことにもなるだろう」
「…………」
俺の切り返しに、サタケは口を閉じるが、すぐに切り返してくる。
「俺はちゃんと、城まで持ってきたから、おまえとは違う」
サタケは勝ち誇った顔をする。
でも、疑問点がある。
「なら、どうしてユナと戦うことになったんだ?」
サタケは言いにくそうな表情をする。
「妖刀を引き渡す前に、おまえと嬢ちゃんとの再戦を望んだ。でも、おまえはどこにいるか分からなかったから、嬢ちゃんが俺の相手をすることになった」
「そして、戦って負けたと。俺と同じじゃないか」
笑いがでる。
久しぶりに笑った。
俺と同じことをしている。
「俺は城に持ってきた。おまえは持ってきていないから、違う」
「そのぐらい誤差だろう。変わらないだろう」
「違う」
サタケは譲らない。
「…………」
「…………」
「もう、この話はやめよう」
「そうだな」
不毛な争いだ。
他人から見たら、くだらない。
俺はサタケに話しかける。
「サタケ、手合わせをしないか?」
「はぁ? 今からか?」
サタケは信じられないものを見るような表情をする。
サタケとの手合わせは、最近はしてない。
隊長同士ってこともあり、負けたときに部下への示しがつかなくなるので、お互いに避けていた。
それにお互いに忙しいこともあり、時間が合わなかったこともあった。
「ジュウベイ、おまえは昨日の夜、嬢ちゃんと戦ったばかりだろう。しかも、気を失うほどに負けて」
わざわざ、負けたってこと強調する。
どうやら、俺がボロボロに負けたことが嬉しいらしい。
サタケとユナとの戦いも見たかった。
さっきから、悔やんでばかりだ。
「大丈夫だ。おまえさんを相手にするぐらいはできる」
体調はいい。
ユナに殴られたところも痛くない。
疲労は少し残っているが、戦えないほどではない。
サタケは少し考え、「いいだろう」と答える。
「それじゃ、嬢ちゃんに負けた同士、戦うか」
それから俺とサタケは気が済むまで、手合わせをした。
楽しかった。
俺もサタケも笑っていた。
ユナと戦った事が経験になったのか、強くなったように感じられた。
それはサタケも同様みたいだった。
まだ、強くなれる。
いつか、またユナに再戦を申し込もう。
その後、俺とサタケが戦ったことを知ったスオウ王に叱られた。
ユナの刀の件がありますが、これで妖刀編は終了です。
途中で設定を変えたり、間違ったりして、グダグダがあり申し訳ありませんでした。
妖刀は有名漫画に出てきた斬馬刀みたいな大きな刀も考えたりしていたのですが、誰が持つの? どうやって盗む問題もあり、消えました。
対戦の組み合わせもいろいろと考えていました。
ユナVSカガリ(カガリさんが大人になってたりしてなど考えていました)
シノブVSジュウベイ(弟子と師匠対決)
シノブVSサタケ(このあたりも面白いかもと思ったり)
カガリVSジュウベイ(和の国、最強対決)
そう考えると黒男はいらなかったかも? でも初期設定で黒男がいたので、無かったことはできなかったかも。
あと、気に掛けたことは、なるべくユナ1人だけが活躍しないように考えていました。
そしたら、ユナとカガリさんが中心になっていました。※おまけでシノブが活躍する。
ユナVSジュウベイ、カガリVS黒男の戦いが終わったあと、ユナVSカガリも考えたのですが、物語の繋がりが難しく、無くなりました。
いろいろとありましたら、妖刀編、読んでくださって、ありがとうございました。
まだ、ユナの物語は続きますので、お付き合いしていただけると嬉しいです。
次回投稿は、予定通りに4日後ですが、遅れたらすみません。(設定悩み中なので)
くまなの




