906 サタケ、妖刀と戦う
サタケが行方不明になった時間まで遡ります。
あと、申し訳ありません。
896話でサタケと一緒に妖刀のところ向かったのが部下2人と書きましたが、1人にさせていただきました。ご迷惑をおかけします。(896話修正済み)
妖刀……言い伝えでは持ち主に力を与え、本来の実力以上の力を発揮できると言われている。
そのため、多くの剣士が妖刀を欲しがった。
妖刀の奪い合いが起き、殺し合いに発展した。
さらには妖刀の力に飲み込まれる者も現れ、無差別に人を殺す事件も起きた。
そのため妖刀は危険な刀として国が管理することになったが、城から盗まれた。
その妖刀を回収するように命じられたのは俺とジュウベイだった。
ジュウベイの実力は高く、手合わせをしたことがあるが完敗だった。
俺の攻撃は躱されるが、ジュウベイの三段突きは躱せなかった。
そんなジュウベイが年端もいかない女の子に負けたと知ったときは信じられなかった。
しかも、クマの格好をした女の子と聞いたときは冗談かと思った。
ジュウベイに話を聞いたが、初見で三段突きを見切ったと言う。
俺が何度見ても躱すことができなかった三段突きを、初見で躱したと。
信じられなかったが、二人の戦いを見ていた密偵からの報告で事実だと知った。
会ってみたいと思った。
そのクマの格好をした女の子は何度か城に来ていたみたいだったが、運悪く会うことはできなかった。
そして、今回、そのクマの格好をした女の子に会うことができた。
見た瞬間、すぐにあの噂のクマと分かったが、同時に信じられなかった。
クマの格好もそうだが、若い。
この女の子がジュウベイに勝ったとは信じられなかった。
だから試合を申し込んだ。
でも、負けた。
名前はユナ。
「はぁ」
今はユナにも妖刀の回収を手伝ってもらうことになったが情けない。
俺では回収はできないと言われたようなものだ。
でも、人手が足らないのも事実だ。
少しでも実力がある者が手伝ってくれるのは助かる。
現状で回収できた妖刀はカガリ様が回収した妖刀馬鉄のみ。
妖刀の情報を集めているが、大きな事件が起きていないため、回収どころか、発見さえできていない。
冒険者ギルドや警備隊などに刀の事件を中心に情報を集めさせている。
昼間、夜間は交代制の2人組で見回りをさせている。
そして妖刀を発見した場合、手を出すことはせずに1人が見張り、もう1人が連絡をするように指示をしている。
「はぁ」
本日、何度目かのため息が出る。
部下たちの指示は俺がしているが、ジュウベイの奴はどこでなにをしているんだ。
ジュウベイは国王から命を受けると、自分の部下を俺に任せて消えてしまった。
せめて一日一回ぐらい連絡を寄越せと言いたい。
自分の立場を考えろ。
深夜になり、そろそろ寝るかと思っていると、慌ただしく廊下を走る音がする。
ただごとではない。
ドアがノックされる。
「入れ」
部下のイツキが息を切らして入ってくる。
「どうした?」
「妖刀を発見、カイトが見張っています」
タイミングが悪いのか良いのか。
「場所はどこだ。案内しろ!」
俺は立ち上がり、部屋を飛び出し、城の門へ向かって走り出す。
イツキも疲れているが、俺に遅れることなく追走してくる。
多少走ったぐらいで疲れるようなやわな鍛え方はしてない。
「サタケ隊長」
門番が馬を用意してくれている。
妖刀を発見次第、俺への報告と同時に馬の手配もすることになっていた。
イツキは言い付け通り、俺のところに来る前に門番に馬の手配を頼んでいてくれた。
俺とイツキは馬に乗り、門を飛び出す。
真っ暗な城下町を走る。
月明かりが、馬に乗って走る俺たちを照らす。
馬に乗ったイツキが俺の前を走る。
「ここです」
イツキの案内でやってくるが、人影はない。
移動したか。
俺は周囲を確認する。
あった。
地面にうっすらと小さい光が見える。
その光は点々と道の先に続いている。
この光は液体であり、空気に触れると光る。そのため深夜の尾行するときに使われ、後から来る者に知らせることができる。
効果は数時間。
だから、急がないといけない。
俺たちは光を辿って走る。
そして、しばらくすると暗い中、人が立っているのを見つける。
その立っている人物の前に人が一人倒れている。
「カイト」
イツキが馬から下りて倒れている男に駆け寄ろうとすると、立っていた人物の手元が光る。
それが刀だと分かった俺は刀を抜き、カイトの前に立っていた人物の刀を弾く。
ギリギリ、防ぐことができた。
「イツキ、カイトの確認を」
イツキは倒れているカイトに駆け寄り、確認する。
「息はあります」
「カイトを連れて、ここを離れろ。こいつは俺が対応する」
イツキはカイトと俺を見ると「了解しました」と言う。
俺は刀を持っている男に話しかける。
「刀を下ろせ」
「…………」
男は返事の代わりに攻撃をしてくる。
攻撃を躱す。
速い。
でも、刀の扱いは素人。
速度と動きが合っていない。
歪な感じだ。
これが妖刀の力。
男を気にしながら後ろを確認する。
イツキがカイトを抱えて、馬に乗せている。
そして、自分を見ると、馬を走らせる。これで戦いやすくなる。俺はあらためて男を見る。
「言葉が通じているか分からないが、その刀を離す気はないんだな」
返答は言葉ではなく、代わりに刀で斬りかかってくる。
妖刀か。
初めて見るが、確かに厄介だ。素人が持っても、速度は一流。
でも、剣筋が素人。
斬り殺すのは簡単だ。
でも、妖刀に操られている者を殺すことはできない。
目の前の男も被害者だ。
カイトは殺すのを躊躇って、やられたのだろう。
素人相手に怪我を負ったことは責めたいが、相手を殺さずにいたことは褒めてやりたい。
部下が怪我をしてまで殺さずにいたのに、隊長である自分が殺すわけにはいかない。
男が斬りかかってくる。
動きは速い。
妖刀は体全体にも影響を及ぼすのか?
刀を弾く。
男の目は虚ろ、自分の意志で戦っているようには見えない。
意志が弱いと妖刀に取り込まれるとは聞いていたが、こんな状態になるのか。
刀を強く弾くが、手から刀は離れない。
腕を切り落とすか。そんなことを考えていると、男は間合いを取ると、突きの構えをする。
そんなことまでできるのか。
面白い。
稚拙な構えだが、突きの速度は一流。
だが、ジュウベイほどじゃない。
ジュウベイの突きはもっと速い。
突きを躱すが、まさかの連続突き。
一突き目は躱し、二突き目は弾く。
男の突きが止まる。
男は離れると、再度突きをしてくる。
先ほどと同じように連続突き。
何度も、それ以上の突きを見てきた。
一突き目を躱し、前にでる。
下がれば二突き目が襲いかかってくる。
「少し痛いと思うが、その刀を拾った運がなかったと思ってくれ」
一気に間合いを詰める。
右上から左下へ斬り、そのまま斬り上げ、手首を切り返して、斬り下げ、連続三連斬り。でも、男は刀で弾く。切り返しが速い。
でも、何度もその繰り返しをする。
この三連斬りは何年も身体に馴染むように修練してきた技。
頭で考えるよりも体が動く。
繰り返すように三連斬りをして、男を追い詰めていく。
攻撃をさせない。
受け止められなくなった男の足がバランスを崩す。
その隙を見逃さない。
地面を踏み込み、流れるように刀を持ち替えて、突きの構えをする。
男が体勢を整えるまえに刀を突き出す。
狙いは刀を持っている右肩。
突きは男の肩に刺さる。
でも、男は刀を離さない。
腕を引き、刀の刃を反対にして持つ。
そのまま、刀を男の首に目掛けて振り下ろす。
刃を逆にしたため、男の首は斬れなかったが、衝撃で男は崩れ落ちる。
それと同時に手から刀が離れる。
「これが妖刀」
倒れた男の横にしゃがみ、刀を拾う。
軽い。
刀から感情のようなものが流れてくる気がする。
誰よりも速く刀を振りたい。
刀を軽く振って見る。
三段斬りを確かめる。
滑らかな動き、風を切る音だけが聞こえる。
それから、あらゆる剣技を確かめてみる。
その度に、なんとも言えない高揚感が湧いてくる。
刀を振るう度に、妖刀から持ち主として認められた感覚が伝わってくる。
この刀があれば誰にでも勝てる。
どんな技も繰り出せる。
最高の速度で。
この刀でジュウベイと戦ってみたい気持ちが湧いてくる。
それと同時にクマの格好をした少女も頭に浮かぶ。
この刀があれば……。
心のどこかでダメと分かっているが、湧き上がる感情が止められない。
この刀があれば凡人の俺でも天才に勝てる。
ジュウベイと戦いたい。
クマ少女と戦いたい。
強い者と戦いたい
城のほうから人がやってくる音がする。
倒れている男の腰にあった鞘を取り、刀を納める。
妖刀を握りしめると、歩き出す。
音?とは反対の方へ。
サタケが妖刀の力に魅了されてしまいました。
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詳しいことは「PASH!ブックス&文庫 編集部」の(旧Twitter)でお願いします。
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※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合はX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)
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※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝公開中(ニコニコ漫画、ピッコマ、pixivコミックでも掲載中)
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コミカライズ13巻 2025年6月6日に発売しました。(次巻14巻、発売日未定)
コミカライズ外伝 4巻 2025年8月1日発売しました。(次巻5巻、未定)
文庫版12巻 2025年6月6日発売しました。(次巻13巻、発売日未定)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。




