923 カガリさん、黒男と戦う その1
ジュウベイとの約束の場所にユナと一緒にやってきた。
城下町の外れ、人の気配は微かに感じるが、どこにいるか分からない。
「いないのう」
妾が呟くとユナは「いるよ」といい、クマの形をした光の魔法を左右に放つ。
さらにユナは「出てきたら」と言う。
ユナの言葉で、クマの光の魔法で照らされた場所からジュウベイと男が現れる。
相変わらず、簡単に居場所を見つけるのう。
それとも、くまゆるたちのおかげか。
こやつのクマは魔物や人の居場所を把握できるからのう。
妾はくまゆるに触れる。
現れたジュウベイと男はユナの取り合いをする。
本当に人気があって嫉妬するぐらいじゃ。
まあ、代わりたいとは思わぬが。
じゃが、当初の予定どおりに妖刀右京を持っているジュウベイは妾が相手をしようと思ってジュウベイを見る。
ジュウベイの腰にある刀に見覚えがない。
妖刀右京ではない。
それじゃ、妖刀右京は?
男を見る。
男の腰には見覚えがある刀があった。
妖刀右京。
なぜ、この男が持っておる?
妖刀右京をこの男が持っているなら、話は変わってくる。
ジュウベイではなく、この男が妾の相手じゃ。
「この男の相手は妾がしよう」
妾は歩き出し、男の前に立つ。
ユナは驚く。
「カガリさんの相手はジュウベイさんでしょう」
「そのつもりじゃったが、なぜかこっちの男が妖刀右京を持っておる」
「これですか?」
男が刀を見る。
「なぜ、お主が持っておる。今までの情報を加味すれば、お主は妖刀魔花を持っておるはずじゃ。そして、その妖刀右京はジュウベイが持っておるはず」
男は刀を手にする。
汚い手で触るな。
「どういう経緯でお主の手に、その妖刀が手に渡ったか分からんが、その妖刀を持っているなら、妾が相手をする」
「この刀を持っている理由ですか? それは数日前に、その男と戦っただけですよ。そのときにお互いに持っていた武器が入れ替わった。それだけです」
ジュウベイを見ながら言う。
戦いの結果は痛み分けだったみたいだ。
そして、お互いにユナと戦ってから、再戦するつもりだったと言う。
ユナに勝てると思っているなら笑えてくる。
この数日間、ユナと手合わせをしたが、ユナの実力は測れない。
だから、妾は言う。
「残念じゃが、お主たちの願いは叶わぬ。お主は妾に負け、ジュウベイはユナに負ける」
「どうして、わたしがあなたのような子供と戦わないといけないのですか? 前に持っていた妖刀はお嬢ちゃんの魔力に反応していた。でも、今は違う……」
刀を握った男の言葉が止まる。
「その刀はなんと言っておる」
「……お前を斬りたい」
「それが、妖刀の意思じゃ。それで、お主はどうする? 妾に勝てば、ユナと戦える権利をやろう」
「あはは、面白い。茶番に付き合ってあげましょう。わたしは子供でも容赦はしませんよ」
妾は子供でないが、男に言うことはしない。
男はジュウベイを見る。
「クマのお嬢さんとの相手は譲りましょう」
男はジュウベイに言ってからユナを見る。
「クマのお嬢さんとの相手は譲りましょう。だから、クマのお嬢さん、負けないでくださいよ」
「お主は、妾に負けるから、その願いは叶わぬぞ」
「ふふ、そうですね。まずはあなたを倒してからの話ですね」
負けるつもりはない。
だから、こやつがユナと戦うことはない。
「妾たちはあちらで、戦うぞ」
妾と男はユナたちから離れる。
近ければ、お互いの邪魔になる。
明かりが必要かと思ったが、ユナの作ったクマの形をした光が、妾たちに付いてくる。
気を使ったみたいじゃな。
第三者の光なら、工夫はできない。
男が作り出しても、妾が作り出しても、不公平になる。
暗闇での明かりは戦いの勝敗を分けることもある。
明かりを消されるのでは? とお互いに疑心暗鬼になる。
それでは公平の戦いにはならない。
「このあたりでよかろう」
「そうですね」
お互いに距離を取ると刀を抜く。
「戦う前に尋ねるが、その刀を渡して、捕まる気はあるか?」
「ないです」
男は即答する。
「そうか。なら、なにも言うまい」
戦って勝つだけじゃ。
踏み込む。
一瞬で間合いを詰め、下から上へ切り上げる。
簡単に躱される。
想定内。
連続攻撃。
じゃが、男は滑らかに受け流す。
やはり無理か。
妖刀右京の性質。
過去の持ち主の技術が使える。
「この武器は本当にすごい。いろいろなことを教えてくれました。この数日間、寝るのを惜しんで振るいましたよ」
「たったの数日で、その刀を理解したつもりか」
「それで十分です」
男が言う通りに、かつて持っていた男は受け流しがうまかった。
前に戦ったときも、攻撃が受け流された屈辱がある。
でも、速度を上げれば。
じゃが、全ての攻撃を受け流される。
「この国の子供って、あなたのように強いのですか?」
「妾が特別じゃ」
「よかった。あなたのような子供がたくさんいると思うと、怖いですからね」
男は嬉しそうに言う。
ユナが言っておったが、本当に戦いが好きみたいだ。
妾みたいな子供相手でも、戸惑うこともなく刀を振り下ろしてくる。
「それにしても世界は広いですね。あなたのような子供がいるなんて」
「妾みたいな子供は世界中にも妾しかいないから、子供に手を出すんじゃないぞ。いや、できぬか。お主はここで捕まるのじゃからのう。最悪、死ぬかもしれぬ。そのときは恨まず、死んでくれ」
刀を構える。
「それはできない相談ですね。あなたに勝ったら、クマのお嬢さんと戦わないといけませんから。それから、あの眼帯の男とも再戦したいですね」
男は楽しそうに言う。
「同じ言葉で悪いが、それはできぬな」
「それはどうでしょうか」
妾と男の戦いが始まる。
元々、実力があるのか、強い。
さらに妖刀右京の力が上乗せされている。
「この技を躱しますか」
妖刀右京から繰り出される技は過去に経験済みだ。
だからと言って、簡単に躱せる技ではない。
「背が低いことに感謝ですね」
確かに、技は大人を倒すために作られた技がほとんどだ。
子供を倒すために作られた技なんて、ないと言ってもいい。
本来あるべき頭が、身長が低いため、技の想定位置にない。
斬る位置に斬る相手がいない。
技というものは、少しのズレが流れを止めてしまう。
1mの身長の相手をするのと2mの身長の相手をするのでは戦い方は違う。
それは妾にも言えること。
子供の体型で、大人相手に戦ったことはほとんどない。
だから、ユナと戦って、この体でも戦えるようにした。
「それでは、これはどうですか?」
男が腰を下ろし、刀を突き出す。
突きの構え。
あの構えは覚えがある。
ジュウベイの突きだ。
集中しろ。一瞬の隙が致命傷になる。
剣先を見ろ。目を見ろ。肩を見ろ。足を見ろ。全体を見ろ。呼吸を感じろ。
体が動いたと思った瞬間、間合いが詰まり、剣先が向かってくる。
一突き目、体を反らし、躱す。
二突き目、右に躱す。
三突き目、刀で弾く。
「ほう、躱しますか」
「その技は何度か、見たことがあるからのう」
見たことがあることと躱せるかは別だ。
できれば、三回とも躱したかった。
三突き目を弾いたことで、手がしびれている。
「この技を妖刀から教わったとき、強いと思ったのですが」
「十分に強い。ただ、本物に比べたら、お主の突きは劣る」
だから、避けることができ、防ぐことができた。
ジュウベイの三段突きのまがい物。
だが、本物に近い。
二度目となれば、分からない。
「あの眼帯男より劣ると言われると屈辱ですが、真似ですからしかたないですね」
妾は息を吐く。
会話をしたことで、しびれが取れてきた。
「手のほうは大丈夫そうですね」
「気づいていたのか?」
「すぐに終わったら、楽しみが無くなってしまいますからね」
「その慢心が、致命傷にならないと願うのじゃな」
「この程度で負けるなら、わたしが弱かっただけです」
性格は違うが、ジュウベイと同じ戦いを好む者じゃな。
違いは、ジュウベイの戦いは強くなるため。
この男の戦いは楽しむため。
「そろそろ、再開しましょうか」
「ああ、次からは手心はいらんぞ。手がしびれたとしても、しびれたなりの戦いがある。お主も、手加減をされたら、気に障るじゃろう」
「あなたも、戦い好きですか?」
「戦いは好きではないが、手加減されるのは好きではない」
「それは申し訳ありません。戦いが楽しいと、どうしても楽しんでしまうので」
「それは違うのう。お主は弱い者をいたぶるのが好きなだけじゃ。妾が弱いと判断し、手加減しても勝てると思ったから、妾のしびれが取れるのを待っていた」
「会ったばかりなのに、分かったように言いますね」
「お主のような人間に何人も会ってきたからのう」
「子供なのに、面白いことを言うお嬢さんだ」
自分のことを分かっていない。
「例を出せば、ユナとは他の国で出会ったそうじゃな。もしユナと戦いたいと思っているなら再戦を申し込めばよかったはずじゃ。じゃが、お主はこの国に逃げてきた」
「……それは、クマのお嬢さんが、どこにいるか分からなかったからです」
「ユナはあんな格好をしているのだから、見つけ出すことは容易じゃろう」
ユナの格好は普通の服装でないぐらいは妾でも分かる。
少し調べれば、ユナの居所は分かったはずじゃ。
それをしなかったのはユナに勝てないと分かっていたからだ。
「でも、お主はそれをしなかった。この国に逃げてきた。そして、妖刀を手に入れ、妖刀の力を知った。そして、偶然に、この国でユナに出会った。妖刀の力があればユナに勝てると思ったのじゃろう」
「……違います」
「それじゃ、自分の心に聞いてみろ。妖刀がなくてもユナと戦いたいのか」
妾の言葉に男は静かになる。
同意も反論もしない。
「あなた、本当に子供ですか?」
目つきが細くなり、睨みつけてくる。
「さあ、どうじゃろうな」
「本当に、ムカつく子供ですね。あのクマ女といい。わたしが戦うのを好きなのは本当のことだ。ただ、負けるのは嫌いなだけです」
「それを弱い者いじめと言うのじゃよ」
じゃが、戦い好きなのは本当じゃろう。
そこに勝てる戦いがって言葉が前に付く。
まあ、理性があるぶん、バカではない。
勝てない相手に戦いを挑むのはバカな者だけじゃ。
ジュウベイのような。
だが、この男はユナの本当の実力を分かっていない。
だから、妖刀があれば勝てる? いい勝負ができると思っているのじゃろう。ユナが手加減なしに戦えば、誰も勝てぬじゃろう。
「そして、お主は妾に勝てぬ。そして、逃がさない」
妾は刀を構える。
「ふふ、面白いお嬢さんだ。子供の躾は大人の役目ですね」
男も刀を構える。
「同意じゃ」
年下の躾は年上の役目じゃ。
お互いの足が動く。
カガリさんと黒男の戦いが始まりました。
あけましておめでとうございます。
もう、年明けですね。
去年はくまクマ熊ベアーに付き合っていただきありがとうございました。
そして、今年もくまクマ熊ベアーに付き合っていただけると嬉しいです。
次回の投稿ですが、正月休みをいただければと思います。(一週間後ぐらい? 未定)
現在、コミックPASH!neoにて、くまクマ熊ベアーのコミカライズが全話無(139話)料公開中です。
時間がありましたら、よろしくお願いします。
期間:1/7まで
現在、※MITACLE様より、ユナがブロック化することになりました。
詳しいことは活動報告を見ていただければと思います。
予約期間:2025/12/01(月)〜2026/01/16(金)
※「くまクマ熊ベアー」のコミカライズが読める「コミマガ」のアプリが始まりました。ちなみに他社作品の有名作品も読めますので、よろしくお願いします。あと、お気に入りに入れていただけると嬉しいです。
※くまクマ熊ベアー10周年です。
原作イラストの029先生、コミカライズ担当のせるげい先生。外伝担当の滝沢リネン先生がコメントとイラストをいただきました。
よかったら、可愛いので見ていただければと思います。
リンク先は活動報告やX(旧Twitter)で確認していただければと思います。
※PRISMA WING様よりユナのフィギュアの予約受付中ですが、お店によっては締め切りが始まっているみたいです。購入を考えている方がいましたら、忘れずにしていただければと思います。
※祝PASH!ブックス10周年
くまクマ熊ベアー発売元であるPASH!ブックスが10周年を迎え、いろいろなキャンペーンが行われています。
詳しいことは「PASH!ブックス&文庫 編集部」の(旧Twitter)でお願いします。
※投稿日は4日ごとの22時前後に投稿させていただきます。(できなかったらすみません)
※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合はX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)
※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ公開中(ニコニコ漫画、ピッコマ、pixivコミックでも掲載中)
※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝公開中(ニコニコ漫画、ピッコマ、pixivコミックでも掲載中)
お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。
【くまクマ熊ベアー発売予定】
書籍21巻 2025年2月7日発売しました。(次巻、22巻、作業中)
コミカライズ13巻 2025年6月6日に発売しました。(次巻14巻、発売日未定)
コミカライズ外伝 4巻 2025年8月1日発売しました。(次巻5巻、未定)
文庫版12巻 2025年6月6日発売しました。(次巻13巻、発売日未定)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。




