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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける

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931/934

907 ジュウベイ、妖刀を回収する

 妖刀……持ち主に力を与えてくれる刀。

 武器は人が強くなるための方法の一つだ。

 戦う者は一流の武器を求めるもの。

 切れ味がいい武器。

 切れ味が落ちない武器。

 破壊力がある武器。

 魔力が通りやすい武器。

 軽い武器。

 折れない武器。

 バランスがいい武器。

 戦う者はより性能がいい武器を求める。

 それが強くなる方法であり、生き残るためだ。

 ただ妖刀には無差別に殺す妖刀もあると言われている。

 そんな妖刀は城で管理していたが盗まれた。

 保管してあった部屋は荒らされており、盗まれた妖刀の種類、数も把握できていない。

 しかし俺には、ある妖刀がないことにすぐ気が付いた。

 妖刀魔花。

 城で封印される前の持ち主が兄弟子だったもの。

 俺と兄弟子は師匠の元で学んでいた。

 そんな兄弟子は笑顔で「お前は才能があっていいな」と言っていた。

 兄弟子はいつも早くから始め、遅くまで練習をしていた。

 でも、試合をすれば俺が勝っていた。

 兄弟子の動きは単調で、読みやすかった。

 師匠は俺の目がいいと言ってくれた。

 周りからも天才と言われた。

 時間が経てば経つほど、兄弟子との差が広がり、師匠は後継者を俺に決めた。

 そのときは兄弟子は笑って「おめでとう」と言ってくれたが、次の日、兄弟子は姿を消した。


 それから数年後、兄弟子が現れたとき、兄弟子の手には妖刀が握られていた。

 俺に復讐するためだった。

 生まれ持った才能を持っていること、いくら頑張っても届かないところにいること。

 後継者に選ばれ、全てを奪い取った俺が許せなかったと言われた。

 兄弟子から嫉妬、恨み、憎しみ、いろいろな感情を向けられた。

 兄弟子は俺に勝つために妖刀を手に入れた。

 俺は兄弟子と戦うことになった。

 俺の魔法は妖刀に吸われ、成長した兄弟子の剣技に押された。

 兄弟子は成長していた。

 そんな兄弟子に手加減することなんてできず。

 少しのミスが死を招く。

 お互いの体からは血が流れ、紙一重で俺の三段突きが兄弟子の心臓に突き刺さった。

 他の場所に隙はなかった。

 兄弟子は心臓は狙わないと思っていたのかもしれない。だから、他の場所を守ったのかもしれない。

 ただ俺は無心の戦いの中で、隙ができた心臓を貫いていた。

 体が勝手に動いていた。

 吸い込まれるように刀を心臓に向けていた。

心臓を刺された兄弟子は、笑って「すまない」と言って、俺の腕の中で息を引き取った。

 殺すことでしか止められなかった自分を恨んだ。

 天才と呼ばれていたなら、兄弟子を止められる力がほしかった。


 兄弟子が持っていた妖刀は城で保管されることになった。

 その妖刀魔花が保管室から消えていた。

 他の妖刀のことは覚えていなくても、あの妖刀だけは覚えている。

 兄弟子が俺に斬り掛かってきた刀。

 忘れることはない。

 あの刀だけは俺が回収しないといけない。

 二度と同じ過ちを犯してはいけない。

 スオウ王に妖刀の回収の命を受けた俺は、部下たちに刀で起きる事件を集中的に調べるように指示を出す。

 同様に妖刀の回収の命を受けたサタケと話し合い、城の外は俺が、情報管理などの指示はサタケがすることになった。


 そして、偶然にも早々に妖刀の一本を回収することができた。

 でも、妖刀魔花ではなかった。

 なんの妖刀か分からないが、刀を持つと過去の持ち主の剣技が体に流れてくる。

 どんな技なのか、どんな攻撃ができるのか、手にとるように分かる。

 興味を惹かれた俺は人目がつかないところに移動する。

 周囲に誰もいないことを確認すると、鞘から妖刀を抜いて剣技を確かめてみる。

 相手の攻撃を受け流す技。

 相手の攻撃を弾く技。

 連続斬り。

 抜刀。

 そして、三段突き。

 上から葉が落ちてくる。

 二度、刀を振るう。

 葉が四つに斬れる。

 剣士が、妖刀を欲しがるのも分かる。

 技を繰り出した俺は刀を鞘に戻す。

 妖刀が相手を求めているのが伝わってくる。

 戦いたい、自分の技を確かめたい。

 この刀の持ち主たちの感情が流れてくる。

 そんな感情を振り払う。

 あとで使ってやるから、静かにしろ。

 妖刀魔花を誰が持っているか分からない。

 この妖刀が役に立つかもしれない。


 妖刀を一本回収することができたが、他の妖刀は回収できずにいた。

 町を歩いていると、ちょっとした情報を得ることができた。

 刀を持った人物が裏町で暴れたと。

 裏町は、そういった人間が集まるところでもあるが、裏町のことを知っている者なら暴れる者はいない。

 あそこはトラブルを持ち込む者を許さない。

 新参者なのか、酔っ払いが暴れただけかもしれない。

 でも、そんなところで刀を持って暴れたのが気になる。

 今のところ目新しい情報はないので、確認しに行くことにした。

 顔を知られている可能性があるのでフードを被り、裏町に向かう。

 適当な屋台で食い物を買いながら、刀を持って暴れた男について情報を集める。

 刀を持った男が裏町で暴れたのは確からしい。

 そして、裏町を管理する男たちによって殺されたと。

 そのときに怪我人なども出たため、死んだ男の私物を売って金にすることになったと。

 男が持っていた刀は、男が持つには相応しくないほどの美しい刀だったと言う。

 それを高く売るため、今夜の競売に掛けられることになったと言う。

 妖刀の可能性が高い。

 競売所の場所を教えてもらい競売所に向かう。

 だが、競売所の中には入れない。

 扉の前に立つ男が俺には競売所に入る資格がないという。

 しかも、競売はすでに始まっているという。

 ここは無理矢理にでも入るか?

 それともどこか、入れる場所を探すか?

 そう思っていると、扉の中が騒がしくなり、人が出てくる。


「なにがあった?」


 扉を守っていた男が扉から出てきた男に尋ねる。


「ソウキチが刀を持って暴れて、ガクト様が避難させる指示を出した」


 妖刀か。

 開いている扉から中に入ろうとすると、扉の前にいた男に止められる。


「待て」


 扉の前に立っていた男が立ち塞がる。

 さらには周りからも男たちが集まってくる。


「だから、資格がない者は入れないと言っているだろう!」


 男が殴り掛かってくる。

 軽く躱し、腹を殴る。


「なんだ。貴様は」


 扉から出てきた男たちが倒れた男を見て、俺に襲ってくる。

 一瞬、鞘に手を伸ばすが、相手は素人と気づく。

 妖刀を手に入れてから、鞘から抜きたくなる衝動にかられる。

 技を確かめたい。斬ってみたい。

 心を落ち着かせるが、男たちはそんな気も知らずに襲ってくる。

 一歩後ろに引き、男の拳を躱し、男の顔を殴る。

 後ろから近づいてくる足音がする。後ろを振り返らず、腕を振るう。

 拳が腹に入る。

 殴るたびに襲ってくる男たちの数が減っていく。

 そして、誰も襲ってこなくなる。

 それが終わりの合図だと認識し、扉へ向かう。

 扉を開け、長い通路を歩くと扉が閉まっている。

 押すが、開かない。

 少し下がり、風魔法で扉を吹っ飛ばす。

 通路を抜けると、広い会場のような場所にでる。

 その広い会場に2人いる。

 片方は男で、もう片方は女だった。


「し、師匠。どうして、師匠がここに?」

「シノブか」


 女はシノブだった。

 シノブも妖刀を手に入れるために?

 男が持っているのが妖刀みたいだ。

 俺は妖刀を確認するため、2人に近づくと、妖刀を持っている男が話しかけてくる。


「なんだ、おまえは? 俺たちの戦いの邪魔しに来たのか?」

「邪魔をするつもりはない。だが、それを持つなら、別だ」


 男が持っている妖刀は妖刀魔花ではなかった。

 だが、放っておくわけにはいかない。

 妖刀は危険だ。全て回収しないといけない。

 それと同時に、心の中で妖刀の持ち主と戦いたいと思っている自分がいる。

 俺は妖刀を抜き、男の前に向かう。


「貴様、強いな」


 男の言葉に笑ってしまう。

 俺が強い?

 笑わせるな。


「15年しか生きていない女の子に負け、国が危険にさらされたときも無力だった。国の命運を15歳の女の子に背負わせてしまった。そんな俺が強いと?」


 男の言葉に過去の俺の無力さが思い出されていく。

 妖刀に取り憑かれた兄弟子を助けることができなかった。

 それだけじゃない。俺が弱くて、助けられなかった命だってある。


「よく分からないが、俺に八つ当たりするな。貴様が弱いのは貴様自身のせいだろう。まあ、俺もそこの女に負けたから、人のことは言えないが」


 八つ当たり。

 確かに、そうかもしれない。

 自分の無力さに、弱さに。

 妖刀が盗まれたことによって、思い出した兄弟子のこと。自分の弱さ。

 兄弟子の死から研鑽を続け、強くなったつもりだった。

 でも、年端もいかない少女に負けた。

 クマの格好した可愛らしい少女。

 その少女に和の国の運命を背負わせてしまった。

 クマの少女のことを考えていると、シノブが妖刀の回収を手伝ってくれていると言う。

 また、あの少女の力を借りることになったのか?

 自分が信用されていないこと。

 彼女が信用されているということ。

 情けない。

 だが、周りは知っているのか、あの少女は優しすぎて、人を殺せないことを。

 戦ってみて分かった。あの少女は強いが人を殺すことはできない。

 少女が大切にしているクマを殺そうとしても、少女は俺を殺そうとはしなかった。

 彼女が強かったから、俺を殺さなくても倒せたからかもしれない。

 でも、その甘さが、いつか命取りになる。

 そして妖刀に取り憑かれた者は、その甘さを突いてくる。

 目の前の男は妖刀に取り込まれることもなく、妖刀を持っている。

 まだ影響を受けていないのか、妖刀の意思に逆らっているのか分からないが。

 妖刀を回収するのが俺の仕事だ。

 俺が刀を持って男に近づくと、男も刀を構える。

 悪くない。

 この男は強い。

 だけど、俺に恐怖心はない。

 男の動きは速かった。

 妖刀の力を確かめるのには十分な相手だ。

 男の刀を受け流す。

 いつもよりも滑らかに受け流すことができる。

 腕にかかる負担が少ない。

 自分の足の動き。

 刀が教えてくれているような気がする。

 刀を動かすと、体も一緒に動く。

 今まで身に付けてきたことが不完全だったことに気付かされる。

 まるで自分の動きではないようだ。

 男が突きの構えをする。

 面白い。

 俺も同じように突きの構えをする。

 男の足が動いたと同時に動く。

 男の突きは鋭かったが、ゆっくりと動いているように見える。

 もう十分だ。

 終わらせることにした。

 妖刀を持っているのに、この程度なのが残念だ。

 突きを繰り出し、男の肩に突きを当てる。

 男は倒れ、妖刀が手から離れる。

 その刀を拾う。

 持っている妖刀とは別な感情が湧いてくる。

 1本目は人に向けて技を使いたいという感情が湧いてきていたが、この妖刀は人を斬りたいという感情が湧いてくる。

 シノブを見る。

 シノブに妖刀を預けるのは危険だ。


「シノブ、鞘を」


 シノブはすぐに床に転がっていた鞘を持ってくる。

 鞘に刀を納める。


「師匠、どこに行っていたっすか?」


 俺はその問いには答えず「嬢ちゃんに妖刀は俺が回収すると伝えておいてくれ」とだけ言い残し、入ってきた入り口に向かう。

 


遅くなり申し訳ありません。

プロットでは、細かいところまで考えていなかったので、ジュウベイの行動のすり合わせが上手に書けずにいました。


※試しに、なろうチアーズプログラムに登録しました。

2025年10⽉28⽇(⽕)より開始予定となっています。

あまりにも酷い広告でしたら考えます。


※くまクマ熊ベアー10周年です。

原作イラストの029先生、コミカライズ担当のせるげい先生。外伝担当の滝沢リネン先生がコメントとイラストをいただきました。

よかったら、可愛いので見ていただければと思います。

リンク先は活動報告やX(旧Twitter)で確認していただければと思います。


※PRISMA WING様よりユナのフィギュアの予約受付中ですが、お店によっては締め切りが始まっているみたいです。購入を考えている方がいましたら、忘れずにしていただければと思います。


※祝PASH!ブックス10周年

くまクマ熊ベアー発売元であるPASH!ブックスが10周年を迎え、いろいろなキャンペーンが行われています。

詳しいことは「PASH!ブックス&文庫 編集部」の(旧Twitter)でお願いします。


※投稿日は4日ごとの22時前後に投稿させていただきます。(できなかったらすみません)

※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合はX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)

※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ公開中(ニコニコ漫画、ピッコマ、pixivコミックでも掲載中)

※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝公開中(ニコニコ漫画、ピッコマ、pixivコミックでも掲載中)

お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。


【くまクマ熊ベアー発売予定】

書籍21巻 2025年2月7日発売しました。(次巻、22巻、作業中)

コミカライズ13巻 2025年6月6日に発売しました。(次巻14巻、発売日未定)

コミカライズ外伝 4巻 2025年8月1日発売しました。(次巻5巻、未定)

文庫版12巻 2025年6月6日発売しました。(次巻13巻、発売日未定)


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
>俺と兄弟子は師匠の元で学んでいた >時間が経てば経つほど、兄弟子との差が広がり、師匠は後継者を俺に決めた ジュウベイさんの「師匠」と云うのはどんな人だったのでしょう?。 兄弟子やジュウベイさん以外…
>お互いの体からは血が流れ、紙一重で俺の三段突きが兄弟子の心臓に突き刺さった >ただ俺は無心の戦いの中で、隙ができた心臓を貫いていた >心臓を刺された兄弟子は、笑って「すまない」と言って、俺の腕の中で…
感想欄で見かけたのですが。 「シノブも、草葉の陰から見ている」 この表現は、シノブはすでに亡くなっていて(!)あの世から見守っているという意味になります。 シノブは生きているからその表現は避けて…
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